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6、乱入者の登場


コメットとジジが買い出しに出てしばらくたった後、彼らは店を訪れた。

「ゴルゾー……。こんばんは」

なかばあきらめ顔でモルゾはささやいた。


*****


モルガは店の奥で、売り物の椅子に座ったゴルゾーの前に立たされていた。ゴルゾーの巨体に耐え切れず、椅子はキシキシと音を立てる。後ろには、4,5人の荒くれものが控えている。ある者はモルガをにらみつけ、またある者は退屈そうに、売り物の魔道具を眺めていた。全員、刃物を所持している。

ただならぬ雰囲気を敏感に察知した白狼は、ふらりと店から逃げ出した。


ゴルゾーは、モルガに向かって冷徹な目を向ける。

「おい、モルガ」ゴルゾーの声は低く、抑揚のない言葉で、冷ややかに響く。「お前が借りた金、期限はとっくに過ぎてんだ。返せ」


「すまないが、今は無理だ。まだ金が足りない。もう少し時間をくれないか」

モルガは必死に頭を深く下げるが、ゴルゾーの鋭い視線がそれを許さなかった。


ゴルゾーはその答えに一切の情けを見せなかった。椅子からゆっくり立ち上がり、足を一歩踏み出すと、モルガの胸元をつかみ、無理やり引き寄せる。「待てだと? 待てば本当に返せるのか?」彼の手がモルガの襟を掴んで引き寄せると、モルガの足が地面を引きずりながらも、必死にその力を受け止めた。


「ああ、絶対に返す。俺はダセエ嘘は言わねえ」

モルガは意思の滲む目でゴルゾーを見る。



ゴルゾーはモルガの襟を掴んだまま、彼を冷たく見下ろした。「うーん、でもよ。お前、魔道具なんて今時誰も買わねえだろ。現・実・的・に、返せるのかって聞いてんだよ!!」ゴルゾーは冷笑を浮かべながら、さらに力を込めてモルガを押し倒しそうな勢いで引き寄せる。「今時、そんなもので商売してどうすんだよ。別の商売に転身しろ。本気で借金返す気あんのか?」

まくし立てるゴルゾーの唾が、モルガに降りかかる。


モルガは、何も言えなかった。ゴルゾーは鼻で笑いながら、再び冷たい目を向ける。「金を返せないなら、店もお前も俺のものだ。さっさと現実を受け入れろよ。お前の商売なんて、俺に言わせりゃただの無駄だ」


ゴルゾーの言葉は鋭く、容赦なくモルガを追い詰めていった。その笑みはどこまでも冷酷で、モルガの胸に重くのしかかる。


「返さないなら……店ごともらう」ゴルゾーは冷酷な一言を吐き、モルガの肩を強く押さえつけた。その力でモルガの体が震え、冷たい汗が額を伝って流れる。



モルガは必死に言葉を絞り出す。「お願いだ、頼む……まだ時間がほしい……」



だが、ゴルゾーは冷笑を浮かべながら、無情にもモルガの頬を張り倒した。その痛みが瞬時にモルガの顔に走り、彼は顔をゆがめて耐えるしかなかった。ゴルゾーの手がさらに強く掴み、今度はモルガの腕を無理にねじり上げる。


「もう待てねえ。もうこの店は俺のもんにする。古臭い魔道具店は今日で閉店だ」


モルガは痛みに顔を歪めながらも、必死に言った。「すぐに返す、すぐに返すから……お願いだから、これ以上は……」


ゴルゾーはその言葉を嘲笑うように鼻で笑うと、モルガの肩をひと押しした。「うるせえ黙れ」



すると、モルガの作業机の上の鏡がコト……と振動した。

続いて部屋が急に青白い光でまぶしくなり、店内の人間は思わず目を細めた。



「なっなんだ……!」


「わっ」

「きゃっ」


この場にはいないはずの人間の声が急に聞こえ始める――




みんなが目を開けると、この国の第一王子であるジジが、モルガとゴルゾーの間に、モルガを背でかばうように立っている姿が見えた。さらには、その隣には見知らぬ少女も、ゴルゾ―たちをにらみつけている。


