十五話「ようこそ、エルフ領。入国審査は斬り合いで」
「……あのさ、カムイ」
「な、なんだよ」
エルセレナ王国を目指して三日目の昼頃。
俺たちは、ゲームだったら絶対イベント戦が始まるような霧深い森の中を進んでいた。
その途中、先頭を歩くカムイを俺は引き止めた。
――まあ、わかってるだろうな?俺が何を言いたいか。
「迷った?」
「そ、そんなわけ……!あるかも……」
案の定、認めた。
否定しきれない時点でアウトだ。
だが俺もバロズも、彼を責める気は一切ない。なぜなら――
「ここはエルセレナ王国が結界を張っているようですね。外部の者が容易に近づけなくなっている」
「なるほど、納得。カムイ、無罪放免!」
「急に軽いな!?」
この結界、どうやら“迷わせる”のではなく“戻らせる”仕様らしい。
まっすぐ進んだはずなのに、気づけばスタート地点にワープしてるって、どこのダンジョンだよ。
「というか、バロズでもこの結界は破れないのか?」
「“力ずく”という意味では破れますが、それでは両国の関係を揺るがしかねません」
「全力でやれば壊せる系男子なのか、お前……」
まあ、つまりバロズを本気で怒らせたら国がなくなるかもしれない。
「こんなことならリシュテリアについてきてもらえばよかったな。エルフだし突破できるだろ」
「エルフ=万能、って偏見すごいぞ」
とはいえ、今さら戻るのも面倒だし、俺たちはその場で作戦会議。
「いっそ、誰かに見つかるまでウロウロしてようぜ」
「迷子がやるやつじゃんそれ」
とはいえ、三日かけて戻るよりはマシだろう。
ということで、俺たちは自分の足でループ地獄を何度も巡るという、時間の無駄遣い選手権一位の行動に出た。
が、そんな苦行を十数回繰り返したころ。
森の霧が一層濃くなり、風も動物の鳴き声も消える。
空気が張りつめ、視界も不明瞭になってきた。
「これ……まさか……」
「その“まさか”だろうな……」
“フラグ”は立った――そして、あっさり回収された。
「よぉ部外者ども、命捨てに来たか!?」
声が、頭上から。
しかもその気配、もう背後にいる。
「レントさま!」
ドンッ!
俺と声の主の間にバロズが飛び込む。
そして次の瞬間、バロズに剣が襲いかかった!
「バロズ!」
「ご心配なく」
……え?
彼は右手で、剣を。右手だけで! 受け止めた。
グラップラーか何かか?
そしてお返しとばかりに、敵をポーンと投げ飛ばす。
そこにいたのは――長い耳、緑の装備、そして超絶怒ってる美女。
「エルセレナ王国軍、二番隊隊長イリア・フェンリース……!」
カムイが絶望した顔で呟いた。
「めちゃくちゃ強いエルフきたな……」
「俺たち、詰んだ?」
俺の中の心の声が、囲碁の終局を迎えそうだった。
「待てフェンリース!我々は森の国の代表として、お前の国に“買い出し”に来ただけだ。戦意はない」
バロズがすぐに取りなす。
そう、俺たちマジでただ買い出しに来ただけだからねだからね!?
お小遣いを持って(レントの財布からリーファが勝手に出費、本人は知らない)
だが、彼女の目は怒りのボルテージMAX。
「へぇ? 十数年前来た時には後ろに武装兵背負ってたヤツが何ほざいてんだ。買い出しってのは、私らの領地を奪いに来たってことか!?」
そ、そんなガチでくる!?
バロズも剣を取り出し再び応戦。
戦闘は、俺の知識の外で次元を超えていた。
「バロズの剣技……すげぇ……」
「いや、待って。あれ、バロズのイケメンイベント始まってない?」
カムイが妙に食い入るようにバロズを見ていた。
そして――
「ぐぅっ!?」
フェンリースの手から剣が弾かれ、バロズが勝利。
「フェンリース、俺たちに戦意はない。”森の国”との協定の話、伝わっているだろ?」
「はぁ……まさか本当に魔王軍をやめたのか。てっきり、森の国に取り入って内部から操ってるのかと思っていたぜ」
おい、どんな疑い方してるんだよ。
「……で、実際、何買いに来たんだ?」
「面白い植物の種」
「戦争の気配ゼロじゃねーか!」
ということで、ようやく信頼を得た俺たちは、彼女の先導で森を抜け――
目の前に現れたのは、超・巨大な樹木。
アニメとかで見る世界樹そのものだ。
「でけぇ……」
「これ、うちの国からも見えそうじゃない?」
「結界があるから無理だろうな」
その大樹に巻きつくように、エルセレナ王国が築かれていた。
こうして俺たちはようやく入国を果たしたのだった。