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暁の世界、願いの果て【毎週火曜、金曜18:00に更新です】  作者: 蒼烏
第2章 日常讃歌・相思憎愛
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第14ー2話 侵入者

 2人が3階へ上がる階段の踊り場まで登ると、前方から駆け寄ってくる人影が見えた。しかし、その人影は長い棒の様なものを持っており、途中途中で霊樹に引っかかっては止まっていた。


「あぁ……これは失敗したかな……」

「光さん!」

「よかった……玲ちゃん無事だったんだね……4階を周って時に外の騒ぎが聞こえて……見たらなんか欅の木は大暴れしてるし、多分工藤くんは刃物みたいな物持ってるし、安部先生は倒れちゃうしで……」

「そうなんです!工藤くんがいきなりナイフを創り出して、安部先生を刺したんです!それから欅の木が暴れ出して……今は伊緒くんと真理ちゃんが戦って押さえてくれています……だから!」


 興奮しながらお互いの情報を吐き出す2人。幸いな事に、光もある程度は状況を見て理解してくれていたため、全てを説明する必要がなかった。

 それでも、伊緒と真理が戦っているという言葉を聞いて、光は目を丸くする。


「伊緒くんと……真理ちゃんが……()()()?」

「はい、あれ相手でも2人なら暫くは抑えられると言ってました。その間に耶蘇先生と加茂先生を連れて来てほしいとお願いされて……自分がみんなを連れて校舎内に避難してきたんです。他の2人、東風谷さんと野口さんは職員室に避難しています。先生!早く2人の所に行ってもらえませんか!あいつは……あいつは……()()()()()()()?」


 横から西風舘が答える。端的に何故自分と玲がここに居るかを説明し、救援を求める。

 そして、工藤は人間なのかと疑問を呈する。


「人間かどうかは僕も分からないけど……()()()()()()()()()動きをしていた……」

 

 工藤が異様なことは伝えるまでもなく、光も認識しているようであった。

 西風舘としても、如何に工藤が脅威であるかを、どうやって伝えるか悩んでいた。

 しかし、見て、感じていてくれたなら話は早い。


「それと、僕も工藤くんがナイフを生み出すところを見たんだけど……工藤くんはどうやってあれを?」

 

 だが、光からナイフを生み出したことについて疑問を投げかけられると、西風舘も答えに窮する。


「いや……あいつは何か叫んでて……いきなり光が集まり出して……1本目で阿部先生を刺して、その後欅の木に刺したんですけど取られて……もう1本作ったんですよ」


 西風舘は上手く説明しようとするが、自分でも分からないことを説明できずにいた。


「僕が見たのは2本目だったのか……つまり、あのナイフは作り直せるんだな」

「はい。多分、ですけど……」

「分かった、取り合えず今は考えても分からないから、まずは校庭に向かおう」

「光さん、お願い。伊緒くんと真理ちゃんを助けて!」


 一刻も早く、残してきた双子の兄妹の下へ加勢に行きたいと焦る玲。

 だが、それよりも先に確認しなければならない事があった。


「光さん、加茂先生はどうしたんですか?」

「あ、いや、職員室で二手に分かれて捜索を始めたんだが……その後連絡が取れなくなってしまったんだ……」


 そう言い淀み、ポケットから二つ折りの携帯電話機を取り出して、再度加茂の携帯電話に連絡を試みる。


 『お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため……』

 

 お決まりの自動音声のガイダンスが流れるだけで、相変わらず加茂の携帯電話には繋がらない。


「ずっとこの調子なんだ……」

「加茂先生……大丈夫でしょうか……」

「分からない……だけど今は探してる余裕もないし、このまま行こう」

「そう、ですね……急ぎましょう」


 玲は加茂の不在を心配するが、加茂との合流を一旦諦め、現状で一番不味い状況となっている校庭へと向かうことにする。


「耶蘇先生、その長い得物は……刺股ですか?」

「ああ、あの動きと刃物相手に素手は厳しいと思ってね、侵入者用の刺股を持って来たんだけど……思いの外に木が茂っていてね、取り回しが悪いんだよ。そのせいでさっきも引っかかってしまってね」

「そんなに長いと、あいつの速度について行けるんですか?」

「そこは室内に誘い込みたいところだね、廊下なら一直線だから工藤くんの動きを制限できる」


 ガシャガシャと音を立てながら身の丈よりも長い刺股を運ぶ光。西風舘も刃物相手に対する刺股の有用性は理解しつつも、あの超人的な速度で動き回る工藤を相手にするには、些か鈍重すぎるのはないかと心配していた。

