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聖蛇の仕え人アンジェリーカ、めでたくも聖蛇に求婚されてしまったので婚前契約書を盾に乗り切ります

作者: こむぎこ

お越しいただきありがとうございます。

#匿名契約結婚企画 に寄せた一話目になります。

楽しい企画をありがとうございます。

契約結婚ってなんだ~~~~といいながら契約書をとりだしてお話を練り始めました。寛大な心でお読みいただければ幸いです(/・ω・)/

「お母様!! 我が家の『婚前契約書』を見せてくださいまし!!」

 

 『バン!!』という音はあまり目立たなかった。

 アンジェリーナが、自身の開いたドアの音すら掻き消すほどの声量で入ってきたからだ。

 貴族であるのにはしたないと謗られても仕方がなかった。だが、この家では半ば日常である。


 そのようなふるまいをを許しているのは他ならぬ母親の能天気さだった。貴族社会では求められるお淑やかさはどこへやらとの疑問もある。


 ただ、そう振る舞えなくても一定の許しが得られるだけの特殊性があった。

 その特殊性こそ彼らの務め『仕え人』にあった。


 この家には代々『聖蛇』に仕え、世話し、守護を願う『仕え人』の役目があった。それゆえに多少お転婆であっても、ほんのすこし淑女らしさから外れてしまっていても、例えば縁組の適齢期であろうに一つも浮いた噂がなかろうとも、まぁ仕方ないかと肩をすくめられるだけで済んできた。


「あら、アンジェ。ちょうどお茶が入ったところよ。今日は隣の国のハチミツ入りの紅茶。飲んでいって?」


 満面の笑みを咲かせながら答えるはアンジェリーカの母親だった。

 元『仕え人』の母親もアンジェリーカ同様、ズレている。どちらが先かと言えばこの母の存在があったからアンジェリーカものびのびと育ったのだろう。

 そんな母親の自然体でとぼけたような姿に絆されてしまうのが、アンジェリーカの愛すべき点でもあった。

 

「ハチミツがあるの!? カルネも食べたいかしら……」


 聖蛇カルネリアのことを愛称で呼ぶ。そこには親愛の情があり、年相応の鈴のような笑みだった。


「多分舐めるわよ〜。たしか、私が『仕え人』だったときにあげた覚えがあるわ」


 ぬけぬけと『聖蛇奉仕典範』に触れそうなことを語る母親だが、止めるものは誰もいなかった。あんなものは現場をわかっていない政治の場面で作られたものにすぎない。彼女らにとって、現場に行って聖蛇と長い間触れ合ってみればなんだってしてあげてしまいたくなるのが当たり前であった。


「お母様ったら、多分とかたしかじゃダメじゃないの。お母様が『仕え人』だった頃なら書斎の日記に載ってるかしら……」


 とはいえ、聖蛇の体に問題ないかというのが優先事項である。アンジェリーカは当時の記録を漁るべく動き出した。


「そうねぇ、見に行こうかしら?」


 少し待ってね、と微笑みかけて飲みかけの紅茶をぐいぐいと飲む。

 その時間が、アンジェリーカに本題を思い出させた。


「そうだった、お母様! 『婚前契約書』をお見せください!!」


「あら~。見たいだなんて素敵な出会いでもあったのかしら?」

 

「そう、お母様!! 大変なの。カルネリアが、私に、求婚したの」


「……まぁ!! おめでたいわねぇ!!」

 

 呑気だ。アンジェリーカの母はあまりに呑気すぎた。普通の貴族の娘が言ったのであれば「バカな求婚したものがいるものだ。第一お前は嫁ぎ先が決まっているじゃあないか……え、聖蛇が? 人に? 求婚? なんで?? そんなことあったっけ、やっぱりないよねえ…… なにがあったの?」と素になってしまうこと間違いなしの非常事態である。


 聖蛇とは何か。


 聖蛇とは、この国を支える一つの象徴だった。魔力を帯びた白蛇『浄蛇』の上位種だ。野で過ごす『浄蛇』たちは基本的に人を害することがなく、その上魔獣を食い殺しその領域を守る。それをまとめあげる女王蜂のような存在が『聖蛇』だった。


 そしてその聖蛇は、政治上の都合から、管理されてきた。『浄蛇』たちによって守られているという国民の感覚に、『国』が守っているのだという情報を上乗せするかのように管理されてきた。

 アンジェリーカの先祖まで遡れば、今のこの国ができた経緯と蛇使いたちの確執や『蛇』を魔物として認定させないための数々の経緯があるのだが、それは今は関係のない話。


 問題は『蛇』と『人』の結婚は前例がないというか、どう考えてもないのである。


 「好きにしたらいいじゃないの、そもそも人とのお付き合いなんてアンジェには向いてないわよ〜」と穏やかながらもアンジェリーカの母は語る。


「で、でも。わたし、良くないと思うの……」


 アンジェリーカの母は目を丸くした。これまでアンジェリーカの縁談話があがるたびに「聖蛇カルネリアのことを溺愛し、尽くす人」と形容されてきたのを聞いてきた母親である。「そのような使命感を邪魔するのは忍びない」と向こうから持ち出してきた縁談話でありながらやんわりと断られる様を聞いてきた母親である。アンジェリーカがこう言い出すのは予想外であった。


