第4話:追う者、追われる者
一方、王宮側の捜索は難航していた。
周辺の町や森へと兵士が派遣されるも、誘拐犯の足取りは一向に掴めない。目撃証言も曖昧で、どの方向へ逃げたのかすら不明だった。
アーサーは地図を睨みながら、苛立ちを押し殺して指示を出し続ける。
「絶対に見つけ出すんだ。どんな些細なことでも報告しろ。些細な手がかりすら、今は貴重だ。」
兵士たちは緊張した面持ちで頷き、すぐさま捜索へと向かう。しかし、焦燥感に駆られるアーサーの横で、ヴィクトルは腕を組んだまま、冷静に考察を進めていた。
「……誘拐犯がレオンを狙った理由を考えるべきだ。目的がわからなければ、追う方向も定まらない。」
アーサーは一瞬、鋭い目つきでヴィクトルを睨む。しかし、すぐに肩の力を抜き、低く息を吐いた。
「……確かに、お前の言う通りだ。」
二人が短く視線を交わす。
その様子を見ていたカイとソフィアは、不仲と言われる兄王子たちが互いの意見を受け入れたことに、僅かながら意外さを覚えた。
しかし、王宮の奥では、さらに緊迫した空気が流れていた。
国王と重臣たちが集う謁見の間には、異様な沈黙が支配していた。
玉座に座る国王は、珍しく落ち着きを欠いていた。
手元の書類に目を通しながらも、その視線はしきりに窓の外を彷徨っている。
「……まだ何の手がかりもないのか?」
低く響くその声には、王としての威厳よりも、何か別の感情――焦りが滲んでいた。
「はっ……申し訳ありません、捜索部隊からの報告では、未だ足取りが掴めず……」
側近の一人が、慎重に言葉を選びながら答える。
「民にはまだ何も知られていないな?」
国王の問いに、別の重臣が即座に答えた。
「はい、表向きは何も。王宮内でも、ごく限られた者しか知らぬよう手配しております。」
「そうか……」
国王は眉間に深い皺を刻み、ゆっくりと目を閉じた。
「王子が誘拐されたと知られれば、民は動揺する。だが、それ以上に問題なのは――」
一瞬、言葉を切る。重臣たちが息を呑んだ。
「――この件が、外の国々に知られることだ。」
室内の空気が、一気に冷え込んだ。
「レオン王子の誘拐が公になれば、各国は何を考える?」
「……空の王国は揺らいでいる、と見られるでしょう。」
「そうだ。」
国王の声が低く響く。
「今は、どんな手を使ってでも、静かに解決しなければならない。」
「しかし陛下、すでに誘拐から時間が経っております。これ以上動きがないと、不審に思われる可能性が――」
「分かっている。」
国王は短く言い放ち、厳しい目で重臣たちを見渡した。
「だが、――だけは避けねばならん。」
重々しく告げられたその言葉に、誰もが沈黙した。
まるで「その真相に触れること自体が禁忌」であるかのように。