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7  雛祭り

「あ、あなたは誰なの?」

 ミカが定子に尋ねる。


「我は、藤原定子。一条天皇の中宮である。そして、あの後におわす御方が一条天皇である」

 定子は、後を振り向いて手を差し伸べた。

 そして、再びミカを見て話した。


「さて、お前達神宮寺家は神功皇后の血を最も濃く引いておるのだ」


 ミカは少し頭を上げた。


「そうだ、お前は神功皇后の子孫じゃ」


 定子は語気を強めた。


「そして、狙われるのは三歳の女子(おなご)なのだ。三歳になるまでは気力が未熟で、三歳を越えると邪な気が入ってくる。三歳が最も美味しい時というわけじゃ」 


「ところで、霊界にいる我らが現世で動くには、依り代が必要であった」


「幸い、青墓宿に優れた傀儡師(くぐつし)を見付けることができ、その者に人形を作らせたのじゃ」

「その人形は、素晴らしかった。我らは人形に憑依して自由に動けたし、人形を核にして実体化する事もできた」


「しかし、お姉様の血を狙ってやってくる化け物どもをひとつひとつ退治していたのでは拉致が開かない」


「そこで、人形を堂々と飾れる雛祭りに、化け物どもを一堂に集めて退治する事にしたのじゃ」


「雛祭りの数日前から五人囃子が雅楽を流し、化け物どもを呼び寄せていた。そして雛祭り当日に三人官女の踊りと親父どのの酒で一堂に集めたのじゃ」

 

 ミカは、はっとした。

 それで雛人形を飾ってから夜中に雅楽が聞こえていたのか。

 三人官女も、官女にしては何だか色っぽかったのもそういう訳だったのか。

 

 定子が話していると三人の水干姿の男達が入ってきた。おごめん、と言って定子とミカの間に入る。そして首を落とした鬼の体と頭ををズタ袋に入れると、重い重いと言って三人で持って部屋から出て行った。


「だ、誰?」

 ミカが定子に尋ねた。


「あれらは、仕丁じゃ。首を落とした化け物達を片付けておる」


「片付けるって、持って帰るのですか」


「バカを言え。そんな面倒な事をするか。全部、庭に埋めてしまうのよ」


「ええっ、うちの庭に埋めるの!あっそういえば仕丁人形の一人がスコップを持ってた」



「さて、化け物どもの後片付けも済んだようだから帰るかの」

 定子は後ろを向いて頼光達に目配せをした。


 後ろを向いた定子にミカが声をかける。


「あっ、待って。なら、どうして5年前、本家の女の子は死んだの?」


 定子は、振り向いた。

「それじゃ、5年前の女子(おなご)の母親もお前と同じ様に化け物が見える者じゃった。それゆえ雛人形が化けものどもを呼び寄せると思い込み、雛祭りの日の直前に雛人形を箱の中に片付けてしまいよった。しかし、その時には、我らが引き寄せた化け物どもで家の中は溢れかえっていたから、女子は化け物どもに引き裂かれてしもうたのじゃ」


「我らにはどうすることも出来なかった。残念じゃ」


「心音は、特別お姉様の血を濃くひきついでおるな。お姉様が出てきたのは初めてじゃ」


「今度会う時は、お前の娘の雛祭りかもしれんな。それまで息災でおれ。これにて仕舞いじゃ」


 そう言うと、定子と男達は部屋を出ていった。


 私の娘・・。

 ミカは、少し照れ臭かった。

 

 下の階に降りて雛壇のある部屋に入って明かりをつけると、部屋の中は何も無かったように綺麗に片付いていた。

 雛人形を見ると、初めに見た生々しさは失くなっていて、ただの人形に見える。

 

 ああ、本当に帰ったんだな。

 ミカは心の中で思った。



 夜があけた翌日、雛壇の前で料理を並べて心音と詩織、母と父でお祭りをした。

 ミカも学校から帰ると雛祭りに合流した。

 皆、楽しそうだったが父だけが楽しみにしていた“宝寿”がいつの間にか空になっていたのでとてもガッカリしていた。


 雛祭りはそれなりに楽しんだが、ミカは雛祭りはもう懲り懲りであった。


 




 


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