第27ー2話 空を同じくして、袂を分かつもの7
◇◇◇
突如光の手に現れた翠色の刀。
「光……?」
星斗の目に飛び込んだんのは、血を吹き出して倒れる工藤と、感情の消えた光の顔だった。
目の前で、人が死んだ。
親友が、人を殺した。
「光……」
星斗の中の感情が追いつかない。
思考を高速回転させようとしても、空回るだけで、何も考えられない。
工藤という脅威を排除したのだ、これで真理を助けるために行ける。
はずのなのだが、目の前の状況をどうすればいいかが思いつかない。
「真理……光……」
星斗の口から零れるのは、2人の名前だけ。
「正当防衛……いや、そんなこと言ってる場合か!」
何とか光の行動を正当化しようとしている自分に嫌気が差す。
(俺が、やらねばならなかった事だろ!それを光がやっただけだ!覚悟を決めたんだろ!家族を守るって!)
星斗は自分自身を叱咤する。
(今の俺に、光を責めるなんてことできる訳ないだろ!お前が光に掛ける言葉は、そうじゃないだろ!)
今、一番苦しいのは誰か。
今、一番自分を責めているのは誰か。
今、声を掛けられるのは誰だ。
(俺がやらなきゃ、誰がやるんだよ!)
「光!真理を守ってくれて、ありがとう。今、そこに行くから、待ってろ!」
星斗は這いつくばりながら、茫然と立つ光と倒れる真理に向かって進む。
漸く樹人の最後の反撃も緩まってきた。
砕かれた魂の最後の一欠けらが光の粒となって消えて行く。
「真理、死ぬんじゃないぞ!光、折れるんじゃないぞ!」
◇◇◇
「耶蘇、先生……」
遠巻きに光と工藤の戦いを見ていた西風舘が呟く。
「う、そ……」
吹き出る鮮血。
目の覆いたくなる光景を目の当たりにして、東風谷は腰が抜けて立てなくなる。
その横で亜依が茫然と立ち尽くし、倒れた真理と星斗を交互に見る。
「お、父さん……真理、お姉ちゃん……」
すぐ目の前に血を流して倒れる真理。
必死に這いつくばって助けに向かおうとしている星斗。
漸く会うことができた2人。
「居なくなっちゃ……嫌!」
走り出す亜依。
欅の木の暴風が途切れ、樹人がその場に倒れる。
亜依は真っ直ぐに2人の下へと向かう。
亜依を見て、東風谷も向かい出す。
腕を押さえながやっとの想いで立ち上がる西風舘を見て、こちらも気になってしまい東風谷の足が止まる。
「西風舘先輩……」
「俺はいい……から、すぐに、仁代さんの手当を……」
「――はい!」
西風舘に促され、亜依を追いかけて走り出す東風谷。
「今行くから!待ってて!」
◇◇◇
(僕は……切ったのか……?)
ヌルリと人を切った感触が未だに光の手に残っている。
(生徒を……殺したのか……?)
鮮血を浴びて赤くなった世界を見下ろしながら、光は自問する。
(僕は……守るべき……生徒を……自分の手で、自分の意思で、殺した……)
言い訳は幾らでも立つだろう、そもそも今の光を裁ける社会構造が残っているかも怪しい。
だが、一番光を許せないのは、光自身だ。
(そうだ……真理ちゃんを……助けないと……)
光は朧気な思考の中で、真理の存在を思い出す。
(今、行くから……あっ……)
振り返ろうとして、足が縺れる。
まるで、死んだ工藤が、光の足を掴んだかのように錯覚する。
(もう行っちまうのかよぉ?先生ぇ?)
光の足を掴んで離さない工藤の残滓を感じ、光はその場を動けずにいた。
「光!真理を守ってくれて、ありがとう。今、そこに行くから、待ってろ!」
光の耳に飛び込んできたのは親友の声。
自問と自責に押しつぶされそうな光に感謝を伝える声。
「真理、死ぬんじゃないぞ!光、折れるんじゃないぞ!」
「折れる……な……」
星斗の言葉を噛みしめる。
自分に言い聞かせるように、噛みしめる。
「僕が、折れたら……今、折れたら……」
脳裏に浮かぶのは、生き残った生徒達。
そして真理の姿が浮かぶ。
「生きろ、背負って生きろ!助けろ、真理ちゃんを助けろ!耶蘇、光!」
動き出す光の足。
工藤の残滓を振り切り、一歩を踏み出す。
「こんなところで、止まってたまるか!」
追いすがる残滓を振り払って、真理の下へと走る。
「星斗!救急車は呼べないのか!?」
「至急至急!!深山305から埼玉本部!!……駄目だ!やっぱり無線に応答が無い!!チクショウ!」
這いつくばりながら無線で本部を呼ぶ星斗だが、やはり応答は無く、携帯電話を取り出して、110番や119番通報も試みてみるが、呼び出し音だけがなっている状況だ。
「真理お姉ちゃん!返事して!」
「仁代さん!しっかり!先生!出血が……」
真理に駆け寄り声を掛ける亜依と東風谷だが、真理から返事がない。
「東風谷さん!傷口を押さえて止血を!」
「はい!」
光は上着を脱ぎ、真理の横に座り込んで傷口を上着で押さえるが、出血が酷く、みるみる真理の顔が白くなっていく。
「真理ちゃん!起きろ!死ぬな!」
「真理!起きろ!美夏が……お母さんに会えるかもしれないんだぞ!」
真理の下まで這ってきた星斗が、真理の母親の仁代美夏に会えるかもしれないと話しかける。
その言葉を聞いて、真理の目が薄っすらと開く。
「おか、あ、さん……」
「真理!そうだ!お母さんにだ!だから死ぬな!待ってろ、今助けてやるからな!」
星斗、光、東風谷そして追いついた西風舘。
4人が真理を助けようと必死に止血し、繋がらない電話をかけ続ける。
その中で、亜依は真理の手を握り続けていた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
戻った意識とは裏腹に、失われていく真理の体温。
冷たくなっていく手を握り、必死に温める亜依。
(お姉ちゃん!死なないで!折角会えたのに……もうみんなと別れるのは嫌……もう悲しいのは嫌……だから、死なないで!お姉ちゃん!)
亜依の願いが、霊子と結び付く。
次回更新は火曜日午後6時です!
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