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暁の世界、願いの果て【毎週火曜、金曜18:00に更新です】  作者: 蒼烏
第2章 日常讃歌・相思憎愛
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第23ー1話 空を同じくして、袂を分かつもの3

「やった!お父さんが捕まえた!」

「あぁ……でも、2人とも大丈夫かな……」

「あの手から伸びてる物は何なんだ……?」

「あれが、お父さんが言ってた……霊子?」


 工藤と戦う仁代星斗(じんだいせいと)耶蘇光(やそひかる)を見守っていた仁代亜依(じんだいあい)が、星斗が工藤を何かしらで捕まえたことを喜び、東風谷(こちや)は2人を心配する。

 だが同じく見守っていた西風舘(ならいだて)仁代真理(じんだいまり)は、星斗のその手から伸びる翠色の線に釘付けになっていた。


「もう、人類の戦いじゃないだろ……こんなの……」

「私にも、あんな事ができるの?」


 星斗に”霊子に願いを乗せる”と言われ、何度か試していた真理だが、未だに上手くいっていなかった。

 目の前で父親がやって見せたことで再度試みるも、やはり上手くいかない。

 見守るしかない状況に、焦りと苛立ちを募らせる。


(何で、できないの……私は、光さんを、お父さんを、助けたいのに……助けるための力が欲しいのに……)

 

 現状を突破する糸口の見えぬまま、真理は状況を見守るしかない。


 ◇◇◇


 工藤は目の前で起きた翠色の光の爆発から逃れるように、後方へと大きく飛び去って間合いをとる。

 一旦距離をとった工藤は、左手の手錠に絡みついた翠色の線を見やる。

 

「何だこれは……何なんだよぉ!これは!!」

「俺も知らねえよ。取り合えず、大人しく捕まってくれ」


 工藤は得体のしれない何かに繋がれたことを星斗に問い質すも、星斗はその答えを持ち合わせていない。

 星斗も自身の左腕から伸びる翠色の線をチラリと確認する。

 それは鎖の様な構造をしており、左手に巻き付くように存在していた。

 ひんやりとしたまるで鉱石のような金属のような不思議な肌触り。確かな質量を伴い、物質として星斗の手の中に存在しているようだ。


(捕まえたい、捕縛したいと願った結果がこの鎖なのかね……手錠の延長……或いは捕縄(ほじょう)の延長ってところか……)

 

 それ自体は星斗が望んだものであることに間違いない。だが、望んだのは”捕まえたい”ということまでだ。

 故に、星斗自身もこの鎖をどのように使っていいのか分からないでいた。


(今は5メートル位まで伸びてるのか……伸びるのか、縮められるのかも分からないけど……絶好のチャンスなことは間違いないが……)


 工藤の手にナイフは無い。

 更に、相手を拘束する手立てを得た状態である。


「光、無事か?」

「あぁ、お前より軽傷だ。それより、それどうなってるんだ?」

「分からん、だがチャンスだ」


 立ち上がり、星斗の横に並び立つ光。

 光は星斗の手に握られた翠色の鎖を見て疑問を呈するが、その答えにさもありなんと頷くののみであった。


「俺が行ってみよう。星斗頼むぞ」

「任せろ」


 光は警棒を手に、工藤へ向かって走り出す。


「くっそ!」


 工藤はコンクリートの上を滑っていったナイフを手に取ろうと飛び出す。


「させるか!」


 ジャラリと鎖が鳴き、工藤の動きが止まる。

 すかさず星斗が鎖を引いて工藤の動きを止めみせたのだ。


「行け!光!」

「はぁっ!」


 光は警棒振り下ろし、工藤の肩口を狙う。

 工藤は警棒を受け止めることはせず、右に横跳びしながら光の一撃を躱す。

 ナイフを取りに行くことも、距離を取ることも許されない状況に、初めて工藤の顔が焦りの色を帯びる。


「ゆっくり、距離を詰めるぞ」

「了解」


 星斗が鎖を引き寄せながら慎重に工藤との距離を詰めていく。

 光はその間も工藤を牽制して動きを封じる。

 2人はジリジリと工藤に迫り、あと数メートルの所まで追い詰めた。


「クソがぁぁぁぁ!」


 やぶれかぶれの突撃。

 手近な光に向かってただ突っ込んで来るだけの動き。

 光は警棒を構え、工藤の肩口目掛けて振り下ろす。


「フヒッ!」


 工藤は嗤いながら翠色の鎖を両手に取ってた。

 鎖を両手で頭上に掲げ、打ち込まれた警棒を受け止める。

 更にそのまま鎖を警棒の(つば)に光の腕ごと巻きつける。


「まずっ――」

「ちっ!光!」


 星斗は鎖を握る左手を更に引こうと構えていたが、鎖を引けば光の動き邪魔してしまう。

 素早くそう判断した星斗は右手の拳銃を工藤に向かって構える。


(鎖が使えないなら……拳銃だ。今なら、当た……っ!)


