第11話『天空の蜂蜜と、甘きピザの誘惑』
百枚焼きバトルを乗り越えたレンたち。
次なる挑戦は、“空飛ぶ山”に棲むという蜜蜂からとれる――幻の天空の蜂蜜。
ピザとデザートの融合は、この一滴から始まる!
バスカ村での祭りが終わって数日。ピザ屋のテラスには、リリィがとある雑誌を広げていた。
「見て見て! “天空の蜜蜂が作る黄金のしずく。その味、天にも届く” だって!」
「雑誌のノリがすでに胡散臭いな……」
そう呟くレンだが、載っている写真には思わず目を奪われる。
透き通った黄金色の蜂蜜が、パンケーキにとろりと垂れていた。
「……正直、めっちゃ美味しそう」
「でしょ!? しかもこの蜂蜜、飛行島の上にしかいない蜂が作るらしいの!」
「飛行島……?」
バスカ村から北西へ数日。
そこに浮かぶのは“ソラネスト”――空に浮かぶ小さな島々だった。
古代の風術によって、空中に留まり続けるそれらの島は、今では天空農園として利用されている。
だがその最上部、“雲蜜台”には、**伝説の空蜂“ミラーナ”**が巣を作るという。
「その蜂蜜を、ピザに使ってみたいんです!」
そう言ってレンが頼み込んだのは、天空農園を管理している青年・グレイン。
「まあ無理って言いたいとこだけど……その情熱があるなら、同行を許そう」
かくして、レンとリリィ、そして案内人のグレインとともに、空を行く気球船へと乗り込むことに。
「うわああああっ! 高いっ! 風、冷たいっ! 揺れるっ!!」
「リリィ落ち着いて! まだ離陸してない!!」
旅の途中、雲の上では奇妙な浮遊魚の群れや、雷雲に潜む電気スライムといった空ならではの“魔物”も出現する。
だが最大の難関は――“天空の女王蜂”ミラーナだった。
「来た……!」
その姿はまさに神々しく、透き通る羽を持ち、金色の毛をまとった巨大な蜂。
レンが少しずつ近づきながら、そっと声をかける。
「……君の作った蜂蜜で、誰かを幸せにしたい。ピザに、魔法の味を加えたいんだ」
するとミラーナは、じっとレンを見つめ――
静かに一滴の蜜を垂らした。
それはまるで、祝福の証のようだった。
地上へ戻ったレンたちが試作したのは――
「天空の蜂蜜と青カビチーズのピザ、完成!」
ふんわりと焼き上がった生地の上に、クセのあるブルーチーズとナッツ。
そこへ、香り高い黄金の蜜をたっぷりと回しかける。
「……うわ、これ、やばい」
「スイーツってレベルじゃない! これは……芸術だね!」
村人たちからも大絶賛を受け、天空の蜂蜜は《ラ・ステラ》の新定番となった。
未知の素材、未知の空――そして、ピザの新しい地平線。
“甘さ”だって、立派な魔法です。