第7-2話 立ち塞がる絶望
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「流石にこれくらいでは如何様にもなりませんね。では、直接叩くとしますか」
そう宣言し、翠の光の腕が幾何学模様の膜に触れる。バチバチと火花の様に翠色の霊子が飛び散るがやがて触れた面が薄く解け始める。
「――流石に直接霊子に触れられると敵わないわね。このままではこの子達も危ない。一気にいきますよ」
「いつでもいいぞ。やってくれ」
「いきます!」
幾何学模様の膜を解除し、一気にルフの元まで駆け上がる管理者の男女。
両拳に霊子を纏い、巨腕に殴りかかる管理者の男。巨腕で打撃を防ぎながら四方から幾筋もの霊子を発射し、まるで翠色のビーム兵器の様に管理者を打ち抜こうとするルフ。その攻撃を先程より小さく分厚い幾何学模様の板で防いでいく管理者の女。
3者の攻防が周囲の木々や農作物の植えられた畑を薙ぎ払い、辺りの景色を変えていく。
管理者の男が両足にも霊子を纏い、ルフの巨腕を削り取っていく。管理者の女も膜とは違う紋様が纏わりつく翠色の矢を作り出し、ルフへ目掛け連射していく。
段々と巨腕が削られ、ルフの手数が減らされていく。
「……流石に上位者2人を同時に相手するのは骨が折れますね。私もこれを使わせていただきます」
ルフが白い空間を開き、その中から紅黒い一振りの剣を取り出す。
その剣は西洋の剣とは違う、鍔の無い古代の幅広の青銅の剣のような形をしていた。禍々しい色の剣身の周りには、不自然な程霊子が無く、澄んだ景色になっている。
「それは……何故貴様が持っている」
管理者の男の問いかけには焦りの色が浮かぶ。
「これは彼の方から拝領したもの。私が行使することを許されているのですよ」
「……あの野郎……」
思わず顔を歪めながら悪態をつく管理者の男。巨腕を解除し剣を構えるルフ。
「あれは不味いわよ。私達にとっては天敵になるわ」
「分かってる、その代わり霊子の腕が無くなった。手数でゴリ押すぞ」
管理者の女が数十本の光の矢を同時に展開し、四方八方から同時にルフに向かって射掛ける。
「あんまり得意じゃないんだが……仕方ない」
何処からか取り出した槍が付いた斧と言うべき獲物、ハルバードを軽々と担ぎ、空へと飛び出していく。
襲いくる光の矢を、浮遊する翠の光の盾と剣で撃ち落としながら飛び回るルフ、そこに超重量の塊が高速で追いつき、ルフの頭上から巨大なハルバードを振り下ろす。
切ると言うより、叩き潰すと言った方が正しい一撃を、ルフの光の盾が受け止める。ギリギリと嫌な音を立て拮抗する盾と斧。拮抗する盾の上からルフが飛び出す、今し方管理者の男にやられた様に剣を唐竹割りに振り下ろす。
剣が管理者の男めがけて振り下ろされるその直前、ルフを蜂の巣にする勢いで襲いかかる光の矢。
寸手の所で上空に回避するルフ。
間髪入れず上空へ追撃せんと迫る管理者の男、凶悪な槍の突きを放とうと槍をグッと溜めながら加速する。
更に後方からは光の矢の大群が迫る。
「吞め。フツ」
ルフが剣に呼びかけ、剣の切先を光の矢の群れに突き出す。
「御意」
剣が返事をし、甲高い金属音が鳴り響く。切先の前に巨大な魔法陣が現れ赤黒い空間が口を開ける。光の矢はその空間へと呑まれていき、姿を消す。
それと同時に光の盾を管理者の眼前に移動させ、視界を塞ぐと共に盾に管理者の男が衝突、刺突の勢いを止める。
「――ぐっ!」
「放出」
ルフの一言で管理者の男の後方に先程とは異なる紋様の魔法陣が展開、赤黒い空間が口を開き今まさに呑み込まれた光の矢が放出される。
「不味い!」
管理者の女が防御用の膜を展開しようとするが間に合わない。管理者の男はハルバードを手放し霊子を集中させた両腕を体の前に固め、両脚にも霊子を集中させて防御姿勢になる。
光の矢の群れが管理者の男を襲う、腕や脚に当たった光の矢は弾け飛び翠の光を撒き散らしながら落下していく。
「雷よ」
管理者の男を追撃しようとするルフに目掛けて、空から閃光と共に世界を切り裂くかんばかりの、巨大な雷がルフめがけて光速で叩きつけられる。数瞬後、バリバリと空気を食い破る爆音が炸裂する。
目も眩む光の放流が晴れると、そこには幾本かの光の矢が体に刺さった管理者の男だけがその場に浮いていた。
「今のは危なかったですね」
まったく別の場所からルフの声が聞こえてくる。
その姿は先程と何も変わっておらず、服の1つも破れていない。
「やはり一筋縄ではいかない」
「……我らを同時に相手しておいて、どの口がほざくか」
「……今のは瞬間転移……」
管理者の女の呟きにルフが反応する。
「えぇ、霊子転移の応用ですよ。転移門を開いていては間に合いませんでしたからね」
「やってくれおる」
3者で睨み合い、硬直する戦場。
そんな異次元の戦場を、蚊帳の外から見上げる星斗。
「何が起きてるんだ……このままじゃ2人が……」
「亜衣……亜衣……」
「……ぉかぁさん……さむい……」
人智の及ばぬ世界を目の前にし、唯人のできることなどなく、茫然と空を仰ぐことしかできない。僅か10数メートル。されど果てしなく遠い距離。
人外と唯人を分かつ距離に、絶望する。
その絶望の最中、耳を劈く咆哮が辺りを駆け抜ける。
大きく見開かれた血走った翠色に光る眼。両腕両脚に集中された霊子。先程より巨大化した身の丈は、それは4足歩行にして人間の身長に迫ろうかという勢い。そして全身から立ち上る霊子。
――グオオオオオオオオオオオオォォォォォ――
新たな絶望が襲い掛かる。