「わたしね、最近思うことがあるの」


 アンジェリーカは訥々と言葉をこぼす。


「わたし、カルネに無理をさせてるんじゃないかなって」


「アンジェ……」


「だって、そうでしょう。カルネが野にいたら、もっとたくさんの『浄蛇』のなかからつがいをみつけていけるはずでしょう」


「そうかもしれないわね……『浄蛇』と『聖蛇』で交わる事例はあるものね。ただ、ここにいては用意された相手と番うしかないのは確かね……」


 母親も思うところがあったのか、憂慮するように頷いた。


「だから、わたし。カルネのためにもカルネからこの『聖蛇』の役目をおしまいにしたいの。

 まずはカルネに納得してもらう。結婚はできないって。

 そのあと、ちゃんとカルネに好きな相手を見つけてもらえたら、と思うの」


 伏し目がちにそう訴えるアンジェリーカの目には、決意があった。


 「断るのであればアンジェリーカの気持ちを理由に断ればいいのでは?」という思いがよぎった母親だが、それを口にはしなかった。アンジェリーカの気持ちだけで言えばきっとそれはお断りにはつながらないだろう。


「なら、なおさら探さないとね。いいでしょう。見つけに行きましょ」 


 そうして二人は書斎へと向かった。カルネへあげるはちみつの瓶も忘れずに持って。


 ***


 書斎は整理が行き届いていなかったものの、案外すぐに婚前契約書は見つかった。日記も無事に見つかって、はちみつの献上もその後の経過も問題なかったことが書かれていた。


「久々ね……婚前契約書を見るなんて」


 アンジェリーカの母親がそうつぶやき、懐かしそうに書面を撫でる。


「むつかしい言い回しばかりだわ。でも、一つでもいいからできないんだってことをカルネに伝えられればいいの」


 アンジェリーカは、丹念に条文をひとつずつ読み進めた。


「そうねえ……『身分の差を気にせずに愛し合うこと』なんてどうかしら。懐かしいわね……お父様が私に対してあんまりにも奥手だったからつい追加してしまったのだけれど、こういう文言は入れておくといいわよ」


 婚前契約書は蛇につかえるものとして、その技術の悪用や、悪しき心で取り入るものがないように、という形で代々伝えられてきているのに、一個人の愛情表現が乏しいからといって改造するのはいかがなものか。ただ、そのことを指摘する人はこの場所にはいなかった。


「お母さま、身分の差というのをちゃんと伝えるのも難しいし、何よりお断りするのよ。」


 カルネリアと話す際には、蛇言葉を用いるものの、蛇の世界には身分という概念がない。それを持ち込んで説明するよりかは、もっと手っ取り早く伝えられるものが望ましかった。


「あ、お母様。これで、いいと思うわ。どうかしら?」


 アンジェリーカが指さしたのは一つの条文。

 母親の目から見ても、問題なくお断りの理由となりそうな条文だった。


「それでいいと思うわ」

 

 その言葉を聞いたかもわからぬうちに、アンジェリーカはカルネリアのもとへ走っていた。



「カルネ!! 」


《アンジェ、待ってた》


 蛇の言葉でカルネリアは優しく語りかける。その言葉には親愛の情が多分に含まれていた。恋愛の慕情が含まれていることは違いなかった。


《お待たせ。ごめんね。お詫びのはちみつ、いる?》


 アンジェリーカが蛇言葉で返事を返す。カルネリアにしてみれば「伴侶になって欲しい」と言ったら「ちょっと待ってね」と置き去りにされた場面だったのだ。カルネリアはお詫びよりも何よりも答えを欲しがっていた。


《結婚、できる?》


 カルネリアが問うたのはその一言であった。


《ごめんね、できないの。家の約束でね》

《どんな、約束?》


 カルネリアは悲しそうに、問いかけた。

 アンジェリーカもその言葉にこたえる。


《お互いの言葉を理解して、お互いの言葉のどちらもを用いて、お互いを尊重すること》


 これは、間者が簡単に結婚相手として入り込めないように、と作られた条項だったそうだ。少なくとも言葉を解すほど土地になじんだ相手でなければ認められない、そして要求するのであれば我が家も同様に相手の言葉を理解し使うような姿勢でなければならない、との比較的簡単なルールだった。ただし、カルネリアとアンジェリーカであればそれは成り立たない。

 アンジェリーカはカルネリアの蛇言葉を理解して使うことはできるものの、『聖蛇』は人間の言葉をつかえた試しがないのだから。


「デキル」


 けれど、聞こえたのは人間の言葉だった。どうやったのかはわからないものの、カルネがその声を発していた。間違いなく、人間の言葉で、だ。


「え、そんなことが、できたの? カルネ!! すごいわ!! すごいわよカルネ!!」


 思わずはちみつの瓶を落として、カルネリアに触れてしまう。

 カルネの頭を優しくなで、その次に浮かんできたのは不安だった。


「でも、今度は陛下がなんておっしゃるかしら。『聖蛇』が人の言葉を解して話せると知ったら政治がどれほどカルネの邪魔をするのかしら。うーん」


 言葉と考えがアンジェリーカの頭をよぎる。少なくともお母さまに伝えてどう陛下にお伝えしていくのがいいのかを相談しなければ。そう決めたときにカルネリアが一言、問いかけてきた。


「ホカハ?」


 カルネリアは純粋な瞳で、「他に伴侶になれない理由があるのか?」と問うていた。ならば伴侶になってくれと呼び掛けてきているようだった。


ヘキが詰め込まれて大渋滞を起こしておりますが、機会と気力があればちゃんと整理して書きたいですね(/・ω・)/

いつかいずれ!!

お読みいただきありがとうございました!!

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