第18話『魔法使いとチーズの神殿』
ピザのさらなる高みへ――。
レンたちは、村に伝わる“幻のチーズ”の伝説を追って、謎の神殿へ向かう。
そこには、チーズを守る不思議な魔法使いと、古代の仕掛けが待っていた!
「――というわけで、このチーズを手に入れたら、きっと世界一のピザができると思うんだ!」
ラ・ステラの厨房で、レンは目を輝かせて語った。
手にしていたのは、村の古文書の写し。そこにはこう記されていた。
“太陽の民が残した黄金の遺産――それは千年を経ても腐らぬチーズ”
「なんでピザ屋って、こんなに冒険じみたことになるのよ……」
リリィが呆れ顔でつぶやく。
「だが面白そうではあるな」
ハルが頷く。「この地図によれば、神殿の場所は……村から東の台地の上だ」
「うちの配達エリア、広すぎない?」
リリィは頭を抱えるが、もう誰も止まらない。
その翌日。レン、リリィ、ハルはリュックを背負い、東の台地を登っていた。
やがて、霧がかかる岩山の上に、それは現れた――
苔むした古代の石造り、謎めいた魔法の紋様が浮かぶ「チーズの神殿」。
「本当にあったんだ……」
「うさんくさい名前だけど、妙に神々しい……」
扉には、三つのくぼみがあり、その上に文字が浮かび上がる。
“チーズの名にふさわしき者、三つの味覚を捧げよ”
「味覚って……?」
「甘味、塩味、酸味……とかかな?」
仕方なく、リリィが持っていたパンケーキ、レンがベーコン、ハルが酢漬けの野菜をくぼみに置いてみる。
すると――
ゴゴゴゴ……ッ!
神殿の扉が静かに開いた。
中は冷んやりとして、かすかにチーズの香りが漂っていた。
広間の中央に、金色に輝くチーズが納められている。
「これが……“太陽のチーズ”……?」
だがその瞬間、空気がピリリと変わる。
「待ちなさい」
声が響いた。
現れたのは、ローブをまとった若い魔法使いの女性。長い銀髪に透き通る瞳。
「私はこのチーズを守る者。名を“ミラ”という」
「守るって、これ、持ってっちゃダメなやつ……?」
レンが慌てて手を引くと、ミラは微笑んだ。
「いえ。あなたがたが“本当にピザを愛する者”なら、試練を乗り越えれば、持ち出す資格が与えられるわ」
「試練って、まさか――」
「チーズ料理、勝負よ」
まさかの料理対決。
ミラは魔法で次々に道具と食材を召喚し、自作の「チーズの蒸し焼きパン」を完成させた。
一方レンたちは、迷わず“ピザ”で応戦。
「この“太陽のチーズ”、たしかに濃厚で塩味が強い。でも……この甘酸っぱいトマトと合わせれば!」
できあがったのは、“太陽のマルゲリータ”。
熱々のチーズがとろけ、トマトの酸味とバジルの香りがそれを包む。
「……ふむ。これは、なるほど」
ミラが目を細め、そして――ふっと笑った。
「完敗ね。あなたのピザ、すごく美味しかった。太陽のチーズは……あなたたちのものよ」
「やったー!」
神殿を後にした帰り道、リリィがぽつりと呟く。
「ていうか、チーズってなんであんなに神聖視されてるの?」
「チーズは……神だよ」
レンが真顔で言った。
「出た、ピザ脳……」
ついに手に入れた“太陽のチーズ”。
次なるピザは、神殿を超える神々しさ……?
でもレンたちの日常は、いつもどこか冒険じみている。