 星斗の視界は照星と照門の先に工藤を見ていたはずだった。

 しかし、目の前に見えたのは光の背中だけであった。

 光を縛った工藤が強引に光の体をずらして射線を潰したのだ。

 奇しくも工藤に鎖を利用されてしまう形となってしまった。

 星斗は回りこんで工藤を捉えようとするも、間に光が位置取るように工藤が動き回る。


「フヒヒヒ!チェーンデスマッチだぜ先生!」


 巧みに星斗の射線を切りながら、空いた右拳で光を殴りつけ始める。

  

「おらおらおらっ!どうしたんだよっ!先生もヤロウぜっ!」

「くっ……」

 

 両腕で顔面を防ぎながら工藤の猛攻を凌ぐ光。

 一撃一撃は重く、わざと両腕の上から殴りつけてきていると分かっていても迂闊に腕を下げる訳にはいかない威力。

 

「先生!がら空きだぜぇ!」


 工藤の猛攻で自然と上がっていた両腕。

 疎かにしていたわけではないが、胴が空いていた。

 光の鳩尾を抉る様な一撃がめり込む。


「ぐっはっ――」


 血反吐を吐きそうな衝撃が光の身体を突き抜ける。


(まずい……)


 反射的に下がる両腕、その空いた隙間を工藤の拳が突き抜ける。


「フヒィィィ!」


 工藤の拳が光の頬に刺さる。


「ごっ……」


 いったん崩れたリズムを元に戻すのは相当に困難である。

 

「イヒヒヒヒヒヒッ!」


 連続して打ち込まれる工藤の拳。

 頬に、側頭部に、鳩尾に。

 工藤の連撃を受けてしまい、光の口元から一筋の紅い帯が流れ出る。


(このままじゃ……距離も取れない……いやむしろ……)


 光は距離を取る考えを改め、殴ることに夢中な工藤の拳を掴みにいく。

 ナイフも無く、これだけの接近戦である。

 相手を掴む()()()()()()()()()

 光は防御を捨て、工藤の腕を取る事だけに集中する。

 繰り出される工藤の拳を追い、狙いを定めた猛禽類のよう様に、一瞬のうちに狩る。

 光の右手が工藤の左手首を、左手が右手首を鷲掴みにした。

 

「おぉ?何かやるつもりだな、先生」

「星斗!僕ごと()()()!!」


 光は星斗に向かって「投げろ」と叫んだ。

 星斗は振り返りもせずに叫ぶ光の背中を見て、すぐさま拳銃をホルスターへと仕舞う。

 そして左手から伸びる翠色の鎖を両手で握り、光ごとまとめて勢いよく鎖を引く。


「うぉらぁぁぁぁぁ!!」


 星斗の叫び声と共に、ジャラリと鎖が鳴く。

 鎖は勢いよく光と工藤をまとめて星斗の方へと引き寄せられ、星斗の横を通過しながらまとめて浮き上がる。


「いっけぇぇぇ!!」

 

 2人分の重量をものともせず、星斗は浮かび上がった工藤と光を振り回す。

 星斗は腕の筋力で2人を振り回し、足腰で強力な遠心力に耐える。

 そして工藤が下になるタイミングでコンクリートへと叩きつける。


「がっ!」


 轟音と共にコンクリートに叩きつけられる工藤。

 その上から体重をかけた工藤を押さえつけている光。

 コンクリートはひび割れ、生身の人間のはずの工藤がコンクリートにめり込んでいる。

 流石の工藤も血反吐を吐き、何処かしかに傷を負ったようだ。

 通常の人間であれば、即死してもおかしくない威力であったが、そこまでしないと工藤を抑え込むことができないのである。


「星斗!急げ!」

「おう!そのまま押さえてろ!」


 星斗は言われるまでもなく駆け出し、工藤の捕縛に向かう。

次回更新は金曜日午後6時です!


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