第10話『村まつりと、百枚焼きピザの挑戦状!』
ウノッコ山脈から無事に戻ってきたレンたちは、チーズの聖地バスカ村で一休み……のはずが、
なんと村では“年に一度のピザまつり”が開かれるという。
しかしそこに現れたのは、焼き台車と共に乗り込んできた――謎の対抗馬!?
レンたちがモッツァレラビーストを連れて村へ戻ってから、バスカ村はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
「これでうちの村もピザの都に一歩近づく……!」
「いやいや、モッツァレラビーストだけで観光客を呼ぶのは難しい。ここはひとつ、ピザの腕前を披露するしかない!」
そう盛り上がる村人たちに、リリィが小声で尋ねた。
「……でもさ、“ピザまつり”って、何するの?」
「ピザ焼くんだよ、百枚」
「それって……お祭りじゃなくて修行じゃない?」
バスカ村の“ピザまつり”は、実は村対抗のピザ大会でもあった。
名物は「百枚焼き勝負」。つまり、制限時間内に100枚のピザを焼いて売るという無茶ぶりイベントなのだ。
今年の対戦相手は、山の向こうの「カルボ村」。ピザではなく、パン焼きが名物の村だった。
しかも、向こうは移動式の大型焼き窯を持ってやってくるらしい。
「今年は負けられねえ! おまえさん、うちの代表になってくれ!」
村長に頼まれて、レンは深くうなずいた。
「ピザで挑まれたなら、ピザで応えます――やりましょう、百枚焼き!」
祭り当日。
広場には各村のブースが並び、村人たちが一斉にざわめく。
そこに、蒸気を吹き上げながらやってくる巨大な焼き台車――“カルボ・クラッシャー号”。
「おぉ……まるで戦車じゃないか……」
「ふはは、こちらは最新式の蒸気圧式ピザオーブン! この村の石窯など、もはや時代遅れ!」
現れたのは、カルボ村の“パン師団長”フェルノだった。
鍛えられた腕と小麦色の肌、そしてなぜか粉まみれの白衣姿。まさに“熱きパン狂”。
「だがピザの魂は、石窯にこそ宿る!」
レンはそう叫び、炎の揺れる村の石窯に手をかけた。
「よーい、焼き始めッ!!」
笛の合図とともに、焼きバトルが始まった。
カルボ村の焼き窯は、ほぼ自動でピザを焼き上げる。
「5分で10枚!? 速すぎる……!」
一方、レンは火加減、タイミング、具材の温度にまでこだわり抜いて一枚一枚焼いていた。
「効率じゃ勝てない……でも、味では絶対に負けない!」
リリィは具材を手際よく並べ、村の子どもたちが配膳を手伝い、モッツァレラビーストは……ミルクを提供中だった。
「やめろ、なんでその場で搾るんだ!!」
「フレッシュが命だから!!」
祭りの後半、カルボ村が先に90枚を焼き上げ、バスカ村は80枚。
しかし――
「焼きたてモッツァレラマルゲリータ、できたてですー!」
「うっま!! なんだこれ、味が次元違う!!」
香りと味で客がバスカ村に集中し始めた。
「うちもそのピザ食べたかったのに、もう売り切れ!?」
「早く次のやつ、次のやつー!!」
そして制限時間ギリギリ――
「百枚目、入りました!」
「焼き上がり!」
最後の一枚を取り出した瞬間、レンの顔は汗と粉で真っ白になっていた。
「よし……全部、俺たちの手で焼き上げた……!」
審査員たちが集計を行った結果、売上と評価点の合計で――
バスカ村、勝利!!
広場は歓声と拍手で満ちた。
フェルノは黙って焼き台車に乗り込みながらも、一つだけレンに言った。
「……次は、“デザートピザ”で勝負しよう」
「待って、それ絶対また来る気だ!!」
大量生産に立ち向かう、手作りピザの誇り。
異世界でも“焼きたてのうまさ”は、人の心を動かすのです




