第28ー2話 空を同じくして、袂を分かつもの8
「他の人も治すね!」
「そんなにやって大丈夫か?」
「うん、まだ大丈夫そうだよ」
真理に星斗を治療しても、まだ余裕があると言う亜依。
星斗は心配しているが、亜依はやる気十分だ。
「じゃあ彼の骨折も治せるか?自然に治るのを待っていたら数か月かかるだろうし」
「うん、やってみる」
亜依は西風舘の所まで歩み寄り、先程と同じように手を掲げる。
西風舘に霊子が降り注ぎ、身体の中へと入っていくと、西風舘の表情が苦痛に耐えていたものから徐々に和らいでいく。
「本当に……治った……」
「やった!」
驚く西風舘と嬉しそうに万歳をする亜依。
周りに集まっていた面々も、ここまで見せられれば亜依の力を疑いことはない。
「亜依、凄いぞ!でも身体は大丈夫か?無理してないか?」
「そうよ、お、お姉ちゃんのことも治してるし……無理しちゃだめだよ……」
「真理ちゃん、そんな恥ずかしがらなくても」
真理は気恥ずかしそうに自分の事をお姉ちゃんと呼びながら、亜依のことを気に掛ける。
光もその様子が面白く見え、つい揶揄ってしまう。
「わ、私は、その……助けて、もらったから……亜依が無理したら可哀そうだし……それにちゃんとお礼も言ってなかったなって思って……」
普段の真理にしては、煮え切らない話し方でもじもじと言葉を紡ぐ。
「真理ちゃん、ちゃんとお礼言ってみれば?」
「……えっと、亜依……」
「はい!」
「助けてくれて……ありがとう」
「どういたしまして!お姉ちゃんの為だもん、頑張ったよ!」
真理が漸くお礼を口にすると、亜依は嬉しそうにはち切れんばかり笑顔を真理に向ける。
「はうぁ……」
真理は亜依の表情を見て、妹が目の前に居る実感と恥ずかしさ、嬉しさが入り混じった何とも言えない表情をしていた。
「よかったね、真理ちゃん。亜依ちゃんもお姉ちゃんを救ってくれて、ありがとう」
光も改めて亜依にお礼を伝える。
「こちらこそ、真理お姉ちゃんを守ってくれて、ありがとうございます。光おじちゃんも治療しますか?」
「……お、おじちゃん……」
亜依が光に対して”おじちゃん”呼びをしたことで、星斗が後ろを向いて笑っている。
当の光本人はおじちゃん呼びされたことがショックなのか、現在は思考を停止してしまった。
「亜依……おじちゃんはちょっと……可哀そうだよ?」
「え、でもお父さんが……」
「星斗!お前か!」
亜依におじちゃん呼びの犯人をばらされ、光にやりきれない気持ちをぶつけられる星斗。
「実際おじさんだろ、俺達は」
「……いや、まぁそうなんだけどな……何かこう、釈然としないんだよ……」
「ごめんなさい。おじちゃんて言っちゃって……」
「ああ!大丈夫だから!気にしないで!亜依ちゃんは悪くないから。これは星斗……お父さんのせいだから!」
亜依に謝られて慌てて亜依のせいではないと釈明する光。
全面的に悪いにのは唆した星斗である。
「ちょっとお父さん!亜依に何言わせてんの!」
「いやーすまんすまん。ついな……亜依、余裕があるなら光の傷も治してあげてくれ。」
「はい」
亜依は怪我をしている他の面々を順番で霊子を注いでいき、怪我を治療していく。
重症だった2人に比べれば、注ぐ霊子の量も難易度もそこまで高くはなく、一人一人順調にこなしていく。
「ふぅ……これで大丈夫なはずだよ」
「亜依、よく頑張ったな」
「お疲れ様。助かったよ、怪我人だらけじゃ何もできないからね」
亜依は怪我人の治療を終え、一息つく。
星斗が良く頑張ったと頭を撫で、亜依は嬉しそうに目を細めている。
流石に亜依も疲れたのか、疲労の色が顔に出ている。
そんな亜依の顔色を見て、星斗も亜依に休んでいるように言う。
「光、ちょっといいか?」
「どうした、改まって」
星斗が光に真剣な面持ちで話しかける。
光もただ事ではないと感じたのか、真剣に聞き直す。
「頼みがある……亜依を……預かってくれないか?」
星斗の口から出た言葉に、光は逡巡しすぐに頷いて見せる。
「伊緒くん達を追いかけるんだろ?その間、亜依ちゃんを預かってほしいってことか」
「あぁ……この先、どうなるか分からないからな……また今日みたいなことがあったら、守ってやれるか分からん……」
「分かった、伊緒くんと玲ちゃんのことは気になるけど……僕はここで生徒達を守らないといけない。僕の方こそ、伊緒くん達を頼む」
「任された」
矢継ぎ早の会話で今後の予定を決めて行く星斗と光。
隣で話を聞いていた真理も、この話については異論は無いのか、頷いている。
「お父さん、伊緒はちゃんと生きているよ。大体だけど……あっちの方……飛んで行った方でいいと思う。でも、かなり離れてる気がする」
「助かる……お前らは昔からそう言うの分かるんだよな……何処まで行ったんだか……東京か神奈川なのか……」
