第105話『灯台に眠る記録』
港町サリオスの旧灯台。
かつてこの町と海を見守ってきた灯台の最上階に、忘れ去られた“記録の書”が眠っていた――。
朝靄の中、レンたちは古びた灯台の扉を押し開けた。
その壁は潮風で削られ、木製の階段はきしんでいる。
「ここまで来る人も少なくなったんだろうな」
ザハルが慎重に一歩一歩階段を上る。
「灯台守りの記録が残ってるかもしれないわね」
ヴァレッタが肩にかけた鞄から懐中電灯を取り出し、薄暗い階段を照らす。
最上階の小部屋には、埃をかぶった古い机と本棚があった。
本棚には、革表紙の本が数冊並んでいる。
レンが一冊手に取り、カバーの文字を読み上げた。
「“海魔記録集”……?」
そっとページを開くと、色あせた文字がびっしりと書き込まれている。
挿絵には巨大な黒い霧の怪物が描かれていた。
ヴァレッタが真剣な表情で読み始める。
「この記録によると……この海域には数百年前から“黒霧の怪”と呼ばれる存在が現れていた」
「どうやら、霧の中に住みつき、近隣の船や町を蝕んできたらしい」
リリィが息を飲む。
「でも、どうやって倒したの?」
「この記録には、“霧の核”という黒い結晶を見つけて砕くことが唯一の方法だと書いてある」
「その核が霧を生成し、広げているってことか」
ザハルがページをめくる。
「しかし、これも完全な解決策じゃなかったみたいだ。何度も復活して、封印されてきた」
「今、俺たちが見つけた黒い結晶と同じもののようだな」
レンは思い出した。
――フェルナンドで見つけた結晶。あれが海魔の核だった。
「……つまり、あの海魔も、この“黒霧の怪”の一種だったんだ」
ヴァレッタが口を開く。
「それに、記録には『黒霧は大地や水を蝕み、食物の味を奪う』とある。まさに今のサリオスの状況に一致する」
「だから、食べ物が腐りやすくて味がしないのか……」
リリィが苦い顔をする。
「もう、ピザ屋泣かせだよね……」
レンは決意を固める。
「この記録が示す核の場所、調べに行こう」
「灯台の下に海中洞窟があると書いてある。そこに核が封印されている可能性が高い」
ザハルがうなずいた。
「洞窟か……水の中は得意だ。任せてくれ」
ヴァレッタは手帳にメモを取りながら言った。
「まずは準備が必要ね。洞窟に入るには装備と情報を集めておかないと」
リリィが元気に声を上げた。
「また冒険だ! やったね!」
レンはその笑顔を見て、ほっとした。
「うん、まずはゆっくり休もう。明日から本格的に動く」
海の黒霧の正体を記した古文書。
それは数百年にわたる封印の歴史でもあった。
レンたちは新たな戦いの準備を進め、海中洞窟へと挑む。




