第101話『港町の凱旋』
黒い渦を生み出していた海魔を討伐し、港町フェルナンドはようやく平穏を取り戻した。
嵐の海から帰還するレンたちを、港の人々が待っている――。
アウロラ号が港へ戻る頃には、空は澄み渡る青に変わっていた。
海面は鏡のように穏やかで、先ほどまでの戦いが嘘のようだ。
「……信じられないな」
リリィが甲板から海を眺め、微笑む。
「もう、黒い渦は一つもない」
ザハルが頷き、帆の具合を確認する。
港が見えてくると、そこには大勢の人々が集まっていた。
漁師も商人も、子どもたちも、全員が手を振り、声を張り上げる。
「おかえりー!」
「レンー! 生きてたかー!」
その声に、レンは自然と笑顔になる。
戦いの緊張が、ようやく解けた気がした。
上陸すると、町長が真っ先に駆け寄ってきた。
「よくぞ戻った! そして……港を救ってくれた!」
町長の後ろで魚商人たちも泣き笑いしながら握手を求めてくる。
ガルドは照れくさそうに頭をかき、ヴァレッタは静かに剣を納めた。
リリィは嬉しそうに子どもたちと抱き合っている。
「で……この黒い結晶、預ける」
レンは町長に海魔の核を差し出した。
「危険だから、専門家に調べてもらったほうがいい」
町長は神妙な面持ちで頷き、結晶を両手で受け取った。
「礼として、この港の者たち全員から感謝と……食材を贈ろう」
「え、食材?」
「山ほどあるぞ。港の倉庫に積んである」
案内された倉庫の中は、魚介や小麦粉、オリーブオイル、香草でいっぱいだった。
「……ピザし放題だな」
レンは呟き、仲間たちが笑う。
「せっかくだし、港の広場で大ピザ祭りでもやる?」
リリィの提案に、レンは即座に頷いた。
「やろう。今度は戦いじゃなくて、ただの宴会だ」
その夜、港町フェルナンドの広場には窯がいくつも並び、ピザの香りが夜風に広がった。
人々は笑い、歌い、海の平穏を祝った。
しかし――宴もたけなわの頃、レンの前に一人の旅人が現れる。
フードを深く被り、低い声で言った。
「……あんたが、海魔を倒したピザ屋か」
「そうだけど?」
「なら、頼みたい仕事がある。次は……大陸の南だ」
港の平穏を取り戻したレンたちに、新たな依頼が舞い込む。
それは、まだ見ぬ土地と、未知の食材への旅の始まりだった。




