十四話「旅路に雑草、いや雑兵はつきものです」
「道中、魔王軍が出るかもで危険ってのは知ってたけどさぁ……!」
早朝、カムイとバロズ、そして俺の計三名はエルセレナ王国へ向けて険しい道を歩んでいた。
出発して早くも三時間の時が流れたのだが、俺はあることに不満を爆発させていた。
「いくら何でも出会いすぎだろ、何人いるのこいつら! 暇なの、暇なんですかぁぁぁぁ!」
もうなんというか、出会い系かってくらい魔王軍(雑兵)と遭遇してる。
まるで東京の出勤ラッシュ。誰か電車引いて。
こっちの主力(カムイ、バロズ)がなぎ倒していくので別に害はない……のだが、いくら何でも多すぎだろう。
しかもこっちは旅の恰好でリュック背負ってるのに、向こうは武器フル装備。
なんか理不尽。
「魔王は新参にもかかわらず、広範囲に影響を及ぼしている”森の国”を警戒しているのでしょう」
「良かったなレント、魔王にも認められてるぞ」
「うれしくないわ!!」
褒められてもまったく嬉しくないランキング第一位、それが魔王のお墨付き。
「というか、戦ってるのは俺とバロズなんだから、お前は大人しく足を動かしてればいいんだよ」
「うぐっ……」
非常に痛いところを突いてくる。
しかも正論。
急所を刺された気分。
ああ、リーファがいれば葉っぱカッターが使えるのに……!
残念ながら契約者同士が一定距離内にいないと使えないらしい。
つまり今の俺は、ただの歩く農機具。
おにぎりも握れます。
「吹き飛べ」
バロズの一言で、周囲の魔王軍が一斉に吹き飛ぶ。
「(ナチュラルに魔王軍が木の葉のよう……)」
彼のこの能力が強いこと強いこと。
カムイのスキルと剣技の組み合わせもなかなかだが、バロズの前ではどうしても見劣りする。
っていうかあれ、絶対ナレーションかなんかだろ。スキルというより効果音つきの神の声だ。
”言霊”といえば分かりやすいかも。
「ハウス」と言えば犬が帰るし、「ブロー」と言えば敵が吹っ飛ぶ。便利。
ほどなくして、際限なくあふれてくるように思われた魔王軍の出現がピタリとやんだ。
それはもう、不気味なほど完全に。あのラッシュっぷりが嘘のようだ。
「おそらく雑兵だけでは消耗する一方と判断したのでしょう。さすがに彼らもそこまでバカではない」
「え、じゃあ幹部級が来たりする?」
「いえ、その可能性は低いかと。”私”がいますので」
絶対的な自信か、元魔王軍の情報網か、バロズははっきりとそう断言した。
でもその言葉を、俺もカムイも少しも疑わなかった。……というか、疑ったら失礼な気がした。
日が落ち始めたころ、俺たちは野宿する場所を決めて臨時の寝床(俺がその辺の種を育ててツタで作った)を設置した。
ツタ製テント、湿気対応。
夏は涼しいが冬は死ぬ。
遠いとは聞いていたが、丸一日歩いて二割しか進んでいないと聞いたときは流石に失神しかけた。
早くも心が土に還りそう。
「そういえばさ、俺たちが通ってる道って他国の領土だよな?」
「それがどうかしたのか?」
「いや、勝手に領土に魔王軍が入ってるのに、この国の軍は動かないのかなって」
普通、不法侵入されたら追い出すものだろう。
もちろん俺たちはパスポート的なもの(カムイ調達。どうやって取ったのかは訊かないのが吉)を持っているのでご心配なく。
「侵入されるだけで人的被害がないなら、なるべく関与したくないのさ。国によっては一瞬で滅ぼされかねないからな」
「え、自分たちが不法侵入してるのに正当防衛されたら滅ぼすのかよ……(引)」
「ごめんなさいで帰ったら苦労してねぇよ」
正論が爆走している。
焚火で一際明るく照らされる森は、俺たちのバカな会話でにぎわった。
今夜の晩ご飯はナスステーキ。
もちろんしゃべるナスではない(あれは牢屋限定)。
明日の出発に備えてしっかりとナスを食い、早々に寝床へと入った。
寝る前に一言。「ツタ寝具、思ったよりチクチクする」
――次の日の朝。
この世界に来ていつ振りかもわからないほど久しぶりの自分での起床。
グランに叩き起こされないだけで、朝はこれほどすっきりとしたものになるのか!
「さあ、今日もひたすら進み続けるぞ。魔王軍の動き次第では明後日には到着できるかもしれない。気合い入れていけ!」
「「おう!」」
何気に一番テンションが高いカムイの掛け声で、俺たちは再びエルセレナ王国へ向けて進み始めた。
【旅路:ついにエルセレナへ出発】
【魔王軍:雑兵の無限湧き仕様に定評あり】
【レント:雑兵よりHP少なそう】