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雲海の王宮と誘われた王子  作者: ちやちや
第5章:追跡者たちの思惑
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第4話:崩れた廃墟の中で

木々の隙間から、夜の月光がちらちらと降り注ぐ。


レオンは周囲を見回した。

どこかに隠れられる場所はないか――

そう思った瞬間、苔むした石壁が目に入った。


「……あれは?」


木々に半ば埋もれるようにして、崩れかけた石造りの建物が見えた。

見たこともない建築様式。

しかし、今はそんなことを考えている暇はない。


「シエラ、あそこに入るぞ!」


「……分かった……!」


二人は荒い息をつきながら、建物の影へ滑り込んだ。



内部は、ひんやりとした空気が満ちていた。


かつては誰かが住んでいたのかもしれないが、今は完全に廃墟。

崩れた壁や割れた石床が、長い年月を感じさせた。


(ここなら……少しは休めるかもしれない。)


レオンはシエラを壁際に座らせると、自分の袖を破り、即席の包帯を作った。


「じっとしてろ。」


「……お前、なかなか手慣れてるな。」


シエラは薄く笑った。


「王宮にいたって、これくらいのことは覚えられる。」


「……へえ……。」


シエラの表情が、どこか感心したように和らぐ。


(……何なんだ、この雰囲気。)


レオンは違和感を覚えた。

ついさっきまで、彼女は無言で短剣を振るい、冷静に戦っていたはずなのに。


(彼女は一体、何を考えている?)


だが、問いただす前に、シエラがゆっくりと口を開いた。


「……王子。」


「……なんだよ。」


「お前、どこまでこの国のことを知っている?」


「……どういう意味だ?」


シエラは、じっとレオンを見つめた。

その瞳には、どこか哀しさのようなものが滲んでいる。


「お前が生きてきた王宮は、本当に“綺麗な場所”だと思うか?」


レオンは一瞬、言葉に詰まった。


王宮――

それは彼にとって、居心地の悪い場所だった。

兄たちの影に隠れ、王族でありながら魔法を持たない「出来損ない」として扱われ続けた場所。


しかし――


「綺麗かどうかなんて、考えたこともない。」


「……ふうん。」


シエラは目を閉じ、わずかに首を振った。


「……やっぱり、借りる価値はあるかもしれない。」


その呟きに、レオンの胸がざわついた。


「借りる……? どういう意味だ?」


シエラは目を開いたが、今度は何も言わなかった。


「……お前は、俺をどうするつもりなんだ?」


シエラはレオンの言葉に、ふっと微笑んだ。

それは、彼が知るどんな笑みとも違っていた。


「さあな。」


それだけを残し、彼女は目を閉じる。

疲労が限界に達していたのか、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。


レオンは、その寝顔を見つめながら考える。


(俺は王国について何も知らないのかもしれない……)


王宮の外に出たことで、見えてきたものがある。

だが、それはまだ氷山の一角なのかもしれない。


レオンは胸の奥にわずかに広がる不安を押し殺し、シエラの言葉の意味を考え続けた。

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