第24ー2話 空を同じくして、袂を分かつもの4
◇◇◇
「あっちは随分と派手にやってるみたいじゃんか、こっちも早くヤロウぜ!」
立て続けに鳴った2度の銃声を聞きながら、工藤は待ちきれないとばかりに光と真理に飛び掛かる。
工藤を迎え撃つべく構えをとる2人。
工藤はその2人の前に着地し、そのまま襲い掛かろうと拳を構える。
真理と光が拳に意識を集中させた瞬間、工藤が明後日の方へと横跳びする。
向かった先は星斗と樹人の戦いの中。
「あっ!」
真理が声を上げた時には既に距離があった。
「ヒヒッ!」
「させないって言ったよね」
工藤の嗤い声とは真逆の冷めた声。
光は工藤を追うように飛び出し、工藤と星斗の間に繋がった鎖を素早く掴む。
そのまま一気に工藤を担ぐように引きつけ、半円を描くように工藤をコンクリートへ叩きつける。
「がっ……」
「すまないね……君はこれ位じゃ全然堪えないのは分かってるからね。そろそろ大人しくして欲しいんだよね」
未だに工藤のことを生徒として見ているのか、光は謝罪の言葉を口にする。
それでも、全く堪えない工藤に痺れを切らしてきたのか、光も強めの態度を示す。
「私は光さんほど甘くないから!」
「ぐふっ!」
墜落した工藤の腹に、真理のつま先が突き刺さる。
工藤の身体が浮き、ゴロゴロと地面を転がされ、瓦礫の山にぶつかって止まる。
「真理ぃぃ!やってくれたな!」
「名前で呼ばないでくれる?」
すぐさま立ち上がる工藤に、冷たく言い放つ真理。
工藤は真理に向かって走り出し、手に握り込んでいたコンクリートの瓦礫を真理に向かって投げつける。
「っく!」
散弾のようにばら撒かれた瓦礫の粒が真理に襲いかかり、真理は両腕で顔面を覆って礫の散弾から身を守る。
腕や身体にゴツゴツとした衝撃が走り、真理の動きが止まる。
「フヒッ!」
真理に飛び掛かる工藤。
「真理ちゃん!」
光が真理と工藤の間に割って入ろうと駆け寄る。
工藤がニヤリと嗤い、自身の左手に繋がれた鎖を大きく振るい、鎖はうねりながら光へと殺到する。
光も防御しようと手を伸ばす。
「イヒっ!」
工藤の口元が更に歪む。
左手を捻る。
鎖に新たなうねりが生まれ、波のように鎖を伝わって行く。
「くっ!」
突如の軌道変更に光の対応が遅れる。
翠色の鎖が光の顔面を捉えようと牙を剥く。
「そのまま行け!」
後方から星斗の声が聞こえた。
光は鎖から目を離し、一直線に真理と工藤の射線へと割り込むために駆ける。
星斗に鎖を取られ、不意打ちが失敗した工藤だが、そんな事は大したことではとばかりに嗤いながら割り込んできた光に向かって殴りかかる。
「大人しくしろ!」
光へと意識の向いていた工藤の真横から真理が回し蹴りを仕掛ける。
真理の一撃は工藤の腕に阻まれてしまうが、その隙に射線へ入り込んだ光が工藤の顎を蹴り上げる。
「うぉらぁぁぁぁ!」
宙を舞った工藤を星斗が鎖を使ってコンクリートへと叩き落とす。
強制的に肺から空気が漏れ、工藤は憎々し気に星斗を睨み、嗤う。
「光!今だ――」
「星斗!後ろ!」
星斗が捕縛の合図を出そうとした時、割れた胴体部を押さえていた樹人が星斗に向かって飛び掛かっていた。
胸の穴はゆっくりと塞ごうとしているのか、周囲の細胞が蠢いている。
――シネ――
機械音の様な叫び声しか上げていなかった樹人から言葉が漏れた。
振り上げられた手にはナイフが握られ、殺意を持った一刃が降り注ぐ。
「うおぉぉ!」
星斗は全力で身体を屈ませながら、真横に転がる。
寸でのところで回避し、一寸前まで星斗が居た場所を紅黒い翠色のナイフが突き刺さる。
ナイフは易々とコンクリートの地面に根元まで突き刺さり、その瞬間から周囲のコンクリートが赤黒く変色を始めた。
「すまん、そっちは任せた。よそ見してたら殺されちまう」
「分かった、捕縛できたらすぐにそっちにいく!」
「こっちは任せて、お父さんはそいつをお願い!」
再び樹人と向き合う星斗。
その横を通り抜け、樹人に組み付く人影。
「それぁ俺のだろ。返してもらうぜ!」
工藤がいつの間にか立ち上がり、樹人の腕に取り付いていた。
狙いは工藤が一番初めに創り出したナイフ。
突然現れた工藤にナイフを渡すまいと抵抗する樹人。
「おい!暴れんじゃねぇ!これは俺のもんだ、返しやがれ!」
――ジャマヲスルナ――
工藤は樹人がナイフを握る腕を握りしめと、メキメキと木が拉げていく音がする。
「フヒッ!握りつぶしてやる」
――ドケ、ジャマモノハコロス。ニンゲンヲ殺す――
腕の繊維を握り潰されながら、樹人が怒気の籠った言葉を紡ぐ。
そして、2つの翠色の宝石の様な目だけがあった顔がミシリミシリと蠢き出し、ガパリと裂けて口ができ上がる。
「ワタシをキズツケルものはスベテ殺す!」
ギチギチと音を立てながらも、口から言葉を発した樹人。
その言葉は怨嗟であり、全ての人間を憎む呪いの言葉。
「やれるもんなら、やってみろよ!この化け物が!」
「コロス殺すころす、お前を殺す!全て殺す!」
確かな意思を伴った怨嗟を吐きながら、樹人の背中から幾本もの枝が伸び上がる。
事態の推移を拳銃を構えながら見守っていた星斗と光、真理に向かって伸び上がった枝が急降下を始める。
「避けろ!」
星斗達が立っていた場所に次々と極太の槍と化した枝が突き刺さっていく。
枝の群れはコンクリートの地面を穿ちながら、波濤となって星斗達に押し寄せる。
槍衾を抜け、強制的に後ろへと下がらされていく3人。
「くそ!前に進めない!」
「星斗!一旦下がって準備を整えろ!」
「!あいよっ――」
槍衾を横薙ぎに攫っていく枝を屈んでやり過ごす星斗。
光と真理も飛び上がって横薙ぎの枝をやり過ごす。
空中で身動きが取れなくなった2人目掛けて槍の枝が襲い掛かる。
「真理ちゃんこっちへ!」
光は腕を伸ばし、真理は光の手を握る。
光が真理を引き寄せ、空中で枝の槍を躱して見せる。
更に迫る槍の群れ。
「くっ、きりがない……」
地面に降り立ち、すぐさまその地面の上を転がって枝の槍から逃れる2人。
「星斗!まだか!?」
「今……やってる!」
右手に意識を集中し、欅の木の樹人を打倒すイメージを膨らませる。
如何に倒すか、如何に無力化するか、如何に殺すか。
(くそっ!意識がブレる……心から……想えない……)
始め星斗が目の前の樹人を見た際は、化け物だと思った。
だから倒さねばと思ったのだ。
だが、星斗は見てしまった。
樹人の中に宿る翠色の大きな光。
魂の光を、見てしまったのだ。
(あんなもん見たら……亜依と……亜衣達と……同じじゃないか……俺にできるのか?魂を殺すことができるのか?)
星斗の心は、抜け出せない樹林の中に捕らわれてしまった。
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