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雲海の王宮と誘われた王子  作者: ちやちや
第2章:誘拐事件と追う者たち
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第4話:追う者、追われる者

 一方、王宮側の捜索は難航していた。


 周辺の町や森へと兵士が派遣されるも、誘拐犯の足取りは一向に掴めない。目撃証言も曖昧で、どの方向へ逃げたのかすら不明だった。


 アーサーは地図を睨みながら、苛立ちを押し殺して指示を出し続ける。


 「絶対に見つけ出すんだ。どんな些細なことでも報告しろ。些細な手がかりすら、今は貴重だ。」


 兵士たちは緊張した面持ちで頷き、すぐさま捜索へと向かう。しかし、焦燥感に駆られるアーサーの横で、ヴィクトルは腕を組んだまま、冷静に考察を進めていた。


 「……誘拐犯がレオンを狙った理由を考えるべきだ。目的がわからなければ、追う方向も定まらない。」


 アーサーは一瞬、鋭い目つきでヴィクトルを睨む。しかし、すぐに肩の力を抜き、低く息を吐いた。


 「……確かに、お前の言う通りだ。」


 二人が短く視線を交わす。


 その様子を見ていたカイとソフィアは、不仲と言われる兄王子たちが互いの意見を受け入れたことに、僅かながら意外さを覚えた。


 しかし、王宮の奥では、さらに緊迫した空気が流れていた。


 国王と重臣たちが集う謁見の間には、異様な沈黙が支配していた。


 玉座に座る国王は、珍しく落ち着きを欠いていた。

 手元の書類に目を通しながらも、その視線はしきりに窓の外を彷徨っている。


 「……まだ何の手がかりもないのか?」


 低く響くその声には、王としての威厳よりも、何か別の感情――焦りが滲んでいた。


 「はっ……申し訳ありません、捜索部隊からの報告では、未だ足取りが掴めず……」


 側近の一人が、慎重に言葉を選びながら答える。


 「民にはまだ何も知られていないな?」


 国王の問いに、別の重臣が即座に答えた。


 「はい、表向きは何も。王宮内でも、ごく限られた者しか知らぬよう手配しております。」


 「そうか……」


 国王は眉間に深い皺を刻み、ゆっくりと目を閉じた。


 「王子が誘拐されたと知られれば、民は動揺する。だが、それ以上に問題なのは――」


 一瞬、言葉を切る。重臣たちが息を呑んだ。


 「――この件が、外の国々に知られることだ。」


 室内の空気が、一気に冷え込んだ。


 「レオン王子の誘拐が公になれば、各国は何を考える?」


 「……空の王国は揺らいでいる、と見られるでしょう。」


 「そうだ。」


 国王の声が低く響く。


 「今は、どんな手を使ってでも、静かに解決しなければならない。」


 「しかし陛下、すでに誘拐から時間が経っております。これ以上動きがないと、不審に思われる可能性が――」


 「分かっている。」


 国王は短く言い放ち、厳しい目で重臣たちを見渡した。


 「だが、――だけは避けねばならん。」


 重々しく告げられたその言葉に、誰もが沈黙した。


 まるで「その真相に触れること自体が禁忌」であるかのように。

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