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5 化け物達の宴

 少し開けたドアの隙間から外を見ても何の気配もしない。

 それで、もう少しドアを開けて頭を外に出したが、薄暗い廊下には誰もいない。

 その時、隣の部屋から笙の音が鳴り響き、雅楽の演奏が聞こえてきた。

 ミカの中に興味がムクムク沸き上がってきて、何が起こってるのか知りたくなり廊下に出た。

 隣の部屋から明かりが漏れている。

 部屋の前まで来ると襖が少し開いていた。

 そっと中を覗いてみて、固まった。

 幾つものロウソクの灯火に照らされて、大勢の異形の者達がいた。

 腕が何本も有る者。ざんばら髪の中に角が生えている者。尻尾の有る者。大人より大きい者。ネズミの様に小さくてまん丸な者。

 正面の雛壇の横で白い装束を着た男達が笛や太鼓、笙を演奏している。

 その右奥では女が舞を踊っている。襖の隙間からではよく見えないが。

 異形達は、楽しそうだ。皆、酒を飲んでいる。


 あれは、お父さんが大事にしまっている幻の清酒“宝寿”だ。

 ええっ、あの体中ブツブツのカエルみたいなのが使ってるカップは、私の一番のお気に入りの。


 雛壇を見ると男雛、女雛がいないそれにその下の三人官女、五人囃子もいない。


 もしかして雅楽を演奏しているのが五人囃子で、踊っているのが三人官女なのか、まるで普通の人のようだ。


 すると、四段目の人形の右大臣と左大臣が動き出した。

 右大臣がトコトコと雛壇の端までやってくると膝を曲げて飛び降りた。するとみるみる大きくなり人間の男子になった。

 左大臣も反対側から飛び降りると、人間の大きさになった。

 二人とも精悍な武者姿だ。


「よいぞ。頼光、綱」


 ミカの直ぐ近くから声がした。ミカの見ている隙間からは死角になってだれが言ったかわからないが、女の声だった。


「こい、風切り丸」

 左大臣が叫ぶ。


「こい、水切り丸」

 右大臣が叫ぶ。


 すると、あの重たい長細い箱が震えた。箱の横板に細かく筋が現れたかと思ったら、カチカチと音を立てて出たりへこんだりして複雑な動きをすると箱が開いた。そして中からふた振りの刀が飛び出して来た。

 二人の武者は、刀を取るや否や目の前の異形の者達の首を刎ねた。

 返す刀を振り下ろしては、次々と異形のくびを切り落としていく。

 突如起こった事に、異形達は騒ぎだした。

 二人の武者に恐ろしい形相で飛び掛かるが、二人とも流れるように翻っては、化け物をかわし、首を刎ねていった。


 ミカは、目の前に広がる光景を見て呟いた。


「頼光、綱?源頼光、渡辺綱のこと?酒呑童子を倒したあの。」

「大変、心音を守らないと」


 ミカはその場を離れると玄関まで行き階段を上がった。


 心音は、詩織夫婦の部屋で子供用のベッドで寝ている。

 ミカは詩織達の寝室に入り、部屋の中を見回して、心音を見つけると真っ直ぐに心音のベッドに向かった。

 詩織達は目を覚まさない。覚ますことが出来なかった。


「見付けた」


 そう言うとミカは、心音の首を鷲掴みにして布団から引きずり出した。

 

「ううう」

 心音が苦しそうなうめき声をあげる。




「おかしい。手応えがなさすぎる」

 大方の異形の首を刎ねた源頼光が呟いた。


「確かに、もっと大物の鬼の気配がしてたんだが」

 渡辺綱が答えた。


 それを聞いていた中宮定子がハッとする。


「もしかして、幼子のところか」

「急げ、頼光」


 源頼光は部屋を飛び出すと玄関の階段をかけ上がった。

 それに続いて、中宮定子と渡辺綱が部屋を飛び出た。







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