第2話:祝祭の光と影
王宮前の広場は、まだ朝だというのに大勢の民でにぎわっていた。露店には香ばしい匂いが漂い、楽隊の音色がそこかしこで鳴り響いている。年に一度の選抜式は、王国最大の祝祭とも言われる行事だ。
第一王子アーサーと第二王子ヴィクトルが壇上に並ぶと、民衆から大きな歓声が上がる。ふたりは見た目も性格も対照的で、王宮内外ではいつも「不仲」だという噂が絶えない。
(本当に仲が悪いのかな……)
レオンは、その噂に首をかしげながら壇上で形だけ手を振っていた。アーサーは堂々と微笑み、ヴィクトルはクールな眼差しを遠くに向けているが、レオンにはどこか互いを意識し合っているようにしか見えない。
しかし、民衆は「第一王子と第二王子の不仲」こそが面白いらしく、半ば娯楽のように噂を広げているのも事実だ。
「レオン様、顔が暗いですよ。」
傍らに立つカイが心配そうに耳打ちしてくる。レオンは「あ、うん」と小さく頷くが、どうにも晴れやかな気分にはなれなかった。自分の存在感の薄さ――兄たちが注目を集める中、第三王子としての役目があやふやなことに胸がざわつく。
それでも式典は進み、今年選ばれた数名の若者たちが壇上で祝福を受ける。拍手と歓声に包まれ、華やかな時間が流れていく。レオンは表向き笑顔を作りながらも、どこかにいるはずの何かを警戒していた。
「式典も無事に終わりそうだな。」
そう感じた時、ちょうど選抜者の紹介が終わり、楽隊の演奏が一段落する。民衆はそのまま祭りを楽しむらしく、各所で踊り子や露店が盛り上がっていた。
レオンはカイとソフィアの誘導で王宮へ戻る。大騒ぎの外とは対照的に、王宮の廊下は静かで落ち着いていた。
「やっぱり何も起きなかったね……」
レオンは自室へ入りながらそう呟く。重い礼服を脱ぎ、深いため息をつく。
ふと窓のほうを見るが、先ほどの華やかさとは裏腹に、部屋の中は妙に冷たい空気が漂う。
「……なんだろう、この胸騒ぎ」
レオン自身も理由はわからないまま、窓辺に近づこうとした。そのとき、外からチリ、と何かが擦れるような音が聞こえたような気がする。だが、耳を澄ませても何も聞こえなくなってしまう。
(気のせい……?)
そう思い直しつつも、漠然とした不安が頭から離れないレオンであった。