第五話「王都の偵察兵が来た!?“農民国家”がバレた日」
朝。
「レントさん、ナスがなんか機嫌悪いです」
「また!?何が原因だよ……」
「昨日のスープ、ナス入れたの見られてたっぽいです……」
「ごめんなナスゥゥゥ!!お前の親戚だったのぉぉぉ!?」
喋らない普通の野菜しか料理には使っていないのだが、ショックを受ける奴は受けるらしい。
今日も森の国(正式名称)には、野菜の悲鳴と人間のツッコミが飛び交っている。
そんなある朝。
空気がピリリと張り詰めた。
「……来るぞ」
カムイの声が低い。
「敵?」
「偵察兵。王都の……」
それを聞いた瞬間、俺は全身が緊張した。
──ついに来た。
俺たちがここで“国”を名乗ってるのが、王都にバレたんだ。
そりゃ、いくら辺境の邪魔な地とは言え、勝手に国家を名乗ればスルーはされないだろう。
30分後、森の入口に現れたのは、馬に乗った3人の兵士だった。
銀色の鎧に、青いマント。
バリバリの兵士だ。
「ここが噂の“森の国”か……」
「ただの農村に見えるが、警戒は怠るな。ここの“農民”、魔王軍よりヤバいらしい」
「ナスがしゃべるって噂、本当か?」
どこでそんな噂が立ってるのか聞かせてほしい。
俺は正面から出迎えた。
「ようこそ、森の国へ。農民代表、レントです」
「おぉ……あの“緑の神子”だ……」
「だから誰が言い出したんだその呼び名!?」
兵士たちは戸惑っていた。
目の前には平和な畑。
子供たちが笑い、野菜が揺れ、建物は全部ツタ製。
「う、うさんくさい……」
「不気味に平和すぎる……」
「魔王軍の拠点より落ち着く……」
なんか変な感想出てきたぞ!?
魔王軍の拠点が落ち着いてたまるか!
「国王陛下より伝令。“無断で国家を名乗る行為は反逆にあたる。ただちに代表者は王都へ出頭せよ”」
……そうきたか。
予想してたけど、やっぱり現実に突きつけられると、胃が痛い。
できればお断りしたいところだが、そんなことをすれば自体が悪化するだけだ。
「わかった、行くよ。俺が」
「レントさん!?」
ノアが飛び出してくる。
「わたしも一緒に──」
「だめ。ノアはここを守って。大丈夫、行ってすぐ帰ってくるから」
「……ほんとに?」
「ほんと。王都でナス配って帰ってくるだけだよ」
「それ絶対ナスに怒られるやつ!!」
その日の夕方。
俺は兵士たちと共に、王都に向かって馬車で出発した。
出発前、カムイが小声で言ってきた。
「何かあったら、全力で奪還する。“森の軍”が動くぞ」
「名前がゲリラっぽいからやめて!!」
転生以来、久しぶりに見た王都はでかかった。
魔力で動く水路とか、空飛ぶ馬車とか、文明の差を痛感した。
そして、案内されたのは──玉座の間。
ど真ん中にいたのは、以前“俺のことを埋めようとした”あの国王だった。
「ほう……また貴様か。“トマト農民”」
「“ナスの人”とも言われてます」
「いや、トマトでいい」
すでに蔑称で固定されてる気がする。
国王はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「貴様の地に人が集まり、村を作り、国家を名乗ったと聞く。反乱ではないのか?」
「違います。ただ“育ててる”だけです。人も、野菜も、希望も」
その言葉に、場が静まった。
王国の重臣たちがザワつきはじめる。
「……言ってることは平和的だが、問題は“力”だ」
「貴様の植物が喋るという噂。それが真実なら、前代未聞の事態として脅威になり得る」
「だからナスは武器じゃないですって!!」
「じゃあ“ネギのミサイル”と“カボチャ榴弾”の噂は!?」
「誇張だよ!!8割くらいはギャグだよ!!」
いや、カボチャはちょっと爆発するけど。
そんなやり取りを経て、王は告げた。
「……よかろう。森の国は、“特別自治農地”として、認可してやろう」
「えっ?」
「ただし、税の一部は納めろ。というか今金欠だから頼む。あとナスを10本献上しろ」
「ナスぅぅぅ!?」
「余が気に入った」
なんだこの国王。
ツッコミが追いつかねぇ。
俺は、森の国の“代表”として王都に認められた。
形式上はまだ“国”ではない。
でも、ここから始まる。
帰りの馬車の中。
俺は握りしめていた王印を見ながら、思った。
「……育ったな、俺たち。すんげぇ短期間で」
「レントさんっ!」
村に戻ると、ノアが飛びついてきた。
「無事でよかった……!」
「おかえり、レント」
「ナス配ってきた?」
「そこかよ!」
【森の国:王都公認・特別自治農地に昇格】
【人口:34名+植物多数】
【軍事力:野菜兵器?】
【外交力:ナスで取引成立】