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暁の世界、願いの果て【毎週火曜、金曜18:00に更新です】  作者: 蒼烏
第2章 日常讃歌・相思憎愛
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第13ー1話 交戦

「今のうちに、急ごう!」


 西風舘(ならいだて)東風谷(こちや)野口雫(のぐちしずく)躬羽玲(みはねれい)を連れ立って校舎の中へと走っていく。


「先輩、お願いします」

「こっちは、なんとかするっきゃないよなぁ」

 

 2人は光と賀茂の2人の教師を連れてくるようにお願いし、この場を離脱させる。

 その様子を先程まで独演を続けていた工藤が見送る。

 どうやら誰彼構わず殺したい訳ではないようだ。


「真理、よかったな。熱烈なファンみたいだぞ」

「光さん意外は興味ないんだけど……」

「なぁ、あんた真理の弟だよな!よく真理から聞いてるぜ、あんたもヤリたいんだろ?俺もあんたをヤリたくてたまんねぇんだよ!早くヤリ合おうぜ!そんでもし、あんたが生きてたら俺の配下にしてやるよ!」


 吠える工藤をうんざりしながらも、目を逸らすことなく見続ける伊緒。横で真理が更に嫌そうな顔で工藤を睨んでいる。


「伊緒、やるじゃない。熱烈なファンみたいだよ?」

「あぁ最悪……何で俺のことも知ってるだよ……」

「ご愁傷様」

 

 心底嫌そうな顔をする伊緒と、してやったりの表情の真理。工藤はその場を動かず、2人が攻めてくるのを待っているようだ。

 余裕を持って待ち構えているように見えるが、恐らく先程の伊緒と真理から受けた攻撃を警戒していのだろう。


(来ないか……いくら人間離れした力と速度があっても、技術が追いつかないことは分かってるんだな……)


 工藤を見ながら伊緒は相手の分析をする。

 

「時間を稼げればこちらが有利。暫く睨み合いができるなら何時まででもやってるんだけどな……」

「あいつがそこまで堪え性があるように見える?」

 

 伊緒が楽観的な今後の推移を口にするが。真理も伊緒が本気でそんなことを考えてるとは思わず、今にも飛び掛かってきそうな工藤を見ながら疑問を呈す。

 

「見えないよなぁ……多分、すぐキレる」

「でしょうね。伊緒、分かってる?」

「多分、大丈夫。受け手に回って時間稼ぎしつつ、光さんたちを待つんだろ?」

「できればあの得物はどうにかしたいけど……」

「できればで行こう、今のところあいつの動き自体は単純だし……だけどかなり“硬い”ぞ」

 

 2人は構えを解かないまま、グッと身体を沈みこませる。

 臨戦体制は維持しつつ時間を稼ぐ。伊緒と真理に必要なのは"時間"である。

 光と賀茂の合流まで耐えることが第一優先事項。

 

(時間稼ぎしたいけど……もって数分だろうな……)


 だがそれは簡単にはいかないだろう、すぐに工藤が動き出すはずである。


(あのナイフもヤバいよな……こっちも何か獲物があればいいんだけど……)

 

 次に優先すべきは工藤の手にあるナイフの奪取、或いは無力化。ナイフを生み出せるから、どこまで意味があるか分からないが、あの欅の木をボロボロに崩した謎の力もある。

 一時的にでも無力化しておきたい。

 であるならば、防御に徹してナイフの一撃を貰わないようにして時間を稼ぎつつ、相手の様子を見計らってナイフを無力化することを狙うのが最善。


(無いものはどうしようもない、まずは防御に徹する……真理と2人なら牽制し合えば少しはマシかな……)

 

