第3話:窓の外の異変
祝祭の熱気が遠くから伝わってくる。扉の外でカイが警護しているおかげで、レオンは一応安心できるはずだった。しかし、胸の奥に広がるざわつきは増すばかりで、どうにも落ち着かない。
レオンは椅子に深く腰を下ろし、頭をかきながら小声でぼやいた。
「兄さんたち、本当に不仲なんだろうか……なんでみんなあんなに面白がるのかな」
アーサーは堂々としていて、常に民衆の中心に立つ王子。ヴィクトルは口数が少ないが頭が切れ、クールな印象を持たれている。性格の違いが“不仲説”を生んだのだろうが、レオンにはむしろ、二人が微妙に互いを気にかけ合っているように見えていた。
(そんなことを考えても、僕にはどうにもできない……)
そう思いながらもモヤモヤしていると――ふいに、窓のほうから何かが落ちるような音が聞こえた。金属が触れ合うような、鈍い音。
「……?」
レオンが立ち上がって窓辺を見る。外は夕暮れに染まりつつあるのか、雲海が赤く輝いていた。視線を凝らしても何も異常はない。
だが、その一瞬の油断を突くように、ガタンッと窓ガラスが揺れ、冷たい風が部屋の中に一気に流れ込む。
「え……?」
言葉を発する間もなく、黒いフードを被った人影が音もなく飛び込んできた。レオンは思わず後ずさりするが、相手は俊敏な動きで間合いを詰め、あっという間にレオンの喉元に何か鋭いものを突きつけた。
「動くな」
低く落ち着いた声。レオンは凍りつく。
扉の外からカイの声が聞こえる。「レオン様、大丈夫ですか!」 とドアを開けようとするが、フードの人物は「騒ぐな」と言わんばかりに刃をわずかに食い込ませる。
(嘘だろ……王宮の、この部屋で、こんなことが……)
呼吸すらままならず、レオンはただ相手の冷たい殺気を感じるしかなかった。