 確かに光の語ったように、前後以外が囲まれた廊下であれば刺股の有用性は増し、工藤の動きも制限できるだろう。問題は、如何に誘い込むかだが。


「伊緒くんと真理ちゃんと連携して上手く誘い込めればいいんだけどね……」

「あの兄妹とはお知り合いだそうですね。2人とも素手なのにあいつ相手に何とかできると言っていましたけだ……妹さんの方は多少少し知ってますが、お兄さんも?」


 西風舘は空手部主将として、真理のことは加茂や光から聞いていたのだが、兄の伊緒については何も知らなかったため、流石に不安があるようだ。


「伊緒くん素手なのか……そりゃそうだよは……何も持ってきてないもんね……伊緒くんも十分強いけど……徒手は真理ちゃんの方が上だね。ただ、あの2人を同時に相手したくないね」

「耶蘇先生がそこまで言う程ですか……それでも、あいつが相手ですからね……急ぎましょう」

「そうだね。それと、玲ちゃん、この先は危ないから職員室で他の2人と一緒に避難してももらえるかな?西風舘くんには手伝ってもらうけど」


 光は玲に避難するようにと促す。西風舘は最早戦力として数えられているようだ。

 

「俺は大丈夫です、元々そのつもりですから」

「光さん……私も行きます。伊緒くんと真理ちゃんがあそこに居るのに、私だけ隠れている訳にはいきません!」

「……分かった、自分の身を守る事を最優先してくれるなら構わないよ」


 光としても幼い頃から知っている伊緒や真理、玲に危険な目に合わせるつもりはない。

 だが、迷っている暇も説得している時間もない。

 そう判断した光は、あっさりと玲の同行を許可する。


「それと……安部先生の容態は分かるかな?」

「すいません……確認する余裕もありませんでした……」

「私たちは近付いてすらいないんです……ごめんなさい……」


 全員、安部教諭が工藤に刺されたことは認識している。だがその後の安部の容態を確認した人は誰もいなかった。


「2人とも、謝ることはないから。でも、状況的には恐らくもう……」

 

 状況的に確認できなかったことは責めるところではない。

 まして己の身を危険に晒してまで救助しろとは大人相手でも言えないことである。


「はい、刺されて仰向けに倒れて、その後に動いたり、声を聞いたりはしてません」

「分かった、ありがとう。安部先生には申し訳ないが、今は生き残っている我々の命を繋ぐことに集中しよう。」


 安部については既に死亡又は助かる可能性が極めて低いと判断し、現状で生存が確認できている者たちの生き残りを最優先事項とする。

 光が行っているのは所謂トリアージと呼ばれるものに近い判断であり、安部を意識レベルⅢ-300(刺激しても覚醒しない状態)と想定し、救助を一旦断念するものである。

 勿論、工藤を制圧できれば救助や応急処置を行うし、病院への搬送が叶えば助かる可能性もある。

 しかし、光は既に知っているのだ。110番通報や119番通報が繋がらない事、外部との接触が一切できていないことを。

 それを生徒たちに伝えるべきかどうか迷っていたが、今状況で2人に更なる凶報を伝える意味がない。


(今は、残った全員が生き残ることに集中するんだ……真理ちゃん、伊緒くん無事でいてくれ)


 光は心の中で兄妹の無事を祈る。


「耶蘇先生、1つ提案があるのですが――」


 西風舘は刺股を使った工藤への対処について、自身の作戦を伝える。


「それは――しかし――分かった、状況にもよるけど、そうなったら頼むよ」

「はい、場合によっては仁代さん達にも手伝ってもらいます」

「分かった」

 

 階段を駆け下り、1階まで降りてくる。そのまま廊下を抜け、昇降口を目指す。

 途中何度か刺股が霊樹に引っかかりながらも、漸く昇降口に辿り着く。

 

「やれるもんならやってみろ、俺は死なねぇよ」


 昇降口の外から伊緒の叫び声が聞こえてくる。


「光さん!伊緒くんが!!」

「不味い!」


 玲の悲鳴にも似た懇願に光は校庭に向かって走り出す。

 先程までの校舎内に誘い込む等と言う考えは、一瞬にして破棄される。


「まぁ、死ねや」

「くっそぉ!」


 伊緒に迫る工藤。伊緒は後ろに倒れた真理を庇って動かない。

 

(いや、動けないのか)


 そう判断した光は自分に注意を惹き付けるために叫ぶ。

 

「やめるんだ工藤くん!そこまでだ!!」


 振り返る工藤。こちらに気が付き、一瞬安堵の表情をする伊緒。

 

(よし、取り合えず止まった!)


 一声で、まず目標を達成すると、光は一気に校庭まで駆け抜ける。そして刺股を工藤に向けて構え、間合いを取る。


「そのナイフを捨てなさい!早く!」

「あぁ?何しに来たんだよ耶蘇先生よぉ?」

「君を止めに来た!」

「ハハ!!サイテーな理由だ!やっぱりお前は最初から俺の世界にいらなねぇな。とっとと死ねよ」


 工藤の新たな世界に現れた侵入者は、工藤が最も忌み嫌う男だった。

次回更新は火曜日午後6時です!


専用アカウント作成しました。

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