第18ー2話 宣言
「屋上、着きましたよ」
「よじ、開げろ゛」
屋上に続く扉まで辿り着いた一行は、工藤の指示により屋上へと出ていく。
工藤はゆっくりと最後に屋上へと足を踏み入れる。
優々と進み出て、屋上に設置されている室外機の1つを選ぶと、そこへ玲に座るように指示をする。
「ごごに乗っで座れ。足を地面に付げるな、両手は後ろに回ぜ」
土台の上に設置されている室外機に座った玲の足は、ブラブラと宙に浮き、両手は後ろで工藤に掴まれて身動きが取れない状態となる。
更にその状態でナイフを首元に突きつけられ、前に飛び降りようものなら、自ら首を掻き切る状態にされる。
「っ!」
両手を強く握られ、苦悶の表情を浮かべる玲。
「おい!玲を傷付けるな!」
「ヒヒ、お゛ぉ怖い。別に殺しゃじねぇよ。大人じぐじでりゃなぁ?フヒッ!」
工藤がニヤニヤと嗤いながら楽しそうに答える。
(くっそ!"今は"ってことか!もう少し耐えてくれ、玲……)
伊緒は悔しそうに顔を歪みねがら、何時でも動けるように身体を適度に緊張させる。
真理はその様子に気が付くも、最早止める事なく自身も同様に備える。
「ヒヒ!楽じぞうだなぁ、今ずぐヤリだぐなっぢまうじゃねぇが!まぁでも、少じは我慢じねぇどな、生ぎ残りが集まるまでは我慢だ。おい先生よぉ、他に生ぎ残りは居ながったのが?あと賀茂はどうじだんだよ」
工藤は伊緒と真理の殺気に当てられたのか、興奮気味に声を上げる。
工藤から向けられた質問に対して、光は若干戸惑いながらゆっくりと話だす。
「……私が見た限りでは、ここに居る生徒以外に生き残りは居なかったよ……職員室も同様。賀茂先生は……分かりません。別々に行動していたので。今、どうなっているのか……」
光の話に工藤以外の4人の生徒達は驚きの表情を浮かべる。
工藤はその事実すら、さも楽しそうにニヤニヤと嗤いながら聞いている。
「耶蘇先生……それじゃあ、皆んな、あの木になってしまったんですか?」
西風舘は信じられないと言わんばかりに光に問いかける。光も西風舘の言葉に首肯する。
「フヒッ!なんだよぞれ!最高に面白れぇじゃねぇが!ごの世界、全部ぶっ壊れたんじゃねぇの!ウヒッ!」
「全部かどうかは分かりませんが……警察や消防には連絡が付きませんでした。市の教育委員会も同じです。恐らく、広範囲に、そして多数の人間が霊樹とやらに変わってしまったのでしょう。我々も、何時あの木になってしまうか……」
光の口から告げられる絶望的な状況。
「そんな……こんな事が……日本中で……?」
避難してくる生徒がいない事から、学校が危機的状況なのは何となく感じていた。それでも、学校の外に行けば希望が見えるかもしれないと思っていた。
西風舘もそんな風に思っていたのだろう、それを打ち砕く情報に驚愕の表情を浮かべる。
「日本中……それで済んであればいいですが……」
「光さん……それって……まさか、世界中で……?」
「分からない……確かめる術も、時間もなかったから……」
「……」
もしも、この状況が世界中で起こっているのならば、それは絶望に値する。
だが、残された生徒達がまず思い浮かべるのは、家族の顔であり、友人の姿である。
家族、友人の喪失。身近な者の死。
それに思い至った瞬間、虚無感が襲い来る。ポッカリと空いてしまった心の穴に、絶望が流れ込む。ひたひたと穴を埋める様に。
「光さん……お父さんは……」
「ごめん……みんなの御両親にまだ連絡は取っていないんだ……僕の携帯も使えなくて……」
「そう、ですか……」
新たな懸念に更に顔を曇らせる真理。
伊緒も真理の不安に煽られたのか、同じように神妙な表情になっている。
そして一番の懸念材料は、先程まで生存していた筈の賀茂が音信不通になっていることだろう。
