第25ー2話 空を同じくして、袂を分かつもの5
光は星斗が拳銃を上空に構えて樹人に狙いを付けようとしている姿を見て、すぐさま落ちている瓦礫を拾って走り出す。
走りながら宙に浮く樹人に向けて瓦礫を全力投球すると、常人の膂力では到底成し得ないような威力で樹人に衝突した瓦礫は、樹人の顔面に命中し砕ける。
ギロリと光に視線を向ける樹人。
宙にフラフラついていた樹人の動きが止まる。
(いつもより拳銃が安定する……これなら!)
乾いた発砲音と共に飛び出した弾丸は再度樹人の胸を抉る。
「もういっちょ!」
「クヒっ!それも面白そうだなぁ、俺に貸してくれよ」
ヌルリと星斗の横合いから姿を現した工藤。
油断していたわけではない、だが意識を逸らしてしまった。
「くそっ――」
構えた拳銃目掛けて手を伸ばす工藤。
「あんたの相手は、私でしょ!」
目の前まで伸びていた工藤の手が消え去り、瓦礫の山まで吹き飛んでいく。
「真理!いい蹴りだ!」
「お父さんは上のあいつに集中して、こっちは私と光さんで抑えるから」
「頼む」
胸を抉られ、怒りの眼を星斗に向ける樹人。
手にしたナイフを握りしめ、身体を急降下させる。
上段から大振りの一撃を放ちながら星斗に襲いかかる樹人。
星斗はその攻撃を受けずに脇に避けてやり過ごす。
そのまま拳銃を構えて樹人に狙いをつける。
発射された弾丸は既に抉っている樹人の胸を更に抉り、開口部から翠色の魂がその姿を露になる。
「――すまんな、何に対して怒っているのか分からないけど、目の前で人が殺されそうになるのを見ている訳にはいかないんでね」
それは樹人なら対する謝罪なのか、はたまた己の行動に対する口実なのか。
星斗は抉れた開口部を修復しようとする樹人に向けて更に拳銃を構える。
素早く引き金を引き、放たれた弾丸は翠色に輝く魂へと吸い込まれていく。
「ギエエエエエエェェェェェェ!!」
樹人は雄叫びをあげながら4本になった腕を振り回す。
星斗はやたらめったらに腕を振り回すだけの樹人から距離を取り、事態の進展を見守る。
「やっぱりこれだけじゃ駄目かな……今のうちに翠の弾を作るしかないな……」
星斗は拳銃を構えたまま、スッと左手を握り込み、翠の銃弾を創るために意識を集中させる。
次第に星斗の左拳に周囲の霊子が集まり出し、輝きを増していく。
(ここで決着を付けないと……誰かが犠牲になってしまう……そうはさせない。俺がこいつを倒す!)
星斗が願いを銃弾に込める。
◇◇◇
「ヒヒッ!あっちは随分楽しそうだな……そうか俺も、もう1回作ればいいじゃん。楽しすぎて忘れてたぜぇ、フヒッ!」
星斗と樹人の戦いを横目に、光と真理に対峙する工藤。
そして星斗が霊子を集める様子を見て、自身も再度ナイフを創ればいいのだと思い出す。
工藤は右手を目の前で返し、掌を見つめて集中し始める。
「イヒヒヒヒッ!もっとだ、もっと殺したい!俺を楽しませてくれ!!」
工藤の右手に集まりだす霊子の粒。
「「させないっ!」」
真理と光がすかさずナイフの創造を阻止するために駆け出す。
「そんな焦んなよ。これからじっくりたっぷりとヤリ合おうぜぇ」
「アンタなんかと、何かやる趣味はない!」
「もう大人しくしてもらうよ」
工藤を挟み込むように左右から挟撃する真理と光。
ナイフを創り出そうとしている右手を狙って蹴りを放つ真理。
右手の防御に集中し、防御が薄くなるであろう下腹部に向けて突きを放つ光。
「ヒヒッ!危ない危ない」
2人の攻撃を受ける事はせず、後ろに飛び退いてやり過ごす工藤。
2人の攻撃は掠ることもせずに空を切ってしまう。