「ごめん、そこまでは分かんないかな……」
「何とかするさ。真理、亜依を頼む。お前の妹だ」
星斗から妹と改めて言われ、真理は嬉しそうに亜依を見る。
だが、そこには今にも泣きだしそうな表情をした亜依の姿があった。
「亜依……ちゃん?」
「お父さん……置いてかないで……あたしも……一緒に行く……」
「亜依?」
亜依は、絞り出すような声で訴える。
そしてそのまま星斗の下まで走り寄り、縋りつく。
「置いてかないで……1人にしないで……」
「亜依、大丈夫だ。お姉ちゃんも居るし、光も居る。それにお兄さんお姉さんも沢山居るんだ」
「そうじゃないの!……お父さんと一緒にいたいの!」
「ありがとう……でも一緒に行ったら、また危険な目に会うかもしれないから……ここに残ってくれないか?」
縋り、泣きながら一緒に着いて行くと訴える亜依。
星斗も亜依と離れたい訳ではないが、亜依を殊更に危険な目に会わせたい訳でもない。
我が子の安全を第一に考える父親と、今日やっと会えた父親と離れたくないと言う娘の攻防。
暫く押し問答が続くが、傍で聞いていた真理が亜依の前にしゃがんで声をかける。
「亜依。お父さんと一緒に行きたい?」
「……うん」
「お姉ちゃんより、今はお父さんと一緒に居たい?」
「……真理お姉ちゃんとも一緒に居たい……でも……」
「ごめんねこんな事聞いて……亜依はお父さんのこと好き?」
「うん。お母さんから、ずっと話を聞いていて……ずっと会いたかったの……」
「そっか。じゃあ仕方ないよね」
真理は立ち上がりながら亜依の味方に付くと宣言する。
「真理ちゃん!?」
「だってそうでしょ?一緒に居たいって気持ちに嘘は付けないもん。私だって、一緒に居たいけど……でも亜依の気持ちを放っとけないでしょ?」
真理はそう言うと、そっと亜依を抱きしめる。
「お姉ちゃんはここに残る。光さんと一緒に居たいから。それに、皆が帰ってくる場所がないと寂しいでしょ?お母さんなら、そうすると思うんだ。亜依が一緒に行きたいって言っても、笑顔で送り出すと思うの。だから、気を付けて行ってきてね?」
「うん、行ってくる」
「でも、これだけは約束して。……絶対にここに帰って来て。そしたら、お姉ちゃんとも遊んでね?」
「うん!約束する!真理お姉ちゃんと一杯遊ぶの!」
真理と亜依は指切りをして約束を交わす。
2人の間では亜依が星斗に着いて行くことが決まってしまったようだ。
「ちょ!真理、勝手に話を進めるな――」
「お父さん!亜依の気持ちも考えて!ずっとずっと、お父さんに会いたくて、やっと会えたんだよ!それなのに置いてかれる亜依の気持ちも考えて!お母さんならそんな寂しい事させないよ!」
「うっ……でもなぁ……」
真理の語気鋭い言葉に星斗がたじろいでしまう。
「星斗、僕も亜依ちゃんを連れてった方がいいと思えてきた」
「光!お前まで」
「確かに危険は伴うし、心配なのは分かる。でも……僕はお前のことも、伊緒くんも玲ちゃんも心配だ。亜依ちゃんの力……怪我を治せる力は、絶対に必要だ。それに……」
光の掌返しのよって、劣勢に立たされる星斗。
光は言い淀みながら、真理の方へを視線を泳がす。
「真理ちゃんの言ってることももっともだ。まるで、美夏ちゃんに怒られてるみたいで……星斗、連れてってやってくれ」
「そうだよお父さん!」
「お父さん!お願い!お父さんとか、伊緒お兄ちゃん達が怪我していたら治すから!」
3人が星斗に向かって三者三様の表情で迫る。
星斗は唸りながら悩み、葛藤している。
真理には亜依の気持ちを考えろと言われ、光には亜依の力が必要だと実利で諭され、更には美夏のことまで持ち出された。
「うんんんん……分かった……一緒に行く。亜依、それでいいんだな?」
「――うん!一緒に行く!」
「はぁ……お前等まで亜依に味方されたら勝てる訳ないだろ……特に真理、お前お母さんに似てきたな」
星斗は両手を挙げてお手上げとばかりに諦めと、決意の表情を浮かべる。
真理は母親に似てきたと言われて嬉しそうに笑みを浮かべている。
「しかし……2人乗りのカブで行くのは流石にキツイな……どうするか……」
「それなら僕のバイクを使えばいい。タンデムできるバイクだし。ちょっと準備するから、西風舘くん、皆を連れて下まで降りられるかい?」
「はい、大丈夫です。東風谷さん手伝ってもらっていいかな?」
「はっ、はい!」
「よし、じゃあ先に降りよう。星斗、荷物を移す準備をしておいてくれ」
「分かった……その前に、階段を発掘しないとだぞ?」
「あ、そうだった。みんなー手伝って!」
一行は屋上から降りる為、階段を発掘する作業を始めるのだった。
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