第15話『チーズ泥棒を追いかけろ! 真夜中の追跡劇』
深夜、村の食料庫からチーズが盗まれた!?
お店の大事な仕入れ先が困ってると聞いて、レンたちは調査を開始。
だが、足跡のない犯行現場。残されたのは……“チーズのかけら”と“謎の羽根”だけ――?
それはある晩、ラ・ステラの仕込みが終わった頃だった。
「……レンくん、大変なの……!」
厨房に駆け込んできたのは、乳製品の仕入れ先である牧場主の娘、メイアだった。
焦った顔で、チーズのカゴを抱えている。
「何かあった?」
「今朝、納品予定だった熟成チーズが……盗まれたの……! 食料庫から、きれいさっぱり!」
「えっ、盗難?」
「鍵はかかってたの。しかも、中からは足跡もなし。まるで“空中から消えた”みたいに……」
さっそく、レンとリリィ、ハルは牧場へ向かった。
食料庫の中はきれいに整頓されていたが、明らかにチーズが抜かれている棚がある。
レンは床をしゃがみ込んで、指でなぞる。
「粉っぽい……チーズのかけら……それにこれは……羽根?」
落ちていたのは、灰色の細長い羽根だった。
それはまるで――
「鳥……のようで鳥じゃない?」
「まさか、魔物?」
ハルが顔をこわばらせる。
「とにかく、今夜張り込んでみよう。第二の犯行があるかもしれないし」
その晩、三人は牧場近くの納屋に隠れた。
月が高く昇り、辺りは静まり返っている。
リリィがポツリとつぶやく。
「それにしても……なんでチーズなのかな。お肉でも穀物でもなく」
「チーズには“匂い”がある。熟成の香りって、動物を惹きつける力があるんだよ」
レンはそう言いながら、手に小さなチーズの塊を握りしめていた。
そのとき――「ガサッ」と草の音。
「来た!」
三人は息を潜める。食料庫の上部、天井の梁のあたりから――黒い影が滑空してきた。
「飛んだ! やっぱり空から来てたんだ!」
影は鋭く爪を立てて、扉の隙間から中へと潜り込もうとする――が、
「今だっ!」
レンが松明を掲げ、光でその姿をあぶり出した。
そこにいたのは――
羽毛の生えた小さな“コウモリのような魔物”。
でも、どこか……まぬけな顔をしていた。
「な、なんだこいつ……チーズ抱えてるし……」
「コケコケっ……!」
魔物(チーズ好きコウモリ)は、両腕(翼)に大量のチーズを抱えて空へ舞い上がろうとする。
だが、その瞬間。
「こらぁっ! 返しなさーいっ!!」
リリィが投げたフライパンが、見事直撃。
「ぎゃふっ」
コウモリは派手に落下し、地面でころころと転がった。
残されたチーズも、空中で舞い、ふわりと草の上へ。
「よかった……まだ食べられそう」
「そこ大事なんだ……」
後日――
牧場ではチーズ泥棒騒ぎが収束し、コウモリ魔物は森の奥に放してやった。
レンたちも、“チーズ返還の謝礼”として、特製熟成チーズをひと玉ずつもらう。
「この匂い……たまんないなぁ」
「ピザにのせたら絶対おいしいね!」
「うん。今日はこれで、“四種のチーズピザ”いこうか」
その日の《ラ・ステラ》には、チーズの濃厚な香りが漂い、
店先には笑顔の客たちが長い列を作っていた。
犯人は、チーズが好きすぎる空飛ぶ魔物だった――というスローな事件簿。
今日もピザ屋は、小さな村の“日常の味”を守りながら、静かに営業中。




