第107話『風を受けて、次の街へ』
港町サリオスを救い終えたレンたちは、次なる目的地“森の都ティナリス”を目指し、西の街道へと旅立つ。
行商の旅は続き、ピザの香りもまた風に乗って――。
朝焼けが港の海を淡く照らし出す頃、レンたちはサリオスの広場に集まっていた。
木箱に詰められた食材、薪窯のパーツ、そして馬車の荷台にくくりつけられた看板には、見慣れた文字が描かれている。
――Pizza della Luce(光のピザ)。
「荷物の積み込み、終わったよ〜」
リリィが荷台の上で伸びをする。
「魔道具のチェックも完了だ」
ザハルが頷く。
「じゃ、出発ね」
ヴァレッタが手綱を取り、馬車がゆっくりと動き出す。
町の人々が見送りに集まり、漁師たちは手を振って叫ぶ。
「ありがとな! もう一度ピザ食べに来てくれよ!」
「次に来た時は、魚たっぷりのやつ頼むぜ!」
レンは笑顔で手を振り返しながら答える。
「もちろん。次はもっと大きい魚を焼いて乗せるからな!」
そうして、港町を背にして、レンたちは再び西へ――風と緑の街、ティナリスへと進む。
街道は山を抜け、丘を越え、やがて緑深い森へと続いていた。
季節は初夏。森の香りと鳥のさえずりが、旅の疲れを癒してくれる。
道中、レンは荷台の上でピザ生地をこねていた。
「森に入ると、キノコ系のピザが喜ばれるんだよな。乾燥肉も合うし」
「やっぱりそこは“森の恵みピザ”って感じ?」リリィが目を輝かせる。
「いいね、ピザ・ボスコ」ヴァレッタがメモを取りながら言う。
「キノコとハーブの組み合わせ、何種類か試しましょう」
「でもティナリスって、ちょっと特殊な街なんでしょ?」
リリィの問いに、ザハルがうなずく。
「そうだ。森と共に生きる民族“エルベ族”が管理している都市国家だ。交易は盛んだが、よそ者には警戒心が強い」
レンは空を見上げた。
「……なら、ピザで心を開いてもらうさ」
森の奥深くに差しかかる頃、馬車が突然止まった。
「……何かいる」ザハルが呟いた。
静まり返った森に、一陣の風が吹き抜ける。
次の瞬間、木々の間から飛び出してきたのは、緑のマントを羽織った弓使いだった。
「この森は、エルベ族の管理下にある。通行には許可が必要だ」
張り詰めた空気が流れる中、レンが前に出る。
「僕たちは旅の行商人。ピザを焼いて歩いてるだけなんだ」
すると、別のエルベ族の少女が顔をのぞかせた。
彼女はレンたちの馬車の看板を見つけると、目を丸くして言った。
「……“Pizza della Luce”? サリオスの港町を救ったって噂の?」
ザハルが驚き目を細める。
「もう噂がここまで届いてるのか……」
少女は小声で同行の弓使いにささやき、やがて険しい表情が和らぐ。
「試しに、あなたたちのピザを一枚。……それで判断する」
その場で窯を組み立て、レンは一気に生地を伸ばす。
持っていたドライトマトとチーズ、ハーブソーセージを載せ、熱々のピザを焼き上げた。
「どうぞ、熱いうちに」
弓使いの男がひと口食べると、その目が見開かれる。
「……これは……なんだ、この香りと旨味……!」
少女も口に運び、頬を染めて言った。
「すごい。森の食材だけなのに、こんなにも味が深い……」
そしてふたりは顔を見合わせ、うなずいた。
「よし、通っていい。ティナリスへの案内人を手配しよう」
こうして、レンたちはエルベ族の信頼の糸口を掴んだ。
次なる舞台、“森の都ティナリス”で、ピザ行商の新たな章が始まろうとしていた。
新たな街へ、そして新たな人々との出会いへ。
ピザが結ぶ縁は、国も種族も超えて広がっていく。
森の都ティナリスでは、どんな“風味”が待ち受けているのか――?




