第14ー1話 侵入者
「はぁ……はぁ……はぁ……」
4人の人影が廊下を走る。
1人が先行し、すぐ後ろをもう1人が追従する。そこから遅れてもう2人の人影がやっとの思いで付いてきているようだ。
「雫さん、大丈夫?東風谷先輩も……」
2番目を走っていた小柄な人影が後ろを振り返り、遅れて付いてくる2人を心配して声をかける。
「……はぁ……あ……あんまり……はぁ……ダメ、かも……はぁ……走るの……はぁ……苦手……はぁ……だか、ら……」
「私も……何で、躬羽さん、そんな、元気なの……同じ……調理部……なのに……」
息も絶え絶えに言葉を絞り出して答える野口雫と東風谷だが、同じように走っている躬羽玲は息も上がっておらず、余裕の表情を見せている。
「私は、伊緒くんや真理ちゃんと一緒に、いつも身体動かしてるので。多少は大丈夫です」
「た、多少じゃ、ないよ……こんな、中腰で……走るなんて……」
「……はぁ……もう……無理……動ける……調理部員て……なに?」
もう立ち止まりそうな速度で歩き始めてしまう雫と東風谷。
伸びた霊樹の枝葉のせいで中腰に屈みながら走ってきたため、そこまでの距離は移動していないが、慣れない2人にはきつかったようだ。
「西風舘先輩、ちょっと休憩できませんか?もう、2人が……」
「んー……でも、早く耶蘇先生と加茂先生を連れて行かないと、残った2人が心配だし……」
西風舘も遅れる2人のことは分かっていたが、残してきた仁代伊緒と真理の兄妹が工藤を止めてくれていることを考えると、やはり急がざるを得ないと判断していたのだが。
「一旦、そこの職員室で2人は待っていてもらって、私たち2人で探しに行った方がいいのではないですか?」
「……そうだね、東風谷さんと野口さんは職員室で隠れて待機していてくれ。先生方が戻ってくる可能性もあるし、その時は校庭の状況を伝えて欲しい」
「分かり……ました……申し訳……ないですけど……待たせて……もらいます……」
「……はぁ……す、すみません……」
雫と東風谷は元気な2人と別れ、一旦職員室へと避難することになった。
玲と西風舘が見守る中、職員室へと歩いていく2人。
「……」
息を整えながら歩いているとはいえ、2人は無言だ。
生き残ってた者の中で、恐らく一番動けないであろう2人。
そんな2人だけで隠れていなければならない。
東風谷は流石に緊張していた。
(……うぅ……流石に怖い……何も居ませんように……でも……先輩だし……私が行かないと……)
周囲を伺いつつ、後ずさってしまいそうな足を無理矢理に前へと進める東風谷。
東風谷を動かしているのは、先輩として後輩を守らねばという責任感。
その後ろをいまだに落ち着かない息を吐きながら、雫が付いて歩く。
(伊緒くん達……大丈夫かな……)
雫は分かれて置いてきてしまった同級生の心配で頭が一杯であった。
ゆっくりとした足取りで、漸く職員室の前まで辿り着く2人。
「……中……大丈夫だよね……?」
「だ、だと、思います……」
扉の窓から職員室の中を覗き、意を決して東風谷が扉の取手に手をかける。
職員室の扉を開け、中を確認しながらそろりと覗き込む。
「中には……誰も居ませんね……」
「そ、そうですね……木が、生い茂ってる、だけですね……」
「西風舘先輩!躬羽さん!大丈夫そうです!」
ホッと肩を撫で下ろし、東風谷は問題ないと待機していた西風舘と玲に伝える。
「分かった、俺たちは先生たちを探しに行ってくる。東風谷さん、野口さんを頼んだよ」
「は、はい!任されました!」
西風舘の言葉に背中を丸めてビクビクしていた東風谷が、ビシっと背筋を伸ばして西風舘に向き直る。
慌てて雫も西風舘の方へ向いて頭を下げ、お願いしますと言葉をかける。
「よし、躬羽さん行こうか」
「はい、取り合えず2階から探しますか?」
「そうだね、声を掛けながら行こう」
「さっきの騒ぎで気付いてくれればいいですけど……」
「気付いて向かってくれてればそれに越したことはないね……できれば合流して状況を伝えたいし、人数も居た方がいいんだけど……」
屈んだまま霊樹を掻き分け、南側校舎の2階を進んでいく2人。
「耶蘇先生!加茂先生!いませんか!」
「光さん!加茂先生!聞こえたら返事してください!」
大声で光と賀茂に呼びかけながら進んでいくが、返ってくる言葉は無く、2人は校舎の端の方まで辿り着いてしまう。
「居ませんね……どうしましょう、手分けして探してみますか?」
「……流石に1人で動くのは危ないんじゃないかな」
「でも、あんまり時間がありませんし……私なら多少は武道の心得もありますし、逃げるだけなら何とかします」
「そうだな……じゃあ二手に別れて捜索をしてみるか。誰か見つけられたらすぐに校庭に向かってくれ」
「分かりました、では私は北側校舎に……先輩、何か音が聞こえませんか?」
玲が別れて捜索する為の案を出そうとした時、階段の上からガサガサと何が動く様な音が聞こえてきた。
「……何かいるな……先生の可能性もあるし……行ってみよう」
「大丈夫でしょうか……先に声をかけてみますか?」
「いや……何がいるか分からないから、まずはそっと様子を見てみよう」
「はい」
2人はゆっくりと階段を登り、折り返しの踊り場から3階の様子を伺う。
「……階段上の方から聞こえるな」
「先輩、何か、段々と近付いてきてないですか?」
ガサガサという音と、足音が近付いてくる。
「――くっ!動きにくい!」
「!」
「光さんの声です!光さん!玲です!躬羽玲です!」
「玲ちゃん!?ちょっと待って、今行くから!」
こちらに近付いてくる音は光のものであったようだ。玲の声に光も気付き、向かって来ようとしている。
「先輩、耶蘇先生です。行きましょう」
「おう。そう言えば、躬羽さんは耶蘇先生と知り合い?」
「はい、伊緒くんと真理ちゃん……仁代兄妹のお父さんの友人で、私も昔から良くしてもらってます」
「そうなのか、じゃあ説明は頼めるかな?」
「はい、任せてください」
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