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09_5カードハイ&ロー~VS青山遥~

 一回目。じゃんけんの結果、青山が先攻に。


「どれにしよーかなー。どれも捨てがたいけど最初は無難にこれなのかなー」


 のっけから饒舌な独り言が始まる。手札を一枚一枚上げたり下げたり忙しい。制限時間をフルに使う気だ。


「ねえ遥、それだと見にくく……」


 片峰の口をやんわり手で塞ぎ、青山はしーっと人差し指を立てる。そして手札を束ねてからシャッフルし始めた。

 まずい、完全に見抜かれている。最初の時点でもばらけていただろうが、念には念を入れてまたかき混ぜるとは慎重な奴だ。


「はい、ローだよー」


 右から二番目のカードを伏せた。通じないとわかっているのに意識してしまうのは、一試合目が影響しまくっている。

 手札の位置から考慮せずとも、初手は2から4のどれからだろう。1と5はまだ出すには早すぎる。

 だとすれば、4ローでも対応できる④だ。


「んー、今回はちゃんと考えてたねー」

「……まあな」


 ④を出しても青山の表情は緩いまま変わらない。これもある意味ポーカーフェイスだ。

 答え合わせとなり、青山のカードが表に変わる。

 ここで勝ってしまえばだいぶ楽になる、頼む!


「はいあたしの勝ちー」


 願い届かず、表になったカードは5。


「いきなり5だと?」

「ずっと持ってても使い道に困るしねー。さっさと捨てておくのだよ」


 それは後々のブラフか判断に困る。1がどのタイミングで現れるのだけは注意だ。

 いきなり黒星をつけられてしまったが、二回目こそは勝たねばならない。

 俺も⑤を出して勝つべきか? だけどこれは必勝カードだ。先に2勝、いや1勝してから使いたい。使うタイミングは四回目に取っておこう。


「あと五秒よ真加部圭馬!」

「ロー!」


 片峰タイマーにより、慌ててカードを出してしまった。一分だったらもう少し最適解を導けたと思うのだが、自分の思考力の遅さが恨めしい。


「ローなんだ? ならこれにしよっかなー」


 含みのある言い方をして、青山はたった数秒で3を置く。判断が早いのは適当か、それとも計算し尽くしたうえなのか。

 これは、まずい。

 おそるおそるカードをめくると、青山はわざとらしく驚いていやがる。


「あらー同じカード? これでリーチだねーラッキー」


 ③ロー3につき、青山の二連勝。

 とうとう崖っぷちに追い込まれてしまった。


「ま、まだだ。ここで俺が三連勝すればいいんだろ」

「うんうん心意気は大事だねー。ならここは勝ち星をプレゼントしてあげよーか、ロー」


 伏せカードに『↓Low↓』の紙切れ。落ち着いて状況を整理しよう。

 俺の手札が①、②、⑤で青山が1、2、4となり宣言はロー。

 1は除外として2なら②と⑤、4なら⑤だが、負けが許されないなかで②のリスクは大きすぎる。

 そうなると⑤一択になるが……


「その邪魔な⑤をさっさと捨ててほしーんだよねー。一勝はあげるから出しなよ」


 あいつの笑顔に腹黒さが垣間見えた瞬間である。片峰といい青山といい、可愛らしい顔してなんて性格だ!

