第1-2話 ある警察官の日常
R6.12.14
1話改稿
◇◇◇
交通課で切符を受け取った2人は、バイクで市内のへと向かう。
強盗のこともあり、銀行の見える場所で携帯電話の違反の取り締まりを始める。
星斗は3台目の違反を現認し、森岡に違反を伝えたところで、そろそろ交代かなと考え始めていていた。その時……
バンッという乾いた破裂音が鳴り響く。
聞き覚えのある発砲音に心臓が大きく跳ね上がる。
すぐにでも硝煙の匂いがしてきそうな音。
悲鳴と共に、銀行から蜘蛛の子を散らすように逃げてくる人々。
「マジか!?」
一瞬、現実を受け入れられず、星斗の思考が固まる。しかし即座に頭を切り替え、森岡に向かって叫ぶ。
「森岡ー!!拳銃強盗!!集合!!」
森岡の返事を待たず銀行へ向かって走り出す星斗。
更なる発砲音。
「ッ!クッソ!」
逃げ出してきた女性客が星斗に気付き、駆け寄ってくる。
「――中で、男の人が、撃たれたんです!金を出せって、叫んでいて!」
「っ!すぐにここから離れて!そしたら110番通報して!お願いします!!」
星斗はすぐさま無線機のマイクを取り、一気に至急報を捲し立てる。
「至急至急!!深山305から埼玉本部!!深山市元町地内るそな銀行にて拳銃使用の強盗発生!!丸被男1名!拳銃を所持し2発の発砲音を確認!!なお銀行内に撃たれた負傷者がいる模様!!丸目に110番通報を依頼した事から詳細聴取願います!!現在本職含め2名で銀行の外から確認中、至急応援願います!!」
一息で状況を無線で喋り、女性客を近くのコンビニに避難して110番するように指示。
『至急至急、埼玉本部から深山305宛、一方的に送ります。丸被拳銃使用が予想されるため、無闇に現場へ飛び込むことなく、応援勤務員と合流、受傷事故防止資機材完全着装の上、対応願いたい』
本部からの無線がながれる、がちゃんと聞いている余裕は無い。
星斗の頭の中は、この後の事を考えるので精一杯だ。
「対拳銃の装備なんてないぞ……本署かPB勤務員の応援を待たないと……くっそ!でも中にけが人が!」
『キンコーン、キンコーン』
普段とは違う緊急の呼び出し音。
『埼玉本部から各局。深山PS管内、拳銃使用の強盗発生につき、緊急配備を発令する。現場、深山市元町一丁目2番3号るそな銀行元町支店。丸被男1名。拳銃を所持し、現在までに2発発砲。丸目女性から聴取したところ、銀行内で男が発砲、男性が撃たれ、負傷しているとのこと。急行する各局は防弾衣等受傷事故防止資機材を完全着装の上、緊急走行で向かえ。到着後、無暗に現場へ飛び込むことなく、他の勤務員と合流、対応に当たれ。発生署深山、指定署熊山、木庄、堀居。応援協力隊機捜北部とする。司令番号1001番、司令時間10時15分、扱い佐藤。解信を取る、深山からどうぞ――」
無線が忙しく流れ、救急配備が敷かれる。
そこに漸く森岡が合流する。
「仁代部長!!」
「森岡!緊配がかかったけど……応援が来るまでまだ時間がかかるぞ……」
「ですね、近付きますか?」
「負傷者が居るらしい……だけどこの装備じゃ行けねぇだろ……万が一の為に拳銃は抜いておけ。拳銃使用になるから後で報告書を書くぞ」
「……了解……」
解信が続く中、銀行の出入口から目を離さず、2人は拳銃をホルスターから取り出す。
そのまま両手で把持し、地面に水平ではなく、前斜め下方へ銃口を向ける。
2人は訓練以外で初めて拳銃を抜く。
「もうこれ……拳銃使用ですよね?」
「そうだ、諦めろ」
「うへー」
遠くからPCのサイレンが聞こえてくる。
星斗はまるで時間が流れていないように感じていた。
(もう少し……)
じっとりと手から汗が滲み、呼吸をするのも意識しないと止まってしまいそうだ。
強張る手を無理矢理動かし、拳銃を握りなおす。
ゆっくりと近付いてくるサイレンの音。
(早く!)
星斗がそう思った瞬間、銀行の出入口からスーツ姿の男性が現れた。
(被疑者!?いや!被害者か!?)
必死に状況判断をしようとする星斗。
考えが纏まらないうちに、更にその後ろから自動式拳銃をスーツの男性に突きつけ、左手に札束を握った男が顔を出す。
「なんだよ、もうサツ居るじゃねーかよ!通報するなっつったろうが!!」
男は怒鳴りながらスーツの男性を蹴り飛ばす。
スーツの男性がうつ伏せに倒れ、男の右腕が上がる。
その手に握られた鈍色の自動式拳銃の銃口が、スーツの男性に向けられる。
(おい!まさか――)
響く銃声。
男は何の躊躇いもなく引き金を引いた。
「「拳銃!!」」
反射的に叫ぶ警察官2人。
2人とも右足を素早く後ろに引きながら腰を低く落とし、拳銃を男に向け両手で構えて、叫ぶ。
「「銃を捨てろ、捨てないと撃つぞ!!」」
射撃の警告を発しながら身を屈める。照星と照門は見ない。大凡で狙うしかない。
スーツの男性は呻きながら左足の太もも辺りを抑えているのが見えた。
地面には血溜がじわじわと広がる。
「何だよ、外れちまったじゃねーか。つーか、てめーらなに物騒なものこっちに向けてんだよ!!」
ニヤニヤと笑っていたかと思うと、いきなり激昂する男。
「銃を捨てろ!!撃つぞ!!」
再度警告をしながら被疑者の男に狙いを定める。
星斗の脳中はアドレナリンが溢れかえり、極度の緊張と興奮状態になっていた。
(あれはシャブ中か!?ここから被疑者まで約10メートル。当たるか!?被害者に当たらないか!?てか威嚇射撃は……暇がない!!撃てるか!?報告書が……でも、俺がやらなきゃ誰がやる!!!)
被疑者の男がおもむろに2人の方に向き直り、拳銃を持った右手が持ち上がる。その瞬間、引き金に指がかかっているのが見えた。
早鐘の様に鳴り響く心音。なのに冷え切って感覚すらない両手。
それでも。
「撃つぞ!!!!!」
星斗が叫び、覚悟を決めて引き金を引こうとした、その時。
【――これより神罰術式を発動します――】
世界を終焉へと導く言葉が、世界に鳴り響いた。