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4、とんでもない魔道具


「コメット……いいかい。まずそこの白狼を治したポーションは『万能の小瓶』だ。ただのポーションだったら、こんなに白狼はすぐに回復しない。異常な回復スピードだ。それにほら、この瓶、八角形の不思議な形をしているだろう!これは間違いないよ。なんでこんなすごいものをコメットは持っているんだ、君は何者なんだい……ハァ……ハァ」


ジジは興奮を隠せず、空瓶をじっと見つめながら、興奮のあまり、息を整えようとしてもなかなかうまくいかず、肩が大きく上下している。コメットはその様子に少し驚きながらも、微笑みを浮かべて答えた。


「少し特殊なものみたいです。」


「ふ、ふふ…すごいものだよ、これは……」ジジは何度も空瓶を見つめ、嬉しそうにため息をついた。彼は完全に魔道具の魅力に取りつかれた様子だ。


*****


コメットとジジとモルガは、店の一角の来客用机と椅子で紅茶を飲んでくつろいでいる。ジジの手土産の、とろけるプリン~キャラメルナッツ載せ~を食べながら。

一口食べると、その甘さと濃厚さに思わずコメットは笑みをこぼす。モルガも一緒にプリンを頬張りながら、「キャラメルの甘さとナッツの食感が絶妙だ!」と意外と饒舌に驚きの声を上げた。2人が幸せそうに食べる様子を見て、ジジも目を緩ませ喜んでいるようだった。


(冷酷王子の噂って、まるっと嘘だったのね!なんでも、脱税が発覚した貴族を、自身の氷魔法で氷漬けにしたとか聞くけれど、噂って信用ならないわね)


ジジは再びコメットを見て、目を輝かせながら言った。


「コメット、君が持っているもの、すごく価値のあるものだってことは、もうわかったよね。まさか、他にも持ってたりはしないよね? これ以上は、俺の頭が沸騰しそうだよ」


するとモルガがたしなめるように言う。



「まだこれが古代魔道具だって決めつけるのは早い」

「古代魔道具?」聞きなれない言葉にコメットは反応すると、横からジジが説明をした。



「小瓶も鏡も、古代魔道具と言われていて……ほらみて」ジジはどこからともなく分厚い辞典を取り出した。「お前、勝手に俺の本……まあいいや」



「すまないモルガ。コホン。えーっと、この本に載っている魔道具は、偉大なる大魔道具師・クロウ・モルガンによって作られたとされているんだ。500年以上前にあったとされるものなんだけど、全て作り話かもしくは消滅してしまったと言われているんだよ。ひとつも現代で残っていないからね」


辞典のページをめくりながら、鏡のページを探し当てるジジ。


「ほら!」


(たしかに、そっくりだわ。私が、魔道具を出現させたはずだけど、こんなすごいものだとは知らなかった…)


パタン、とジジは辞典を閉じた。

「コメット、この2つを、どこで手に入れたの?」

ジジとモルガがコメットを見つめる。


緊張するが、正直に言うしかない。コメット自身も、この気味が悪いと言われ続けた能力らしいものの正体は知りたいと思っていた。



「鏡は、「ここではないどこかへ行きたい」と願い出現しました。小瓶は、「白狼を治したい」と願い現れました。小瓶は、今までも何度か現れたことがあります。他にも、透明になれるマントや、土人形…遠くの明かりを灯せる機械も…使ったことがあります。必要がなくなれば、その魔道具は消えていきます」



信じられない、といった様子で聞いていたジジは、目をどんどん輝かせた。

「透明マント! ゴーレム!! それもこの辞典に載っているぞ!! 古代魔法道具だ! 大魔道具師・クロウ・モルガンの遺物は実在した!!!!!」



興奮のあまり、ジジは立ち上がり、そのあたりをうろうろし始めた。とんでもない……とブツブツつぶやきながら。時に立ち止まり、時に奇声を上げている。


「ハァ、ハァ……しかも願えば出る、だと!? そんな能力俺は聞いたことがないぞ」


「コメット、君は魔道具に愛されし子なのかもしれない!!!!」


コメットは、気味の悪い能力と言われていた実家でのつらい記憶が思い出され、できれば王子の言い分を信じたくなった。コメットは少し照れながら、ティーカップを手に取った。