 そろそろ片峰タイマーが鳴り出す頃なので迷っている暇はない。


「ちくしょう、⑤だ!」


「おめでとー」と青山は4のカードをめくり、4ロー⑤でようやく俺の一勝。

 続いて四回目は俺の先攻。ここで⑤を出すはずだったのに計画が台無しだ。

 絶対に許さん、なんとしてでも逆転してみせ……


「………………あれ」


 お互いの手札は1と2。俺が一勝で青山が二勝。三勝したほうが勝者。

 もしかしてだ。もしかしてだが。


「さーさー早く出しなよ真加部くんや」


 青山の指で机を叩く音が俺を焦らせる。

 俺の計算が正しければ、もうこの勝負は。


「……ハイ」

「ってことは①なわけだからあたしも1にしよっ」


 表向きになる俺の①カードと、むなしく揺れる『↑High↑』の紙切れ。

 どんな数字で宣言してもハイなら1で詰み、ローなら2で詰んでいる。

 決着は三回目の時点で決まっていたのだ。


「というわけであたしの勝ち。いやー良い勝負だったねー。こういうのってだいたい初手で流れが決まっちゃうけどね」

「すごい、すごいわ遥! やっぱりあなたただ者じゃなかったのね!」


 抱きつく勢いで青山に寄り、片峰はさも自分のことのように喜んでいる。


「完敗だよ青山、お前は本当に強かった……またこうして戦える日を楽しみにしてるぜ」


 惜しみない賞賛を送り、俺は帰り支度を済ませようとする。

 今日の青春支援同好会の活動は終了。一足先に帰らせていただきます。


「じゃあな」

「いや待たれい。勝負の前に言ったことを覚えてるよねー?」


 やはり許してはくれないかと、観念して鞄を机に降ろす。

 ではでは片峰に再現してもらおう。


「片峰、1から5のカードをもう一度手札として持ってみてくれ」

「え、う、うん……こう?」


 そこで無造作に持っていればいいものの、律儀に並べるから俺に利用されるのだ。後ろから見ている青山も苦笑している。


「いまからお前の手札を左から当ててやろう。ずばり左から1、2、3,4、5だ!」

「…………当たってる。なんでわかるの?」

「それはね千景ちゃん。きみがそうやって左から小さい順に並べるクセを、彼は練習中に気づいてしまったわけなの」

「………………じゃあ、さっきの勝負は!」


 ついに真相へと辿り着いた片峰。あまりにもどうしようもない真相は、後にも先にもこれだけだ。


「はい、お前が先攻のときはなに出すか全てお見通しでした」

「――!?!!?!?!!」


 俺の胸ぐらをつかみそうな勢いで片峰は立ち上がる。間に机がなければ危なかったかもしれない。


「インチキ、イカサマ、カンニング、ズル! 勝負っていうのは正々堂々と行うものなのよ、それをあなたは恥ずかしくないの!?」

「だるまさんがころんだで悪魔の所業をやりやがった奴がなに言ってんだ! これも立派な戦術だろうが!」

「いーえ、今回ばかりはあなたの反則よ! 本来なら負けにしてもいいとこだけど、遥に免じて引き分けにしてあげてもいいわっ」


 またこのパターンか! と叫びたいところだが、俺がルール外の戦い方をしたのは事実であり、なによりそれを第三者に見抜かれてしまったことが一番の原因だ。

 バレなければ問題なかったのだが、バレた以上はごねるのも情けない。


「ならさー、二人でもう一回やれば? 今度は手札ちゃんと隠して真剣勝負」


 青山の提案に、俺と片峰は息を呑む。

 確かに、ぐだぐだ口喧嘩するよりもう一勝負したほうが手っ取り早い。

 だが。


「やらない」

「ぴったり声が揃うって気持ちいいよねー」


 俺と片峰の答えは、拒否。秘策も失ったし、正直このゲームで勝つ自信がない。やるならもう少し自主練してからにしたい。

 片峰の考えはきっとこうだ。初見だからこそ俺に勝てると踏んだが、練習含めればすでに三回も実践している。

 もしこの真剣勝負で負けたら言い訳の余地がなくなる、と。


「……じゃあ引き分けってことで」

「ああ、それで手を打とう」


 引き際はあっさりと。一波乱はあったが、今回の勝負も無効試合で終わりを迎えた。


「……帰るか」

「ええ、帰りましょ」


 どうやらトランプは置いておくようだ。


「おもしろかったけど、あたし的には五枚だとちょっと物足りなかったかなー。七枚とか九枚とか、なんならトランプ十三枚使ってやればまた戦略の幅が広がりそーだけど」

「無理だ十三枚もあったら頭がパンクする」

「その場合、サーティーンカードハイ&ローになってちょっと長くなっちゃうわね」

「略せ、13ハイローでいいだろ」


 部室を出ても、5ハイローの内容で会話が満たされる。なんだかんだで結構白熱してしまった。

 こうして青春支援同好会の初日は幕を閉じるのであった。

 いつか青山にリベンジを願いたい。


『5カードハイ&ロー』~両者引き分け(青山の勝利)~

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