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暁の世界、願いの果て【毎週火曜、金曜18:00に更新です】  作者: 蒼烏
第2章 日常讃歌・相思憎愛
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第12ー2話 神にならんと欲する者

「――えっ」


 間の抜けた声を漏らす伊緒。

 その時、工藤の右手に握られたナイフが伊緒に向かって振り下ろされようとしていた。


(ヤバっ――避け――いや――受け――)


 コンマ1秒の思考の迷いは、致命的な迷いとなる。

 目の前に迫る紅と翠色の切先。

 工藤の右手を受けようと動き始める伊緒の左手刀、だが致命の速度で迫るナイフに届き得るのか。


(いける、か――)

 

 伊緒は致命傷を回避する事だけに注力し、傷を負うことは勘定から外す。

 しかし、工藤の人外の一撃が更なる加速を見せる。

 グンッと一段ギアを上げたかのように、ナイフが奔る。

 

(間に合わ……)


 圧縮された思考の中で、伊緒は自身の不利を悟る。

 

「死ね!」


 工藤は一撃が入る事を確信したかのように叫び、全力でナイフを振り下ろす。


 突如、壁を蹴る様な轟音が鳴る。

 その瞬間、伊緒の視界に一足のローファーが飛び込んできた。

 ローファーの足裏が、工藤の素首を胴体から引き剥がさんばかりの勢いで左頬を捉え、そのまま振り抜く。

 工藤の姿が伊緒の視界から消え、その代わりに、中を舞う青黒い髪が目に入る。

 スカートをなびかせながら、跳び後ろ回し蹴りを決めた真理の姿が宙に踊っていた。


(――真理!)

 

 工藤の身長は然程高い訳ではないが、それでも170センチメートル位あるだろう。

 その身長の男子高校生の顔面に蹴りを入れてなお、高い位置で舞っている真理。

 

(空中でも、バランス全然崩れてないじゃん……)


 伊緒は真理を受け止めるべきかと、身体を動かそうとするも、その心配は無用と思い留まる。

 身体を捻りながら、ザッと着地する真理。

 物凄い勢いでゴロゴロと校庭を転がっていく工藤。

 

「スカートでさっきの技とか、女子高生としてどうなの?」

「助けてもらって第一声がそれ?今のは危なかったでしょ」


 伊緒の軽口に真理が呆れながら返す。

 

「うん、まぁ、ね……ありがとう、助かった」

「よろしい、これも姉の務めだし」

「それはいいから。それよりさっきの技は人前ではやらない方がいいよ?恥じらい的に」

「分かってるって!あっ、光さんなら別にいいかも!」

「いや、良くないだろ……」


 ほんの数秒前まで命の危機だったことをまるで感じさせない、何時もの双子のやり取り。

 だが、2人とも目線は転がっていった工藤から離さず、伊緒は構えを解かない。

 真理も着地した体勢から左腕を垂直に立てる様にし、右腕を腰まで引く。

 2人とも何時でも攻撃に移れる体制を整える。


「伊緒、その構えやり辛いでしょ。徒手用に変えなさいよ」

「今更無理。それに慣れたこっちの方がやり易いんだよ」


 2人が話をしている間に、工藤がのそりと起き上がる。


「ヒヒッ、あぁ痛てぇなぁ。でもまぁ、やっと真理に触れて貰ったなぁ……フヒッ!」


 首が捥げる様な一撃を喰らいながら、工藤は何ともないように立ち上がる。


「全く効いてないな。真理、あいつ誰だ?知り合いか?名前で呼んでるぞ?」

「同じクラスの男子、確か……工藤?だったかな……話したこと無いけど」

「何か滅茶苦茶親し気だけど……」

「知らない。光さん以外興味ないし」

「ですよねー」


 工藤が真理の名前を呼んだことに伊緒が反応し真理に確認するが、案の定真理は全く知らないと答える。

 で、あるならば工藤のあの状況は大分不味いのかもしれない。


「ストーカー?」

「真理……何やったんだよ……」

「何も」


 伊緒と真理の会話は工藤の耳には入っていないようで、工藤は更に喋り続ける。


「あぁ……この後何してやろうか……フヒッ!まずはあと何人か殺して!それで!俺の世界を作るか!俺が最強で主役の世界!!いいね!最高だ!俺が神だ!そんで神の女となるのは真理だ!!神の女だ、強くなくちゃいけねぇ、だが神はもっと強くなくちゃいけねぇ。いいぜ、相手してやるよ!そんで証明してみろよ!神の女に相応しいってな!!」


 工藤が吠える。

 自分自身の言葉に酔っているのか、伊緒たちのことはチラリとも見ないで独演を続けている。


「――仁代さん!怪我は無い?!」

西風舘(ならいだて)先輩、大丈夫です。すみません、飛び出してしまって」

「はぁ……よかった……いきなり飛び出すからどうなるかと思ったよ」


 真理と一緒にいた西風舘も合流し、戦闘態勢となって構える。


「えっと、君は仁代さんの弟の……あれお兄さんだっけ?」

「双子の兄の伊緒です、真理の言うことは気にしないでください」

「何?その言い草は……それよりどうする()()。3人でいく?」


 伊緒と西風舘の顔合わせも済み、未だ独演を続けている工藤を横目に今後の方策を練ることにする。


「いや、西風舘先輩には後ろの3人を連れて、校舎内に避難してもらった方がいいんじゃない?」

「流石に2人だけであれと戦うのは危険じゃないか?俺も一緒に戦うよ」

「先輩には3人の避難と、光さん……耶蘇先生と加茂先生を連れてきて欲しいんです」

「確かに、光さんが来れば全部大丈夫!」


 西風舘に残る3人、東風谷(こちや)野口雫(のぐちしずく)躬羽玲(みはねれい)の避難と、教師2人を連れてくるようにお願いする伊緒。


「だが……それなら俺も残って、3人に先生たちを呼んできて貰ったほうがいいんじゃないか?」

「そうですね……でも、すみません。俺、先輩と連携できる自信がないんです。真理となら、いつもやっているんで大丈夫なんですけど……」

「西風舘先輩、私からもお願いします。なんとか2人で凌ぎますので、その間に光さんたちを……お願いします!」


 西風舘は後輩2人にこの場を任せてしまうことに対する罪悪感がある。

 一撃でも貰えば致命傷になりかねないナイフを持った相手。

 だが、2人が言わんとすることも最な話だ。西風舘は試合形式の実戦であれば全国大会に出場する程の技量を持っている。

 しかし、対ナイフの実戦も、複数人の連携もやったことがない。


「分かった、それでいこう。東風谷さん、野口さんに躬羽さん、動けるかな?すぐにこの場を離れて校舎の中に避難しよう」

 

 先程の2人の動きを見ても、とても素人ができる動きではなかった。

 そこまで考え、西風舘は2人の提案を了承し、すぐさま3人の女生徒の避難に移る。


「は、はい!」

「えっと……仁代くんたちは……大丈夫、ですか?」


 東風谷はすぐにそれを了承するも、雫は残る2人のことを気に掛ける。


「大丈夫よ雫。伊緒と何とかするから。早く光さんたちを連れてきて」

「任せた。玲、みんなのこと、頼む」

「うん……分かった……伊緒くんも真理ちゃんも無理しちゃ駄目だよ」

「分かってるって!」

 

 伊緒と真理から光たちを連れてくるよう託された雫は何とか頷き、玲は心配そうに振り返りながら校舎に向かって走り出す。


「ヒヒッ!話は終わったかぁ?」


 神にならんと欲する者が、ナイフを片手にゆっくりと迫る。


次回更新は火曜日午後6時です!


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