第4話:崩れた廃墟の中で
木々の隙間から、夜の月光がちらちらと降り注ぐ。
レオンは周囲を見回した。
どこかに隠れられる場所はないか――
そう思った瞬間、苔むした石壁が目に入った。
「……あれは?」
木々に半ば埋もれるようにして、崩れかけた石造りの建物が見えた。
見たこともない建築様式。
しかし、今はそんなことを考えている暇はない。
「シエラ、あそこに入るぞ!」
「……分かった……!」
二人は荒い息をつきながら、建物の影へ滑り込んだ。
◆
内部は、ひんやりとした空気が満ちていた。
かつては誰かが住んでいたのかもしれないが、今は完全に廃墟。
崩れた壁や割れた石床が、長い年月を感じさせた。
(ここなら……少しは休めるかもしれない。)
レオンはシエラを壁際に座らせると、自分の袖を破り、即席の包帯を作った。
「じっとしてろ。」
「……お前、なかなか手慣れてるな。」
シエラは薄く笑った。
「王宮にいたって、これくらいのことは覚えられる。」
「……へえ……。」
シエラの表情が、どこか感心したように和らぐ。
(……何なんだ、この雰囲気。)
レオンは違和感を覚えた。
ついさっきまで、彼女は無言で短剣を振るい、冷静に戦っていたはずなのに。
(彼女は一体、何を考えている?)
だが、問いただす前に、シエラがゆっくりと口を開いた。
「……王子。」
「……なんだよ。」
「お前、どこまでこの国のことを知っている?」
「……どういう意味だ?」
シエラは、じっとレオンを見つめた。
その瞳には、どこか哀しさのようなものが滲んでいる。
「お前が生きてきた王宮は、本当に“綺麗な場所”だと思うか?」
レオンは一瞬、言葉に詰まった。
王宮――
それは彼にとって、居心地の悪い場所だった。
兄たちの影に隠れ、王族でありながら魔法を持たない「出来損ない」として扱われ続けた場所。
しかし――
「綺麗かどうかなんて、考えたこともない。」
「……ふうん。」
シエラは目を閉じ、わずかに首を振った。
「……やっぱり、借りる価値はあるかもしれない。」
その呟きに、レオンの胸がざわついた。
「借りる……? どういう意味だ?」
シエラは目を開いたが、今度は何も言わなかった。
「……お前は、俺をどうするつもりなんだ?」
シエラはレオンの言葉に、ふっと微笑んだ。
それは、彼が知るどんな笑みとも違っていた。
「さあな。」
それだけを残し、彼女は目を閉じる。
疲労が限界に達していたのか、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。
レオンは、その寝顔を見つめながら考える。
(俺は王国について何も知らないのかもしれない……)
王宮の外に出たことで、見えてきたものがある。
だが、それはまだ氷山の一角なのかもしれない。
レオンは胸の奥にわずかに広がる不安を押し殺し、シエラの言葉の意味を考え続けた。




