第十話「スパイが来たぞ!でも森が最強だった」
「うん……今日も芋は元気そうだ」
朝日を浴びながら畑を見回していた。
新しく植えた“黄金イモンゴ”は順調に育っており、葉の先がほんのり金色に輝いている。
すでに大量生産体制も整え、市場でも高い人気を誇っている。
「これで今月もイモ生活だな……!」
そう呟いたときだった。
「レント様ー!レント様ぁああ!!大変ですっ!」
森の入り口から、兵士・モリモが駆けてくる。
「なんだ、モリモ。また芋泥棒か?」
「違います!芋じゃなくて、人が、です!」
「ん? 人が盗まれたのか?」
「違います!森の外から、怪しい旅人が来ました!名前は……ええと……カッコいい感じで……“カレン”とか名乗ってました!」
「……なんでモリモが照れてるんだよ」
「そ、それが!やたらキザで、見た目も美男で……それに、森の地形や作物にやたら詳しいんです!」
――それは確かに、ただの旅人ではないかもしれない。
「怪しいなら、芋に聞こう」
「芋に、ですか!?」
「黄金イモンゴは人の心を感じるから、スパイかどうか見抜ける。名づけて……『芋心探査法』!」
「すげえ!!」
早速、“黄金イモンゴ”の一株の前にカレンを立たせた。
カレンは髪をかきあげながら微笑む。
「これは……とてもおいしそうな芋ですね」
「でしょ?」
レントがにっこり笑うと、芋がピクッと動いた。
「動いた……!」
黄金イモンゴが、葉をぴくぴくと震わせ、つるをそっとカレンの足元に巻き付けた。
「これは……!?マッサージ機能!?」
「違います!警戒モードだ!」
「バレたか……!」
カレンは跳ねのけるように後ろへ跳ぶと、懐から何かを取り出した。煙玉!
「さらばだ、農民ども!」
どかーん!
煙が辺りに充満するが、カレンは逃げられなかった。なぜなら、森の全植物が一斉に伸びて、足をからめ取り、空中で逆さに吊るしたからである。
「ふふん。森の国を甘く見たな。うちの森、防犯力高いんだぞ」
「ぐ……!」
吊るされたカレンは、葉っぱまみれで屈辱に震えていた。
そして、グランがどこからともなく登場。
「レント。こいつ、王国の隣国“ファムリア連邦”の情報員だな」
「さすがグラン!木のくせに物知りだな!」
「木を馬鹿にしてるのか褒めてるのか分からんが……まあよい」
その晩、カレンは“農業的尋問”を受けた。
「この苗木を見てみろ……これはな、“無限分裂トマト”……ちょっとでも栄養足りないと、周囲に暴発するぞ」
「そ、それって完全に武器じゃないか!」
「植物だ。どこをどう見ても、立派な“植物”だ」
俺とグランの地味な拷問(ただし心が折れるタイプ)によって、カレンはペラペラと話し始めた。
「わかった!話す!我々は、貴国の急成長に恐怖した!なぜ森の中から国家が出てくるんだと!植物で経済が回るわけないと!」
「失礼な!!」
俺はぷんすか怒った。
「植物は強い!焼いても蒸しても煮ても炒めても、主食にも副菜にもなる!どこがダメだというんだ!」
「なぜすべて食べる選択肢なんだ?」
「すみません……植物、なめてました……」
こうしてスパイ事件は解決。
とりあえずこのカレンという男は、植物監視付の牢(ツタ製)へと入れた。
だが、問題はこれだけではなかった。
翌日――
「レントさーん、王都からまた使者が来てますー!」
「あ、また?なんでだ?」
「今回の要件は……“隣国からの抗議”だそうです」
「……え?」
王都の役人が苦い顔で告げた。
「『そちらが育てた国家が、我々に圧をかけている』という通達がファムリアから届いております……」
「おかしいな?俺、圧力かけた覚えないんだけど」
ファムリアというと昨日捕まえたスパイの国だな。
直接ではなく王国を通じて文句を言ってくるあたり、腰抜け国に間違いはないだろう。
「……たぶん芋の圧、ですね」
「芋の圧て何!?物理的!?」
「市場を制した圧力です。最近、王都でも“黄金イモンゴパイ”が爆売れでして」
レントは思わず空を見上げた。
「なんか……俺、国家を築いたっていうより、植物で世界を支配しかけてる……?」
「レント様、誇ってください!あなたは“農の王”ですよ!」
「それ、微妙にかっこよくないな!」
こうして、森の国は再び世界に名を知らしめた。