第29ー1話 空を同じくして、袂を分かつもの9
「ふぅ、ようやく階段が出てきたな」
「誰かさんが壊したからね」
「あれは俺のせいじゃないだろ……」
軽口を言い合う星斗と光。
実際、屋上への出入り口を崩壊させたのは工藤であり、星斗は最後のきっかけにすぎない。
「しかし……この大きさのコンクリの塊を素手で動かせるのか……いよいよ人間として怪しくなってきてるな……」
「僕らも星斗程じゃないけど、力は強くなってるようだしね。これも霊子とやらの力なのかい?」
「多分、だがな……」
短時間で崩壊した出入り口の瓦礫を片付け、ようやく屋上から降りられるようになったところで、星斗達は改めて自分達の体の変化を実感していた。
「この辺は後でゆっくりと確認しとかないとな。力加減間違えそうで怖いわ」
「そうだな。よし、じゃあ皆んな、屋上から降りようか。動けない人に手を貸してあげて」
光の指示で真理と東風谷は動けずにへたり込んでいた雫に肩を貸し、星斗を先頭にして階段を降りていく。
「光、あの工藤とか言う少年は……」
「後で僕が降ろして埋葬するよ。お前は伊緒くん達を追ってくれ」
「すまん……」
工藤の遺体は屋上に置いてきたままだ。
流石に生徒達を手伝わせる訳にもいかず、星斗を伊緒達の捜索へ行かせたい光の考えもあり、屋上に放置してきたのだ。
「さすがに僕1人じゃ大変かも知れないけど……今は大人がいないからね……賀茂先生が無事でいてくれればいいんどけど……」
「もう1人先生が無事だったのか」
「あぁ、校舎の捜索に行ったまま連絡が取れなくなってしまって……そっちも後で捜索してみる。星斗は急いで2人を追えるようにしてくれ」
いまだに姿が見えず、連絡も取れない賀茂の安否を心配だが、光は改めて星斗に伊緒達を追うように伝える。
「何もかも本当にすまない……真理は……絶対に残るだろうから、それも頼む」
「それこそ織り込み済みだよ。こっちこそ、しっかり預からせてもらうよ」
「助かる」
1階まで降りてきた一行。
「まずは野口さんを保健室へ連れて行いって寝かせよう。その間に僕はバイクを準備してくるから。星斗、保健室まで頼めるか?」
「分かった」
光は星斗の貸すバイクを取りに走り、星斗達は野口雫を保健室へ寝かせる為、二手に分かれる。
「真理、大丈夫か?代わるか?」
「大丈夫、私も力が強くなってるみたい。それに、友達だしね」
「そうか……伊緒達を見つけたら戻ってくるから、ここで待っていてくれ。光に迷惑かけるなよ」
「大丈夫だって、そんなことしないよ。ちゃんと帰る場所、用意しとくから。伊緒と玲、連れて帰って来てね」
「ああ、任せとけ」
保健室に到着した一行は、雫をベッドの上に寝かせる。
雫は放心状態で周囲を見渡すが、やがて眼を瞑って意識を手放す。
「雫……大丈夫だよね……」
「体の傷は問題ないはずだから、あとは心の問題だけだな……こればっかりは亜依の力でもどうにもならないみたいだし……注意して見ておくしかないな、頼んだぞ」
「うん……」
心配そうに雫を見つめる真理。
「じゃあ、お父さん達は追いかける準備をしてくるから、後は任せた」
「あ、私も手伝うよ。見送りたいし」
「そうか。じゃあすまないが、先輩2人はこの子を見ていてもらっていいかな?」
「はい」
「玲ちゃん達のこと、よろしくお願いします」
星斗は西風舘と東風谷に雫を頼み、自らは出発の準備のために保健室を後にする。
校庭へと出てきた仁代家の3人は荷物を準備するため、カブの所までやってきた。
「星斗、これを使ってくれ」
そこへ光がバイクを押しながら現れ、星斗に声をかける。
光が押してきたのはオフロードバイクであり、大きなボックスが取り付けられていた。
「オフ車か、丁度いいかもな」
「外はそんなに酷いことになってるのかい?」
「ああ、いたる所で事故が発生して道路を塞いでるし、霊樹が道路に根を張って真っ直ぐに進むのが難しい」
「そんな状態なのか……」
「ああ、県警の本部とも連絡がつかないし、生存者も……」
改めて聞く学校の外の状況に、光は言葉を続けることができない。
光達は電話がつながらないことと生徒や教員の生き残りがこれだけしか居ないことで、とんでもないことが起きているとは感じていた。
だが、想像の斜め上をいく惨状に事態はより深刻であると突きつけられる。
「気を付けて行けよ……必ず戻るんだぞ」
「そのつもりだ」
カブの荷台から荷物を取り出して光のバイクのボックスへと移し替えながらそんな会話をしていく。
「よし、とりあえずこんなもんか。亜依は……乗れないよな」
「……うん、さっきより高いかな……」
試すまでも無く、カブよりも車高の高いオフ車にはそれこそよじ登らないと跨れなかった。
「星斗、亜依ちゃんのメットはどうする?他の人のでよければ小さ目のやつがあるぞ」
「借りた方が良さそうだな……俺のじゃ大きすぎて余計に危ないからな」
「じゃあ取ってくるから、その間に準備しといてくれ」
「光さん、私も一緒に行く。私で試してみて」
「分かった、行こう」
光は駐輪場へと駆け出していく。
残された星斗と亜依。
亜依は申し訳なさそうに星斗を見上げ、口を開く。
「お父さん……我儘言ってごめんなさい……あたし、どうしてもお父さんと一緒にいたくて……」
「お父さんも、亜依と一緒に居たかったから気にするな。亜依の力、頼りにしているからな」
「うん!」
気がかりだった事が晴れ、亜依の表情が明るくなる。
星斗にしても先程の言葉は本音だ。
亜依を危険な目に会わせたくないのも本音だが、会えたばかりの娘と離れるのが寂しいのも本当のことだ。
「星斗、これでどうだ。丁度いいのが無くて半キャップになっちゃうんだが……」
「私が被って丁度くらいだから、少し大きいかな?」
半キャップのヘルメットを片手に、光と真理が戻ってきた。
子供用のヘルメットが置いてあるはずもないので、これが現状で手に入る最良だろう。
「タオルを入れて被れば大丈夫そうじゃないか?亜依、ちょっと被ってみてくれ」
星斗はヘルメットを受け取ると、荷箱からタオルを取り出してヘルメットの中に入れて亜依に被せてみる。
「キツくないか?」
「うん、大丈夫そう」
ヘルメットを被ったまま頭を動かしてみる亜依。
多少大きいようだが顎紐を調整してどうにかなりそうである。
「それじゃあ行くか……っと、その前に大事な話がある。真理、お母さんは何処かで生きているらしい」
「えっ……?」
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