だがそれで止まる2人ではない。
勢いそのままに工藤へ向かって追撃を開始する。
「大人しくしなさい!」
1歩先に出た真理が追撃のため右拳を握り込む。
更に距離を取って迎撃準備をしようとする工藤。
その工藤が突然前方へと引き摺り出された。
「真理ちゃん!合わせて!」
「はっ!」
翠の鎖を引き、工藤の身体を前方へと引きずり出したのは光の行動だった。
真理の拳が飛んできた工藤の顔面に突き刺さる。
「――がっ」
「そのまま吹っ飛べ!」
工藤を捉えた拳をそのまま振り抜き、地面に叩きつけようとする真理。
だが工藤もそのまま吹き飛ばされる訳ではない。
真理の右腕を左手で掴み、自身の身体をぐるりと半回転させ、位置を入れ替える。
そのまま真理の身体をコンクリートの瓦礫の山に叩きつける。
「――っくぅ」
「真理ちゃん!」
叩きつけられた真理を心配しながらも、工藤の背中に警棒を振り下ろす。
叩きつけた警棒は振り抜くことはできず、工藤も体制を崩すことはない。
工藤の右手には更に光が集中し始め、ナイフの形を作る。
「フヒッ!いてぇぞ、先生!」
「ぐはっ」
振り向きざまに工藤が放った裏拳が光の顔面を捉える。
「イヒヒヒヒッ!」
光を追撃しようと動く工藤。
その手には紅黒い斑ら模様の翠のナイフが現れ始めていた。
「よくも光さんを――」
意識が光へと向いていた工藤の真横に真理が立っていた。
「殴ったわね!」
真理の拳が工藤の横っつらにめり込む。
脳を揺らし、意識を刈り取る一撃。
「グヒッ!」
だが、その程度では工藤が沈まないのは百も承知。
再び真理に意識が向く工藤。
「させないよ」
真理の対角から光が工藤を挟み込む様に立ち、警棒を振り上げていた。
頭が下がり、光達の眼科に晒された首筋。
首を刈り取るが如く、雷の一撃が振り下ろされる。
「っかは……」
警棒は根本から破断し、破片が周囲に飛び散る。
曲がるか、折れるかするのが人間の限界だろうはずだが、光の一撃は金属製の警棒を粉々に砕いてしまう威力があった。
それでも、工藤の意識を刈り取るには一歩足りない。
「――いってぇな……」
落ちかけた意識を寸前で保ち、体勢を持ち直そうとする工藤。
「そろそろ――」
天高く振り上げた真理の右脚。
「――黙りなさい!」
真理の踵が工藤の首筋を捉える。
死神の鎌が工藤の首と意識を刈り取る。
「――――」
白目を剥き、顔面から地面に叩きつけられる工藤。
その右手に形作られ始めていたナイフが翠色の霊子の粒となって霧散していく。
「光さん!手錠!って口から血が……」
「ああ、少し切れただけだから大丈夫だよ。真理ちゃんも大丈夫?血が出てるよ?」
「私もそこまで大した傷じゃないです……なんででしょうね、普段なら大怪我なんですけど……」
ようやく工藤を制圧して若干の余裕ができたのか、光と真理は会話をしながら工藤の右手に手錠をかけていく。
後ろ手に手錠をかけ、光は工藤の上体を起こす。
「その辺は後で星斗に聞いてみよう、何か知ってそうだったかね……よし、息はしているね」
「お父さんは霊子がどうのとか言ってましたよね……もう息の根を止めてもいいんじゃないですか?」
不穏な言葉を口にする真理。
「駄目、そんなことはするもんじゃないよ。これからどうするかは考えなきゃいけないけどね」
「はーい、とりあえずお父さんの加勢に行きますか?」
「そうだね……ああ、でも星斗も終わりそうだよ」
星斗の右手に翠色の光が集まり、眩く輝いている光景を見て光がそう答えた。
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