第114話『風の谷と浮遊島のピッツァ職人』
砂漠のオアシス「ジャミーラ」で“太陽のスパイス”を使ったピザが優勝を果たしたレンたち。
だが、次の目的地は……なんと空に浮かぶ村!?
風がすべてを支配する高原の浮遊島で、空気のように軽やかなピザとの出会いが待っていた――
「空に浮かぶ村……って、ホントに空にあるの!?」
リリィがキャラバンの隊長に訊ねると、彼は笑ってうなずいた。
「ああ、本当にあるさ。『セリュエル』と呼ばれる浮遊島の上にね。風の魔力で浮いてるって話だ」
「魔力で……空飛ぶ島……?」
「そこに“風のピザ職人”がいるって噂を聞いたんだ」
レンは興味津々で地図を広げた。
地上の高原地帯から、特殊な風昇装置でセリュエルへと移動するレンたち。
風の渦を巻く塔の内部を上昇し、やがて青空の中にぽっかり浮かぶ島が見えてきた。
白い風車が並ぶ丘、雲を切るような断崖、そして小さな村。
すべてが、空の上にあった。
「ここが……セリュエル」
風が絶え間なく吹き抜ける島は、どこか幻想的な静けさと、やさしさに満ちていた。
村で出会ったのは、白いエプロンを巻いた青年、ノア。
「君が噂の旅するピザ職人かい? 僕はノア。風のピザを焼いているよ」
ノアのピザ窯は、なんと風の魔法陣で支えられた特殊な浮遊窯。
「石窯じゃないんだな」
「石より軽く、風より熱く。――“風火窯”さ。火と風の力で、瞬間的に焼き上げる」
レンはさっそくノアに弟子入りし、風のピザ作りを体験することに。
「生地は、薄く。もっと薄く。空気のように、でもちぎれない強さを持って」
「発酵の温度は、風の流れに聞け。湿度や気圧に従って、自然に任せるんだ」
「風の音を聞け……?」
「そう。セリュエルでは風が師匠さ」
数日後、レンはついに完成させた。
それは、風の谷でしか作れない一枚――
**『空気のようなピザ・セリュエル風』**
・雲のようなリコッタチーズ
・花の香りを閉じ込めた風干しトマト
・高原ハーブと風塩を使った軽やかな塩味
・浮遊島で採れる薄紅の“風かぶ”スライス
まるで“食べる風”のような、軽くて芳醇な味わい。
「……うわ、なんだこれ……」
「ピザなのに、重さがない。でも味は濃い!」
リリィもヴァレッタも、初めての感覚に驚きを隠せない。
「ノアさん……これは、風そのものを食べているみたいです」
レンがそう言うと、ノアは笑って肩をすくめた。
「風は、見えないけど、生きている。君のピザにも、その命が宿っているよ」
別れ際、ノアがこっそりと渡してくれたのは、風の魔力を帯びた小さな羽の石。
「それは、“風の記憶”だよ。きっとまた役に立つ」
風の中、レンたちは浮遊島を後にした。
空に浮かぶ村、風のピザ、風の記憶。
食べ物は、土地の記憶を運ぶ――
次回は、いよいよ“獣と精霊の森”へ。森の魔法と出会うとき、ピザにどんな進化が……?




