第30ー1話 空を同じくして、袂を分かつもの10
「何だ……あの化け物は……」
白い空間に閉じ込められている賀茂実道が呆然と呟く。
ここは人外の者、ネイロンの世界。
高校の教室に居たはずの賀茂はネイロンによってこの世界に引き摺り込まれてしまっていた。
「あれでもまだ人間だよ?君と同じひ弱な人間の範疇さ」
軽薄そうな男、ネイロンが答える。
美しい金髪の髪をいじりながら灰色の空間に腰掛け、高校の屋上を見下ろすような角度で下界を写す映像を見ている。
曇天のような世界の、何もない空間にまるで巨大なスクリーンがあるかのように、今まさに工藤と戦うせ光や真理と、警察官の姿が見えていた。
「あれが、人間の動きだと……ありえない……」
「そんな事ないさ。君達は神罰術式を生き残ったんだろ?なら、少なからず霊子に適性があったんだろ。それを使えるか否かは別の話だけどね」
何のことはないと話すネイロンだが、賀茂の頭には入ってこない。
目の前の光景が人外のもの過ぎて、その処理をするだけでも情報過多である。
「あの少年もなかなかやるね。だが、それ以上に相対している男2人の連携がいいね。さて、どっちが勝つかな?」
星斗達の戦いを愉快そうに見守るネイロン。
「お、木が変化したね。これもなかなか面白い事例だね。あぁ、いい怒りを感じるよ……君も怒ってるんだね」
「欅の木が……人型になった……だと?」
校庭の欅の木が化け物とかし、星斗達に襲いかかる。
先程までの光景以上に異様な光景が目の前に広がっていく。
「あれが例の銃弾とやらか……確かにあれならば我々にも届き得るのか。興味深いところだね。さて、あとはあの少年がどこまで頑張れるかだね」
「……」
星斗が欅の木の化け物を倒し、残るは工藤と戦う光と真理だ。
賀茂は無言のままじっと状況を見据えている。
(仁代さん……生き延びろ……)
願うは真理の無事だけ。
この空間に連れてこられてから、空を飛んで飛び去った伊緒と玲の姿や、欅の木の化け物、工藤の異様な動きを見せられた。だが、驚きこそすれど賀茂の心は大きく揺れることはなかった。
その代わりに全てへの怒りが込み上げてくる。
(何故あの場に俺が居ないんだ……何故隣には光が立っているんだ……何故、何故、何故、何故……)
上手く思う通りにいかない世界。
その全てが憎たらしく、怒りの対象となる。
不甲斐ない己自身にも向けられる怒り。
自問自答と怒りを反芻しながらも、ギリギリの位置で賀茂は己を保っていた、だが。
「ははっ!彼女、死んだかな?」
「……仁代、さん」
真理の腹に刺さる果物ナイフ。
目の前の映像は、ご丁寧に刺されて倒れる真理をアップで映してくれる。
溢れる鮮血。
血に沈む真理の姿。
世界がグルリと反転する感覚が賀茂を襲う。
目の前の光景が信じられない。
世界から色が失われていく。
「そん、な……何で……」
「あぁ、残念だね。お気に入りの子が死んじゃったね?ねぇ悲しい?寂しい?それとも……」
「……黙れ。口を開くな」
「そんな寂しいこと言わないで欲しいな。これでも心配してるんだよ?俺は君のことが気に入ってるからね?」
広がる血溜まりの中に沈む真理を見つめていた賀茂。
光が工藤を切り捨てるがそんな事はどうでもよかった。
ただ、ただ、怒りが湧き上がってくる。
膝をつき、地面に手をつき、目の前の光景から目を逸らす。
「何でお前が生きてるんだ……なんで彼女が死ぬんだ……何だこの世界はっ!」
「ふふ、俺なんか居なくても、お兄さんは自分で怒りに身を沈められるんだね。やっぱり俺が思ったとおりだ。お兄さんは面白いね」
賀茂の絶望は怒りへと転じ、憤怒の形相となる。
その様子を嬉しそうに見下ろすネイロン。
「ねぇ、お兄さん?俺と一緒に、この世界に壊そうよ。彼女は死んでしまったのに、この世界でのうのうと生きている奴等がまだ沢山いるんだよ?許せないよね?」
「世界を、壊す……」
「そうさ、君の怒りを世界に示そう。こんなくだらない世界を作った奴等に神罰を与えるのさ。そんな奴等、生きていていいわけないだろ?」
「神罰……まだ生きている人間が……いるのか……」
ネイロンの囁きに賀茂が顔を上げる。
「この世界に、人間がいるからいけないんだよ。あいつらがいるから、お兄さんの心を掻き乱し、くだらない、つまらない世界にするんだ。でもこのまま放っておいたら、また勝手に増えて、元通りになっちゃうよ?いいのかなぁ?」
「……俺が世界を……壊す……」
「そうさ!彼女のような人が生まれない、完璧な世界にするんだ!その為の力の使い方を教えてあげるよ」
悪魔の様な美しい笑みで、ネイロンが賀茂に囁く。
「仁代さんを……殺した世界を、壊す……」
「さぁ、俺と一緒に行こうか。お兄さんの怒りを世界に知らしめよう。先ずは力の使い方からだね」
「壊れろ、壊れろ、こんな世界、壊してやる……仁代さんを壊した世界なんて……全部壊してやる!」
賀茂の目に光が宿る。
世界を僧愛する光。
こんなにも醜く、こんなにも理不尽な、こんなにも不条理な。
そして、こんなにも愛した美しい世界を、賀茂は睨め付ける。
「ふふふ、いい目だねぇ。あぁ楽しみだなぁ……」(君の怒りが全てを焼き尽くすのが楽しみだなぁ……)
現実世界を映していた映像は消え、世界は曇天の世界へと戻る。
賀茂は立ち上がり、ネイロンに背を向けて歩き出す。
「何処へ行くんだい?」
「何処でもいい……ここ以外の何処かだ……」
「そうかい、じゃあ俺が連れてってあげるよ。さぁ、一緒に世界を壊そう」
「望むところだ」
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