十三話 行き先:エルセレナ王国。目的:植物。動機:ムフフ?
「「国を拡大しよう!」」
朝一番。目覚まし代わりの“ツルの物理攻撃”で叩き起こされた俺の耳に、リーファとグラン──森の国が誇る二大樹(文字通り)の声が響いた。
現在時刻、朝五時。まだ鳥も寝てるわ。
「……は? 何言ってるんだよ。森の国は今も順調に拡大してるだろ」
実際、独立してからたった数日で、うちの国は驚異的に成長している。
王国から「厄介な地」として押しつけられた広大な土地。その八割を、すでに領地にしてしまったのだ。
ちなみに王国の領地は大陸でも第三位の広さ。
そのうち四割が“厄介な地”って……王様、それ本当に俺にくれてよかったのか?
しかし人口が足りず大部分は森のまま。
草と木と木と木、たまにナス。
「そうじゃなくて、もっとたくさんの植物を育てようって話だ」
「いや、俺が過労死するわ!!」
そう、森の国で“育てるスキル”を持ってるのは、現時点で俺だけ。
ノアや他の住民たちにも力の兆しはあるけど、今のところ“最初のひと育て”は全部俺の役目。
つまり、植物が増える=レント死亡へのアクセル。
「そんなに新しい植物、どっから持ってくるんだよ? また雑草から生み出すのか?」
すでに俺が雑草から育てた新種、二百種オーバー。自分でも怖い。
スキルには想像力が大事って話だけど、俺の脳内にはもう野菜がしゃべって踊る幻覚しか浮かばない。
「それなら問題なし! エルセレナ王国に行けば未知の植物がたくさんある」
「いやいや、うちはすでに“種の交換協定”を結んでるだろ?」
実際、その協定のおかげで、向こうにはうちのナスやキャベツを送り、こっちはあちらの謎植物を多数ゲットしている。
交換した植物たちが、勝手に走り回っているのは今や日常茶飯事。
でも、リーファとグランはなぜかそろって首を振る。
「魔王軍の動きが怪しい今、正式な国同士の交流も難しくなっている」
「じゃあ、あれは?」
俺が指さした先には、昨日から滞在して焼き芋を食べ続けているリシュテリア【一応・エルセレナ王国の使者】。
列に並ぶ姿を見るのも三日目、もはや森の国民より馴染んでいる。
「……あれは例外というか、論外というか」
あっさり切り捨てられるリシュテリア。
イモを頬張りながらこっちを見て、泣いてた(ような気がした)。
そういえば最近、王国やファムリア王国の使者はよく来るけど、遠方の国からは手紙ばかり。
言われてみれば、魔王軍の
リシュテリアのエルセレナ王国は、その中でも最遠の国だ。
「国の発展は他国との交流にかかっている。我らが“育てる国”を守るには、じっとしていられん!」
「いやいやいや、待てって。道中で魔王軍に出くわしたらどうすんのよ?」
「それならご心配なく」
「うおっ!? おまっ……どこから現れた!?」
俺の背後から突然バロズ登場。元・魔王軍前線指揮官で、今や我が国の住民(というか隣人)。
すっかり森の国にも馴染み、農作業にも参加している。ちなみに今日の服は「ナス柄エプロン」。
「魔王……彼が本気で動く時は、各国に正面から攻め込むときでしょう。今はせいぜい雑兵くらいしか出歩いていませんよ」
「ほほう、さすが元・敵幹部。安心感が分厚いな……!」
「ご希望なら私が護衛しましょう。あなた様に傷一つつけさせません」
「んー、でもなあ……まだ不安が……」
「なんだレント、ビビってるのか?」
リーファが煽ってくる。目がめっちゃ笑ってる。
「へっ、ビビり大将だな」
グランまで加勢してきた。誰かこの木、斧で伐って!
と、そのとき。影からカムイが静かに登場し、俺にささやいた。
「エルセレナ王国はエルフの国……ムフフな店も多いと聞く。ワンチャン森の国に連れてこれるかもな」
「行きます。新種の植物のために!!」
こうして、俺たちの“エルセレナ王国行き”が決定した。
【外交:エルセレナ王国へ買い出し(予定外のやる気)】
【周辺国:魔王軍の気配にガクブル中】
【森の国:今日も豊作。そして元気】
【焼き芋:今日もリシュテリアが並んでる】