第七話「突然の外交!?森の国、使者と初接触!」
森の国に、使者が来た。
──というか、突然、谷の入口に座っていた。
「……あの人、三時間前から微動だにしてません」
「え、まさか気絶?」
「違う。あれは“待機の構え”だ」
「武道かよ……!」
そう言ってカムイが、やや感心したような声を出す。
・名前:リシュテリア・エルセレナ
・種族:エルフ
・所属:南のエルセレナ王国(中立国)
・特徴:テンションが死んでるレベルで静か
彼女は、自国の命令で“噂の森国家”を調査しに来たらしい。
一人で遠くから……お疲れ様です。
「はじめまして……エルセレナ王国、使者の……リシュテリアです……」
「……眠いのかな?」
「元からこうなんだって。きっとテンションが三日後に来るタイプ」
「どんなタイプだよ……」
彼女は村の中を静かに歩き、
喋るナスに一礼し、
ツタの家を見上げ、
最後に畑を前にして、小さくつぶやいた。
「……ここは、“生きている”……森ごと、国ごと、全部」
「……え、なんか詩人っぽい……」
「あと、スイカの密度が狂ってる」
「そうなんだよ!触ってみて!割れると“ピィィ”って鳴くんだ!」
「喋るんですか?」
「現状は鳴くだけだからセーフって思ってるけどダメかもしれない」
会談が始まったのは、夕方。
焚き火を囲み、森の香りに包まれて。
「森の国。あなたが……代表のレントさん?」
「はい、一応。改めまして農業主任兼国家代表です」
「ふふ、変な国……でも、好きかも」
「その言い方、ちょっとバカにされてない?」
「違います。“育てる国”って、他に無いから。……たとえば、私の国なんか、育てるより奪う方が上手だから」
ぽつりと漏れたその言葉には、どこか痛みがあった。
リシュテリアは提案してきた。
「わたしたちの国と、“種の交換協定”を結びませんか?」
「種?」
「はい。エルフの国には、希少な薬草や耐魔植物が多くある。
そちらの森にも、珍しい作物や魔法植物があるようですね。
互いの“育てたもの”を交換する協定です」
「でも俺、その辺の雑草から種作れるんですよね」
「この世界にはもっと沢山の種がありますよ。それこそ、あなたが想像もしないようなものがたくさん」
──戦わず、育てて繋がる関係。
それに彼女の言うことはごもっとも。
元居た世界の技術でも、世界の植物をすべて見つけることなどできなかったのだから。
リーファやグランでも知らない植物があるのは当然と言える。
俺は即答した。
「ぜひお願いします」
「嬉しい……実は、ここがダメなら“敵対せよ”って命令もあって。でも……ここを壊したくなかった」
背筋に冷たいものが走るのを感じた。
流石、奪う方が得意と自称するだけのことはある。
その夜。
リシュテリアは焚き火のそばで、ぽつりとつぶやいた。
「……レントさん、怖くないんですか?」
「何が?」
「他国に狙われること。力を奪われること。あなたたちは、“戦わない”ことを選んでる。……それって、怖くないですか?」
俺は焚き火を見つめながら、答えた。
「怖いよ。でもね、“奪われないために、先に奪う”っていうやり方、俺にはできない。だから、俺は“育てて奪われても、また育てる”って選んだんだ。それに、この国の戦力植物なので絶対勝てないっす」
リシュテリアは、少し目を見開いて──
そして、柔らかく笑った。
「……わたし、少しだけ、この国にいたくなりました」
【森の国:エルセレナ王国と“種の交換協定”締結】
【新植物:月光シダ・治癒花・魔封じ根菜】
【ナス:友情を育て中】
【外交力:お土産は基本、野菜】