それを一番に感じているのが、部活の顧問と関係の深い西風舘である。
「まさか、賀茂先生が連絡取れないのって……」
「分かりません……生徒の確認のために別れた後から連絡が取れません。何かがあったのか、或いは……」
「そんな……」
――無事だった人間にも何かが起こっている可能性がある――
その可能性は、生き残り達の心を縛る。
「なんだよ、賀茂先生木になって死んじまったのがよ。ダッゼェなぁ。あぁあ……賀茂先生ともヤっでみだかっだんだげどなぁ、何死んでんだよ」
西風舘の問いに明確な答えを持ち合わせていない光は、現状の事実だけを伝えていく。但し、可能性は残しておく。
そんな事とはお構いなしに、工藤の中では賀茂は既に死んだ事になっており、それこそ心底残念そうなことを言ってはいるが、目は嗤っている。
(やはり皆んなの動揺が大きい……フォローしたいが、この状態では……だけど……)
元々現状を話すことは躊躇っていたが、最悪のタイミングで話さなければならなくなってしまった。
且つ、賀茂に関する不確かだが良くない情報。
(賀茂先生が木に変化したかもしれないと思ってる、このままあの子達のことも忘れてくれれば……)
可能性の話ではあるが、上手いこと工藤は賀茂が死んだものと思ってくれたようだ。
そしてここに居ない残された2人の女子生徒のことを考える。
(ここにいる生徒達は色々な意味で強い子達だ……2人とも、ここに来なくていい。今なら……)
職員室で隠れているであろう東風谷と野口雫のことを思い出しながら、光はそう願っていた。
◇◇◇
暫く沈黙が続く、誰もが押し黙り、お互いの様子を伺っている。
工藤も初めの内はニヤニヤと笑みを浮かべていたが、時間が経つにつれて段々とイライラしてきたのか、落ち着かない様子で時折舌打ちなどしている。
皆が痺れを切らしてきた頃合いで、光が口を開く。
「……工藤くん、2人も加茂先生と同様に来られるかどうか分からないですから。貴方の話、聞かせてもらえますか?」
「あ゛ぁ゛?」
残してきた2人が揃う前に話を進め、工藤の隙を突きたい。
(このまま2人のことを無しに、玲ちゃんを助けられれば……)
光の中では今居る面子が、工藤を制圧するのに最大の人員だと考えていた。
言い方は悪いが、残してきた2人は武道の経験は無く、寧ろ守りながら工藤と戦うには弱点にすらなり得てしまう。
で、あるならば、ここで工藤の話を進めつつ、隙を伺いたい。
「2人もどうなっているか分からないですから。今居るメンバーに話をして貰ってもいいですか?」
「あぁ……ぞれもそうが。待つのも飽ぎたしな。良いぜ、話をじてやるよ」
工藤が東風谷と雫のことを諦めて話をしようとした、その時。
――ガチャ――
ドアノブの回る音がした。
「!?」
皆が振り返り、屋上へと通じる扉を見つる。
(2人とも、来るな!)
光は心の中で叫ぶ。だが光の思惑とは裏腹に、扉がゆっくりと開く。
「東風谷さん……野口さん……」
光は姿を現した2人の生徒を見て、呟く。
無事であったことを喜ぶ思いもある。
しかし、この状況で現れた2人の存在は非常に危ういものである。
(来て、しまったんだね……)
真面目な生徒の勇敢な行動、光は2人を責めることはできない。
元はと言えば自分が仕留めきれなかった事に原因があり、負うべき責は光にある。
(2人を絶対に守らなければ……)
現れた2人を守る為、思考を素早く切り替える。
「イヒッ!よぐ来たな2人ども。さぁ、これからの世界の話をしようが!」
観衆は揃ったとばかりに、工藤が高らかに宣下する。
次回更新は火曜日午後6時です!
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