第5話:王宮の異変と貴族の動き
一方、王宮では――
レオンの失踪から三日が経っていた。
いまだ彼の行方は掴めない。
王宮内は表向き静けさを保っていたが、その裏では、緊張感が徐々に高まりつつあった。
「報告しろ。」
広間に響くアーサーの声。
第一王子は、椅子に深く腰掛けたまま、険しい表情を浮かべていた。
「王宮内の警備を強化し、各地の監視を続けておりますが、いまだ有力な手がかりは――」
「それはもう聞いた。」
アーサーは苛立ちを隠さず、椅子から立ち上がる。
「他に何か動きはないのか?」
「……実は、いくつか不審な動きが――」
衛兵の言葉に、アーサーが目を細めた。
「何だ?」
「王宮内部で、情報が外部に漏れている可能性があります。」
「……情報が漏れている?」
アーサーの視線が鋭くなる。
「どういうことだ?」
「ここ数日、王宮の文書管理室で極秘の記録を閲覧しようとした形跡がありました。特定の貴族の関係者が、不自然に王宮内を出入りしているのも確認されています。」
「どの貴族だ?」
「王宮の魔法研究に深く関わっていた伯爵家の一族です。」
広間の空気が、ピンと張り詰める。
「伯爵家……?」
アーサーは眉をひそめた。
「魔法研究……確か、その家は数年前に王宮から離れたはずだ。」
「はい。しかし、現在も一部の者は王宮内に出入りする許可を持っています。」
アーサーは小さく息を吐き、視線を落とす。
(この状況で彼らが動くのは、偶然ではないだろう。)
だが、それを今ここで言葉にする必要はない。
「ヴィクトル、お前はどう思う?」
あえて、隣にいる弟に意見を求める。
「レオンを誘拐した者が、王宮の内部に協力者を持っている可能性は高い。」
「……内部の者が関わっていると?」
「そう考えたほうが自然だ。」
ヴィクトルは淡々と続ける。
「この警備体制の中で、王宮の動きを知り尽くした者がいなければ、レオンを連れ去ることは不可能だ。加えて、王宮内で貴族が何かを企んでいるなら、二つは無関係とは思えない。」
アーサーは黙り込む。
「……つまり、俺たちが探しているのは、ただの誘拐犯ではないということか。」
「可能性は高い。」
ヴィクトルの目は鋭かった。
「王宮内には、まだ隠された動きがある。そして、それを知っている者は、すでに動き始めている。」
アーサーはゆっくりと視線を上げる。
(レオン、今どこにいる。)
弟がどこにいるのか考えつつも、このまま見つからないのであれば王国の行く末を大きく変えることになると、アーサーは理解していた。




