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07_5カードハイ&ロー

 放課後に生徒会へ提出すると、あっさり申請が通ってしまった。生徒会長いわく「他に比べればまともだからよし」とのこと。いままで断られた申請は百を超えるという。


「はい、じゃあこれが鍵ね。ちゃんと帰宅するときには職員室に戻すこと」


 職員室で部室の鍵を受け取り、早速俺達は部室へ向かう。ついでに部活のパンフレットをもらったので片峰は読みながら歩いている。


「あまり見てなかったけど、この高校って部活や同好会多いのね」

「部活動が盛んな高校で有名だからねー。部活の数だけ青春はあるのだよ」


 家からそこそこ近いという理由で選んだから、三野原高校にそんな特色があったとは知らなんだ。


「なんかおもしろい部活とかあるか?」

「手品部なんて楽しそう。あとはおまじない同好会とかトランプ愛好会とか」

「おすすめは手芸部から独立したコスプレ衣装製作部だねー。お洒落な衣装たくさん作ってるんだよー」

「本当にいろいろあるな……」


 四十は超える部活数、一筋縄じゃないものあるのだろう。ここもそのうちの一つになるかもしれない。


「でもよかったねー申請通って。同好会になっちゃったけど」


 三人では部活設立の条件を満たさなかったため、同好会へと変更。部費はもらえないが部室はもらえたのでよしとしよう。

 離れの部室棟はL字構造で、青春支援部改め青春支援同好会は三階の端っこになる。

 三階の内廊下を渡る途中、表札のない部室扉がちらほら見受けられる。青山の言ったとおりまだ空きがあるようだ。

 指定の部屋へと辿り着き、片峰がそっと鍵を開ける。いよいよ部室とのご対面だ。


「まあそりゃ殺風景だよな」

「でも最低限の椅子と机はあるわね」


 教室の半分以下であるが三人なら充分すぎる広さ。置いてあるのはパイプ椅子四つと長方形の折りたたみテーブル二つ。他に備品が入り用なら生徒会に依頼するか、自分達で調達するかだ。いまは特にこれ以上いらないだろう。

 なにはともあれ念願の部室。青山は窓からの景色を眺め、片峰は部屋全体を把握するようにうろちょろしている。俺もすぐに帰るのはもったいないし、椅子に座って本でも読むとしよう。

 本を取り出す瞬間、対面から片峰が控えめに机を叩いた。


「決戦の舞台は整ったわ……いまこそ勝負よ、真加部圭馬!!」

「いや、今日はやめようぜ。そんな気分じゃないんだが」

「え……そ、そう」


 持参したのか、片峰の手にむなしく握られているトランプ。半分冗談のつもりだったんだが、そう落ち込まれると心苦しい。


「わかったわかった勝負しようぜ」

「そ、そうこなくっちゃ! あなたに拒否権はないんだから断っても無駄だし!」


 この豹変っぷりよ。一喜一憂っぷりが激しくてなかなか愉快だ。


「トランプでやんのか? ババ抜き? 七並べ? それともスピードか?」

「いいえ、いまから行う勝負は5カードハイ&ローよ!」

「……ふぁいぶかーどはいあんどろー?」


 聞き馴染みのないゲームだ。ハイ&ローだけなら、伏せた数字が大きいか小さいかを当てるものだとわかるのだが。


「初めてやると思うから、まずは練習しながらルール説明するわね」

「なになに勝負するの? 千景ちゃんの隣で見てよー」


 ギャラリーも増えたところで、片峰先生からのルール説明が始まる。

 初めに1から5のカードを、お互いに一枚ずつ配られた。


「その五枚のカードを交互に出し合って勝負するの。最初に先攻後攻を決めるんだけど、今回は練習だからわたしがお手本を見せるわね」


 この五枚が手札となるわけか。

 早速、片峰は手札の真ん中から3のカードを抜いて、表向きで置いた。


「ハイ!」


 ……追加で元気な発声と『↑High↑』という手書きの紙切れを添えて。


「これはどういう意味で?」

「『あなたが3よりも上のカードを出すだろう』と宣言したの。ここでわたしのターンは終わって次はあなたが出す番。わたしの宣言と違うカードを出せばあなたの勝ち、わたしの宣言どおりのカードを出したらわたしの勝ちってこと。ちなみに3を出してもあなたの勝ちになるからね」


 つまり先攻の片峰は3のハイを宣言したから、後攻の俺は3以下のカードを出せば勝ちになる。逆に、4以上を出せば負けとなるわけだ。


「じゃあ2でも出すか」

「これであなたの一勝目ね。これを先に三勝するまで繰り返すんだけど、一度使ったカードは次から使えなくなるから、二回目は残り四枚で続けるわけ。一回目はわたしが先攻だったから、今度はあなたが先に出すの」


 となると次の俺は1、3、4、5のいずれかを、ハイかローを添えて出さなければならない。


「あと、今回は練習だから表にしてるけど、先攻は裏向きで出すのよ。じゃないと後攻有利になっちゃうんだから」

「なるほどな……そしたらこいつを伏せて出してローって言えばいいんだな」

「はい、ローカード」


 片峰お手製『↓Low↓』の紙切れもやはりあった。Highもそうだがちょっとデコレーションしてる。


「本来なら、この伏せたカードを後攻が予測するって感じなんだな。で、回を進むごとにお互い出せるカードが少なくなると」

「飲み込みが早いわね。これはただのハイ&ローじゃない、相手との心理駆け引きを兼ね備えた頭脳戦になるわけよっ!!」

「へー結構しっかりしたルールだねー。おもしろそーっ」


 確かにちょっとおもしろそうだ。だるまさんがころんだや即席間違い探しとは違い、なかなか手の込んだ用意をしてくれる。


「5カードハイ&ローだっけ、これって片峰が考えたのか?」

「ううんおばあちゃんが教えてくれたの。わたし、しょっちゅうおばあちゃんと戦ったから大得意なんだからっ」

「得意ではなく大得意と申すか」

「ええ、残念だけどこの勝負は一朝一夕でどうにかなるものじゃないの。積み重ねた経験が勝利の鍵を握ると言っても過言じゃないわね。初心者にはちょっと厳しいかも」


 大言壮語も大概にしろよとかおばあちゃん以外に対戦相手はいたのかと物申したいことは山ほどあるが、そこまで言うなら俺も本気で姑息な手段に移ろう。

 まだ憶測でしかないが、片峰には大きな弱点が潜んでいる。


「なあ、よかったらこの練習、最後まで続けさせてくれないか? 実はまだルールがよくわかってなくてさ、表向きのままやってもいいかな?」

「仕方ないわね、気の済むまでやりなさい」


「ふふん」と髪を揺らしてすっかり上機嫌な片峰先生。隣の青山が飼い犬のように頭をなでていらっしゃる。

 最後まで続け、練習試合は片峰の勝利に終わった。

 一通りの流れは把握できたし、なにより本番前にじっくり観察できたのはありがたい。


「どう? 理解できたかしら」

「おかげさまでな、充分すぎるほど理解したぜ」


 お互いに不適な笑みを浮かべ、再び五枚のカードを両手で構える。


「念のため確認しておくぜ。このゲームで、敗者は勝者の言うことなんでも聞いてくれるんだよな?」

「ええ、そうよ。今回ばかりは引き分けなんてありえない。必ずどっちかの勝ちが決まる……五年越しの雪辱に終止符を打たせてもらうわ!」

「望むところだ!」

「青春だねー」


 いざ、勝負。

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