第12話『ピザ窯は語る、薪の哲学と炎のロマン』
天空の蜂蜜ピザが大好評を博した《ラ・ステラ》。
しかしその裏で、一つの問題が忍び寄っていた――
そう、ピザ窯の限界である。
「……こりゃ、寿命だな」
そう呟いたのは、村の大工・カルロじいさん。
長年使ってきたレンガ製の窯は、ひびが入り、火のまわりも悪くなっていた。
「このままじゃ、安定した焼き上がりは望めんぞ、レン坊主」
「……修理じゃダメですか?」
「焼きの温度にムラが出るようじゃな。いっそ、新しく作り直したほうがええ」
窯――それはただの設備ではない。ピザ職人にとって、魂そのものだ。
「じゃあ、作ろう。最高の窯を、ここに!」
レンの決意に、カルロじいさんは腕をまくった。
「言ったな? 窯作りはピザより深いぞ。まずは薪からだ!」
「薪……ですか?」
「そうだ。窯に使う薪次第で、火力も香りも全てが変わる」
というわけで、レンとリリィ、そしてカルロじいさんの三人は、村の外れにある焚き木の森へ向かった。
「ここには“オーク古木”や“ヒノキ火樹”がある。燃え方も香りも、それぞれ違う」
レンは試しに、数種類の薪を集め、古い窯で焼き比べをしてみた。
・ヒノキ火樹 → 爽やかな香りがピザにほんのり移る
・オーク古木 → 長時間安定して高火力が保てる
・メープル枝木 → 弱火でじっくり、デザート系に向いている
「薪だけで、こんなに違うのか……」
「炎に耳を澄ませることじゃ。ピザは“焼く”ものでなく、“育てる”もんだ」
窯の設計にもこだわった。レンが描いた理想は――
・ドーム型で熱が均一に回る形状
・薪口は広めで空気の流れをコントロール
・下部には灰を逃がすための排気孔も設置
建材は村の粘土と耐火レンガ、仕上げはカルロじいさんの特製“灰漆喰”。
そしてついに、**《ラ・ステラ》新窯・“ルーチェ”**が完成する。
「……行くぞ、初火入れだ!」
火種は、焚き木の森で拾った一本の古木。
それは、かつて村の宴を支えた祭壇の柱だったという。
火が走り、窯全体に命が灯る。
「おお……あったけぇ……」
リリィが思わず手をかざす。
その火は、ただ温かいだけでなく、不思議な安心感があった。
まるでこの村の歴史と共にある、家の灯りのようだった。
「焼くぞ、新窯一発目は――“クアトロフォルマッジ”!」
4種のチーズと、天空の蜂蜜の相性を確かめる絶好のメニューだ。
高温で一気に焼かれた生地は、外カリッ、中モチッ。
チーズはほどよくとろけ、そこに蜂蜜がとろりと絡む。
「これだ……これが、《ラ・ステラ》のピザ……!」
その夜、窯“ルーチェ”の炎は、村の空をほんのり赤く染めていた。
窯とは、ただの焼き場ではない。炎とともに生きる、職人の相棒だ。
これでまたひとつ、《ラ・ステラ》は進化した。




