第29ー2話 空を同じくして、袂を分かつもの9
「本当だよ、亜依はね、お母さんと一緒に居たんだよ。ここじゃないけど、よく思い出せないけど……お母さんはちゃんといるよ!でもね、お母さん達は今大変な事になってるの……だから助けて欲しいの……」
亜依が一息に話をし、真理の母親である仁代美夏が今も存在しいると言う。
真理は妹の亜依が現れた事もまだ頭が完全に対応しきれていないのだが、母親も居るとなるとあたまが完全に処理しきれなくなってしまう。
「お母さんが……生きてる?また……会えるの?」
「分からん……亜依も記憶が混乱していて正確な所が分からないんだ……亜依にはゆっくり思い出してもらうよ」
「ごめんなさい……」
亜依が申し訳なさそうに俯き、真理に謝る。
「亜依ちゃんが謝る事ないよ。教えてくれてありがとう。それに、会いにきてくれただけで嬉しいんだからね」
「あたしも……真理お姉ちゃんに、ずっと会いたかったの!」
真理に駆け寄り、抱きつく亜依。
真理はそんな亜依を優しく抱きしめる。
「お父さんと、伊緒お兄ちゃん達を連れて帰ってくるからね!そしたら、一緒に遊んでね!」
「うん、待ってるから。絶対に帰ってきてね。そしたらみんなで遊ぼうね」
「約束だよ?」
「約束する」
亜依と真理は小指と小指を結び、約束を交わす。
そんな2人を見守りながら、星斗は光にもう一つの大切な事を話始めた。
「光、お前にも伝えておくことがある。この状況を作り出した犯人に会った。そいつは人間じゃ無かったし、恐ろしく強かった。俺の銃弾が効いたからお前のその刀でも効果があるかも知れないが……なるべくなら戦うな、逃げられるなら逃げろ」
「この状態を作った犯人って……それに人間じゃなくて恐ろしく強い……拳銃使って、そいつはどうなったんだ?逃げられるような奴なのか?」
星斗の言葉に光は信じられないと言った表情で問い返す。
「拳銃であいつの腕を撃ったけど、自分で腕を切り落として逃げられた。魔法とか使ってくるから気を付けろ。逃げられるかは……確かに難しいところだな……」
「そいつの特徴は?」
「白地に赤い模様の入った法衣みたいな服を着てる男。赤く長い髪……それと、世界を憎むような真っ赤な眼。ルフと呼ばれていた」
「ルフ……目立つな……そんな奴いればすぐに分かりそうなだな」
「気を付けろ、良く分からないが、何もない空間からいきなり現れたからな」
星斗から聞かされるルフの情報を聞き、光は要注意人物として頭に入れていく。
特徴だらけの男の情報は一度聞けば忘れようがなさそうだ。
「いきなり現れるって、どういうことだ?」
「そのままだ、景色が割れて、その中から出てきた。あと喋る剣と光の盾も使って襲ってくるぞ」
「ますます分からないな……」
「取り合えず、そういう奴がいるってことを覚えておいてくれ」
「分かった。お前も気を付けろよ、そいつに恨まれてるだろ?」
光からの忠告に、星斗は顔をしかめる。
「……あぁ」
そう呟きながら、星斗は亜依と話をしている真理に向かって話しかける。
「真理、お前も気を付けろよ。光の言うことを聞いて、皆と協力してここを、帰る場所を守ってくれ」
「任せて、お父さんも亜依も気を付けて。絶対に帰ってきてよ」
「ああ」
「うん、約束だから」
星斗はそう言葉を交わすと、亜依を持ち上げてバイクに跨らせる。そして自身もバイクに跨り、バイクのエンジンをかける。
単気筒エンジンが勢いよく回り、マフラーから唸り声をあげる。
「じゃあ行ってくる」
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
クラッチを開け、スロットルを回す。
バイクは唸り声をあげながら2人を乗せて動き出す。
走り出したバイクが見えなくなるまで、真理は手を振り続け、光も隣で見守り続ける。
「行っちゃった……」
「無事に帰ってくることを祈ろう。その間に、僕達は色々やらないと」
「そうですね、手伝います」
「頼むよ。皆んなが帰ってくる場所を整えておかないとだからね」
光と真理は踵を返し、校舎を目指して歩き出した。
やらなければならない事は山積みだ。
大切な人は旅立ってしまった。
だが、目指すべき場所は同じだ。
家族が、皆が再び再開出来ることを祈って、暫しの別れだ。
吹き抜ける風が暖かく、空は青く澄み渡っている。
同じ空の下で生きていることを、今はただ嬉しく思う事にする。
次回更新は火曜日午後6時です!
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