 攻めるなら2人で別れて挟み撃ちなりして相手の死角を突いていくが、防御に徹するのであれば2人が揃っている方がいいと判断する。


「来ないのかぁ?早く来いよぉ!あぁぁ……ダメだ!我慢できねぇ!!」


 今度はナイフを順手に握ったまま走り出す工藤。

 1歩1歩進む度に加速していくが、動きは先程と同じく直線である。

 伊緒と真理は慌てることなく身体の力を抜いて、何処からの攻撃にも対応できるように神経を集中させる。


「来るよ!」

「応!」


 真理が伊緒に声を掛け、伊緒もそれに答える。


「イヒャ!!」


 目の前まで迫った工藤が突如視界から消える。


「後ろ!」


 伊緒が声を上げ、左足を軸にしてグルリと身体を180度回転させる。

 工藤は2人を躱すように斜め前方に跳び、伊緒の横を通り過ぎて2人の後方へ到達する。

 そのまま慣性を無視して身体を捻り、鋭角を描いて2人へと殺到する。


「まずはお前からだ!」


 工藤は伊緒を見据えながら先程のような大振りの一撃ではなく、腰に溜めたナイフを身体の捻り共に最速で撃ち出す。

 そこに、そもそもの常人離れした身体の加速は加わり、必殺の一撃は伊緒の心臓目掛けて迫る。


「早い。だけど、素直だな」


 伊緒は半歩横にずれ、真理も半歩横に跳ぶ。工藤のナイフは2人がいた場所の空を突く。


「ふっ!」

 

 伊緒は左手の手刀でナイフを握った工藤の右手首を叩き落とし、手刀の一撃で捻った身体を戻す勢いに乗せて右拳を工藤の右顔面に向けて撃ち出す。

 真理も半歩横に跳んで着地する勢いで身体をぐるりと回転させ、右拳で裏拳を放つ。


「「はっ!!」」

 

 左右から放たれる伊緒の拳と真理の裏拳。

 鈍い音が響き、工藤の顔が(ひしゃ)げる。


「ぐはっ!」


 詰まる息を吐き出しながら、工藤は今来た方へと数歩押し戻される。

 しかし倒れ込む事はしない。蹈鞴(たたら)を踏みながらも、その場に踏みとどまる。

 

「イヒヒヒヒ!!痛てぇな!でも面白れぇなぁ!!まだまだ楽しませてくれよぉ!!」


 口元から一筋の血を垂らしながら、工藤が吠える。


「あれで殆ど効いてないのか……化け物かよ」

「なら、倒れるまでやる!」


 伊緒と真理も第一優先事項を時間稼ぎとしながらも、狙えれば工藤の制圧も考えていた。

 今の一撃で、工藤の動きが()()()と分かった。


(伊緒の言う通り……早いし硬いけど、動きは単純ね……)

 

 確かに早いし鋭い、だが伊緒が言ったように工藤の攻撃は単純なのだ。

 2人は確実に工藤の動き付いて行けている。常人離れした速さも目で追えるだけでなく、身体も対応できるように()()()()()

 足りないのは威力。

 工藤の身体がおかしいのか、通常では在り得ない頑丈さを有している。


(普通の打撃じゃあまり意味がない……じゃあ……)

 

 2人は無言で頷き合い、構えを取る。


「光さんが来るまでに片付けられるかな?」

「伊緒もいいこと言うじゃない、これくらいなら何とかなりそうだし。今日はよく見えるし、身体も付いてくるしね」

「やっぱり真理もそんな感じ?なんか調子いいんだよね」

「ウヒッ!いいね!俺をヤル算段か?じゃあ!もっとヤロウぜ!!」

 

 またしてもナイフを振り上げて伊緒に向かって突っ込んでくる工藤。


「同じ動きじゃ当たらないぜ!」

「フヒッ!」


 三度左手の手刀で工藤の右手を捌こうと一歩踏み込むが、左手に当たる衝撃が余りに軽い。


「ゴホッ!」


 伊緒の身体がくの字に折れる。伊緒の腹に工藤の左拳が突き刺さっていた。


(フェイント!?)