「まあ…あいつの水を差すようで悪いが…」とモルガは続ける「『対の鏡』も『万能の小瓶』も、パチモンの可能性がある。もう少し調べさせろ。魔術痕の解析に時間をくれ」



魔術痕とは、その魔道具の制作者の魔力の痕跡だ。クロウ・モルガンの時代の魔術と今の魔術は変わっているので、ある程度年代が予測できて真偽がわかる……という手筈だろう。


モルガはそんな2人を見ながら、紅茶をすすり、ふと口を開いた。

「さて、白狼の餌を買いに行かなきゃならないんだ。家に白狼が食べれるようなものが何もねえ。まさか復活するとは思わなかったからよ。1時間くらい店閉めるが、まだいていいぞ」

モルガは立ち上がり、軽く頭を下げた。「すぐ戻るから、少し待っててくれ。」



ジジはその言葉を聞きながら、慌てて言った。


「待ってくれ、モルガ。君が行くなら、俺たちが代わりに行こうじゃないか」


彼の顔に、少しの照れくささを含んだ笑みが浮かぶ。



「この1時間でお客さんが来たら困るだろ。それに…魔術痕も気になるし……」


モルガは正直に本音を言うジジが面白く、素直に誘いに乗った。「それなら頼むよ。助かる。魔術痕の解析は1時間くらいでできると思う。時間潰してきてくれや」


*****


ジジとコメットは、町の賑やかな通りを歩いていた。

周囲には露店が並び、活気のある声が響いている。色とりどりの布がひらひらと風に揺れ、町の空気は暖かく、人々の笑い声が道を彩っていた。


「こういう場所、マルミーレ領にはある?」王子が少し微笑んでコメットに声をかけた。


「そうですね、あるにはありますが、王都の活気には負けますね」コメットの言葉には、少しの驚きが混じっている。「この時期のマルミーレ領は極寒ですから……露店なんか出したら凍死してしまいます!」ジジは一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐにその目が落ち着いた。「マルミーレ領の領民たちは、あたたかいところで過ごせているか?」



コメットはそんな王子を少し驚きながらも見つめ、次に目の前の屋台に視線を向けた。「そんな不安そうな顔しないでください。みんな楽しそうに暮らしていますよ。さて、白狼が食べれそうなもの…お肉とリンゴでも買いましょうか?」ジジはその言葉に頷くと、足を進めて屋台に近づいた。肉屋の屋台には立派な干し肉がメインで並べられており、その隣には薄くてふわふわしたピタのようなパンが積み上げられ、香ばしい肉が並べられている。店主は熱々の肉を挟んだピタパンを手際よく作っては、客に手渡していた。


(おなかがすく香り……! プリンもいただいたのに、恥ずかしい。でも、何も持たずに家でをしてしまったから、お金を払えない……)




そこに立っていた店主は、王子の姿に気づくと、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに礼儀正しく頭を下げた。


「ジジ王子様、いらっしゃいませ!  何かお求めでしょうか?」店主は緊張しながらも、できるだけ平静を保とうとしている。ジジは冷静にその店主を見つめ、「干した牛肉と豚肉を」とだけ告げた。その短い言葉に、店主は驚きながらもすぐに手際よく肉を切り分け始めた。


コメットは、ジジが民衆から冷徹王子として恐れられているのを思い出した。

肉屋の店主も、ジジを怖がっているようだった。



「これ、食べてみないか?」ジジがそのピタパンを指さし、少し興味を持ちながら言った。



コメットはお金のないうしろめたさで返事に悩んでいると、「俺が君を連れまわしているから、お礼にご馳走させてほしい」と言った。



(私に気を使わせない上手い言い方をするのね、どこまでもいい人じゃないの)



「ありがとうございます、お腹がぺこぺこだったんです。それに、地元ではあまり見ないから、すごく食べてみたいわ!」


ジジはコメットに目を向け、優しく微笑んだ。「よかった!それじゃあ、2つ頼もう」




店主が出来上がったピタパンを手渡し、ジジがその支払いを済ませると、2人は屋台を後にして、道端のベンチに腰を下ろした。


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