「まさかっ、ジジ王子!?」ゴルゾーの手下の一人が気づく。



ゴルゾーの手下たちは、王子の姿を目にした瞬間、目を見開いて一斉に動きを止めた。誰もが予想だにしない登場に、緊張が走り、空気が一瞬で変わる。誰もがその冷徹と名高い王子の姿に圧倒され、心の中で何をすべきか分からずに立ち尽くしていた。


「王子…?  どうしてこんなところに…!」別の手下は、その驚きに声を震わせながら、後ろへ一歩下がる。ジジの目つきとその威圧感に、恐怖がこみ上げるのを感じていた。


ジジは目の前に立つゴルゾーの手下たちをじっと見据えながら、静かに息を飲んだ。その表情は冷徹で、まるで一切の感情を内に秘めているかのように、動きひとつで周囲の空気を支配するような威圧感が漂っていた。突然、彼の手元から微かな冷気が立ち上がる。


「お前たち、モルガに何をした?」


ジジの声は、低く響き、その音が耳に届くと同時に、空気が急激に冷え始めた。手元からふわりと広がる氷のような気配が、周囲を包み込んでいく。最初はほんのひとひらの氷が手のひらから見えたかと思うと、次第にそれが広がり、ジジの体の周りを取り巻くように冷気が渦巻き始める。手下たちの呼吸が白くなり、目の前の空気が次第に冷たく硬くなっていく様子が、まるで冬の嵐が迫るような緊張感を醸し出していた。


ジジの目がわずかに鋭くなると、冷気が一層強くなり、彼の体からまるで氷の刃が放たれるかのように、周囲の温度が急激に下がり始めた。その冷たい力が手下たちの体に触れると、冷気が肌に突き刺さるように感じられ、恐怖がじわじわと広がった。



「動くな」



ジジの一言で、冷気はさらに鋭くなり、手下たちの足元の地面にも霜が広がっていく。彼の周りの空気は、まるで氷のように凍りついていき、周囲の温度が急激に下がる中で、手下たちは動けずに立ちすくんだ。

ジジはその冷徹な目で、まるで自分の力を試すかのように、周囲の空気をさらに冷たく変えていった。



(これを見て誰かが、冷徹王子だなんて言ったのね……)



「お前たち…そうか、鏡か」


モルガは尻餅をついた状態のまま、その場でたばこに火をつけた。作業机の上の鏡と、コメットを見比べて、話を続ける。


「おいジジ、その鏡で来たのか?」


目を輝かせながらジジは振り向き、楽しげに話し続ける。

「そうなんだよモルガ!! 俺、古代魔法具を使ったぞ!!なんだか、水中にいるような感覚で、ほんとに一瞬で着いたんだよ、ここに!これでますます、本物だって自信がついたよ」


(ギャ、ギャップが!! 氷漬けのさなかに、オタクの話をしているわ)



「なあコメット、また祈ったってことかい?」


「は、はい。一刻も早く、モルガさんの元へお戻りしたいと…祈りを捧げました」


敵を前にして非常に緊迫した状況のはずなのに、魔道具オタク・ジジは伝説の古代道具を使用したことに対して興奮の波が止まらなかった。


「すごいよコメット! 君はほんとうに特別だ!! それに君自身も、誰かを思いやる姿を、会って半日なのに何度も見た。俺が出会った誰よりも、素敵な人だよ。君の優しさには、どこか深い力があるんだ」



コメットはジジの言葉を聞いた瞬間、驚いたように目を大きく開き、頬がふわりと赤く染まった。


(いつも、能力も、私自身も気味が悪いと言われていたのに、真逆にとらえてくれる方がいらっしゃったなんて――!!)


その顔を隠すように、少しだけ視線をそらし、指先で軽く髪をかき上げながら恥ずかしそうに笑う。


彼女は視線を下に向け、手を軽く膝の上で組み直す。危機的状況には変わりがないのだからと、コメットは一度、深呼吸をして、少しだけ落ち着こうとしたが、心臓の鼓動が早くなっているのが自分でも感じられた。


「おい、俺たちのこと忘れてるみてえだな。ふざけてんのか?」


足と地面とを凍らせられ、お怒りのゴルゾーが、ジジへ語り始めた。


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