 チラつく意識の中で、伊緒は自身の想定外の事が起きたと悟る。

 先程まで素人同然の突撃しかしてこなかった相手が、突然フェイントを入れてきたのだ。


「ゲホッ!ッ……くっぁ!……はぁ……」

(――上手く――呼吸が――)


 腹部を掬い上げるように入れられた突きは、肺を圧迫し、伊緒の動きを強制停止させる。


「死ねぇぇぇ!」


 クルリとナイフを逆手に持ち替え、眼下に見える伊緒の背中目掛けて工藤はナイフを振り下ろす。

 

「はぁっ!」


 真理が工藤の左肋骨に正拳を突き刺さす。

 普通であれば突いた拳を引き戻して残心を取るのだが、真理は更に一歩右足を踏み込み、突いた拳を振り抜く。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 工藤の身体が宙を舞う。

 ドサリと地面に叩きつけられ、校庭を転がって行く。


「伊緒!大丈夫!?」


 工藤から目を離し、伊緒の状態を確認しようとする真理。

 

「目を、逸らすな、後ろ!」

「えっ……」

「イイィィィィ!!」

 

 校庭を転がっていたはずの工藤は、転がる勢いのまま立ち上がり、恍惚の声を叫ぶ。

 

「真理!もっとぉ!遊ぼうぜぇ!!」


 動けない伊緒など目もくれず、一直線に真理へ殺到する工藤。

 右手のナイフを振り上げる。真理はナイフを持つ右手を捌こうと動く、だが捌くことだけに集中することなく工藤の動きに意識を集中させる。

 案の定、伊緒に一撃を入れた左の拳が飛んでくる。


「甘い!同じ手は効かない!」


 真理は右手で工藤の左拳を受け止める。


「くっ!」


 想像以上の衝撃に真理が思わず顔をしかめ、体勢が崩れてしまう。

 すかさず工藤のナイフを握った右拳が、真理の腹部を目掛けて迸る。


(まずいっ……)

 

 崩れた体勢のまま左手で工藤の右手を無理矢理どうにか捌く。

 ナイフを使わず拳で殴りつけてくる工藤。


(くっ!遊ばれてるっ!)

 

 工藤は止まらない。

 左右の拳を絶え間なく真理に浴びせ続ける。

 体勢を整えられず、防戦一方になってしまう真理。


「フハハハハハハハハ!!真理!どうした!こんなんじゃ俺の女になれないぜ!!」

「誰が……あんたの……女に……なるって!」

「ほらぁ!頑張れ頑張れ!」


 工藤はナイフを使わず、ひたすらに拳を浴びせ続ける。


(ムカつくけどっ!こいつ……)


 真理は薄々気付く。

 工藤が自分を殺そうとしていない可能性。


(伊緒が戻るまで耐える!)


 真理は甘んじて工藤の拳を浴び続ける。

 チラリと伊緒の方へ視線を走らせると、伊緒は漸く呼吸が整い始めたところだった。


(早く復活してよ!伊緒!)

 

 伊緒もまた一刻も早く真理を助けに行かなければと気を急いていた。

 

(利き手じゃない……左の突き一発で……こんなに効くのかよ……)


 真理が早くしろと心の中で叫んでいるのを感じる。


(分かってるって!)


「ぐっ……!」


 震えそうになる足を無理矢理伸ばし、フッと身体を鎮めるために息を吐く。

 視界を明瞭にし、一気に工藤目掛けて飛び出す。

 全身のバネを使って弾けるように飛び出した伊緒は、つい先程自分を救った一撃を工藤へ叩き込む。

 後ろ跳び回し蹴りが工藤の左顔面を捉える。


「イヒッ!同じ手は効かなねぇよ?」


 工藤の左手が伊緒の右足を掴み、伊緒の一撃は直撃する寸前で止められてしまう。


「よそ見してる暇なんかないんじゃない!」


 真理がすかさず体勢を立て直し、ガラ空きになった鳩尾目掛けて正拳を突く。


 ――入った!――

 

 そう思った突きだった。

 

 「まぁ慌てんなよ」

 

 工藤がニヤリと伊緒から目線を真理に向ける。

次回更新は金曜日午後6時です!


専用アカウント作成しました。

https://twitter.com/aokarasu110

よろしければ覗いて見て下さい。

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