第三話「村長が来た。あと、村長は魔物に乗っていた」
朝。
今日もツタで叩き起こされる音が森に響く。
「おはようございます!!(物理)」
「おはようございません!!まだ5時ぃぃ!!」
そんな悲鳴が森に反響するのも、もう日常。
ここ“森の村(仮)”では、俺・カムイ・ノアの三人と植物たちが日々仲良く(?)暮らしている。
「水、まき終わった!」
「よし、じゃああとは肥料まきだな。はやく肥料くれ」
「えっ!?昨日もまいたのに!?また!? 分かったよ、めんどくせぇな……」
「肥料には愛を込めよ! 乱暴に扱えば、土が傷つく」
「植物に人格つけるな!怖い!」
「人格は最初からある!」
このツッコミも、三回目くらい。
そんな平和(?)な日々に、事件は突然起きた。
その日はいつもより鳥の鳴き声が静かだった。
風の音も、どこかざわついている……気がする。
「……なんか変だな」
と、カムイがつぶやいた数秒後。
谷の南側から“何か”が走ってくる音がした。
ドドドドドド……ズズン!ズズズン!!
「地響き!?地震!?」
「違う、これは……!」
木々の隙間から現れたのは──
巨大なイノシシ(に似た魔物)に乗った、白髭の老人。
「……なにその見た目」
「うおおおぉぉぉ!!!こんなところに村ができておるではないかああぁぁぁ!!!」
「テンション高っっ!!」
老人はイノシシを止め、俺たちの前に降り立った。
そして、しげしげと俺の顔を見るなり、手を叩いた。
「やっぱりお主じゃ!レントじゃろ!?谷の植物がざわめいておったわ!」
「誰ですか!?なんで知ってるんですか!?あとイノシシやばいです!」
村長の拘束から解き放たれたイノシシたちは、喋らない普通の植物を選別して貪り食っている。
「私は南の村の村長、ガランじゃ。いやあ、まさかここに“緑の神子”がいるとはな!」
「誰だよソレ!?俺そんな中二病の称号持ってないから!!」
話を聞くに、どうやら最近「森が異常に活性化してる」という噂が流れ、調査に来たらしい。
その調査方法が“魔獣に乗って突っ込む”というあたり、相当やべー村長だ。
「ふむふむ……この木、喋るのか」
「話しかけたら、“お前の頭、風通し良さそうだな”って言ってたよ」
「気に入った!昔のわしにそっくりじゃな!」
「ええぇ……」
村長はグラン・ウッドに感動し、リーファのツンデレに泣いていた。
「すごいぞ、お主ら!これはもう村じゃ!いや、“神域”じゃ!」
「神域はさすがに言いすぎですって……」
「いやいやいや、植物が喋って人が癒されて、魔法も薬もある。もう村ってより“理想郷”じゃ!」
「それは……ちょっと嬉しい……」
そして、村長は唐突に言った。
「ここに人を連れてきても、ええか?」
「……へ?」
「住む場所に困ってる連中が、うちの村にいっぱいおるんじゃ。孤児、老いた者、逃げてきた者。
王都に見捨てられた者たちよ。正直、うちの村も限界で面倒を見てやれそうにない。でもここなら……生きられるんじゃないかとな」
俺は一瞬、迷った。
人が増えれば、手間も増える。
食料、住居、安全。考えることが何倍にもなる。
でも──
「来たい人がいるなら、俺は受け入れるよ。土も、水も、陽も食料も。ここには、全部あるからさ」
村長は笑った。
「お主……本当に、ただの農民か?」
「ただの農民です。ただし、ちょっと育てるのが上手い農民です」
数日後。
谷には十数人の新たな住人が現れた。
大人、子供、老人、怪我人、泣いてる子も、笑ってる子も。
俺は一人ひとりに声をかけた。
「水がいる?」「畑、やってみる?」「食べたいものある?」
みんな戸惑いながらも、笑顔を見せ始めた。
リーファは最初は「面倒」とか言ってたが、
小さい子に「お話してくれる木ー!」と抱きつかれた瞬間に沈黙した。
「……ほ、本当に仕方ないのだな……」
顔が赤かった。葉っぱなのに。
ノアはノアで、新しい子たちに植物魔法を教えていた。
「ほら、触って。“お願い”する気持ちで、そっとね」
「わあ、芽が出た!」
「ふふ、ね?」
“育てる”って行為は、やっぱり人の心を動かすんだな。
夕暮れ。
谷に小さな光が灯る。
焚き火と、明かり草の発光。
グラン・ウッドが照らす光に、子供たちが踊り、
老人が歌い、ノアが笑い、カムイが黙って見守る。
俺は、ふと思う。
「……これ、もう“国家”じゃね?」
「それはまだ早い」
カムイが言う。
「でも、始まったんだよ。“生きるための場所”が、ここに」
その言葉に、俺は頷いた。
【森の国の人口:17人+植物多数】
【畑の数:12面】
【家の数:5軒(半分以上がツタ建築)】
【国家度:20%(リーファ調べ)】