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05_間違い探し

 放課後、例の中庭ベンチに一番乗り。少し遅れて片峰達もやってきた。


「あ、もういる」

「俺の勝ちだな」

「別にいまは勝負してないし」

「仲いいんだねー二人は」


「よくない」と声を揃えてしまい、余計に青山を誤解させてしまう。ともかくこれで出発できる。


 駅近くのファミレス『サイデリヤン』はまだこの時間帯だと空いている。窓側のテーブル席へ案内され、俺の向かいには片峰と青山が座った。


「でねー、いろいろ聞こうと思ったんだけどここ来るまでに片峰さんが教えてくれたからもう聞くことないや」

「おい」


 とはいえこれで解散とはならず、各々好きなものを注文する。女子陣はパフェやケーキを頼んでいるが、俺は小腹が空いたのでナポリタンを。

 料理を待つ間、こちらから青山に聞いてみる。


「昼休みのとき、なんで青山は俺達に関わってきたんだ?」


 すっかり溶け込んではいるがあまりにも唐突な乱入なのは間違いない。できればきっかけを知りたかった。


「んー、二人って昨日公園で遊んでたでしょ? あたしあの近くに住んでるから帰り道に偶然見ちゃったんだよねー」

「マジかよ……」

「わたし達の激闘にこっそりギャラリーがいたってわけね」

「激闘じゃねえ泥仕合だ」

「それでこの二人おもしろそーだなーって思ったの。実は教室で片峰さんに話しかけるタイミング伺ってたんだけど、話しかけんなオーラまとっててなかなか難しくてねー。そしたら昼休みに真加部くんと逢い引きしてたから、これはチャンスだと混ざったわけなのだよ」

「逢い引きじゃねえ連行だ」

「……わたしってそんなオーラ出てた?」


 聞き捨てならなかったのか、片峰は思わず自分の体を見回している。それでオーラがわかれば苦労しない。


「いつも本読んでるし下向いてるからかなー。でも案外とっつきやすい子だってわかったし、これからはガンガンいくよー片峰さんっ」

「う、うん。お手柔らかにね」


 片峰とは毛色の違う押しの強さ。片峰が剛なら青山は柔ってところだろう。


「で、次はどんな勝負するか決まってるの? あたしが見届けるよー」

「まだ考え中。すぐやってわたしが勝っちゃったらつまんないもの」

「なんならいまからくる料理の早食い対決でもいいぜ」


 相手がスイーツでも負ける気はしない。俺の早食いスキルを見せてやろう。

 ところが片峰はぶんぶんと首を横に振る。


「ちゃんと味わって食べたいからそういうのはしない」

「偉いねー」


 俺の浅はかな提案は却下されてしまう。まあ、勝負がないなら穏やかに済みそうだ。

 すると青山が、端に立てかけてあるラミネート加工の用紙を取り出した。


「じゃーさ、この間違い探しで勝負しない? 誰が一番早く全部見つけるか競うのっ」

「間違い探し?」


 サイデリヤンお手製の間違い探しは、暇潰し用に作られたコンテンツだ。最初は幼児向けだったはずが、大人も夢中になるほどの人気となりいまではこれ目当てに通う人も多い。

 ただ、この間違い探しには大きな罠が潜んでいる。


「おもしろそうね、それにしましょう! 悪いけど勝利はもらったようなものだけど」

「随分な自信だな。実は答えわかってるとかだったらやらねーぞ」

「初見に決まってるじゃない、わたしサイデに入ったの初めてなんだから……ただおばあちゃんとよく間違い探しはやってたから得意なのよね、ふふん」


 悲しい事実を添えて得意顔をされると哀れみの表情を送りたくなる。条件が平等なら受けてたってやろうじゃないか。


「じゃあ、先に見つけたほうが勝ちな」

「あたしも参加していい? あたしが勝っても罰ゲームとかなしでいいからさー」

「もちろんよ、一緒に真加部圭馬を倒しましょう!」

「俺は魔王かなんかか」


 それぞれ手元に配られ、暇潰しもとい三人の勝負が始まった。

 間違い探し――ルールは至って簡単。二つの絵を見比べて異なる箇所を探すゲームだ。今回は十個も間違いあり、わかったら用意されたペンとメモで書き記す。誰よりも早く間違いを探せたら勝ちとなり、たとえ早く終わっても間違えていたら失格だ。当然カンニング禁止。


「ちなみに料理がきたら食べてもいいからねー。じゃーよーいスタート!」


 青山の合図で俺達は間違い探しをまじまじと覗き込む。これもまた、はたから見れば異様な光景かもしれない。

 初めは鼻歌交じりに答えを書いていく片峰だったが、次第に難色を示すようになる。

 だが気持ちは大いにわかる。このサイデリヤンの間違い探し、やたら難易度が高くて有名なのだ。半分くらいは簡単に見つかるものばかりだが、血眼になって探さないと発見できないものがいくつか存在する。片峰はそれにぶちあたったのだろう。

 おそらく進捗は互角。あとはどちらが先に高難易度ポイントを探せるか。

 感覚を研ぎ澄ませろ、見落とすな。

 心を無にし、間違いだけを映したまえ。


「はーい終わったよー」

「はやっ!!」


 俺と片峰の声が重なる。俺がアホな精神統一をしている間に、青山はあっさりと探し終えてしまった。


「だけど間違ってたら失格だぞ。もう少し時間かけたほうがいいんじゃないか?」

「えー合ってると思うんだけどなー。まーいーや、まだ二人とも時間かかりそうだし見直しでもしてますか」


 悔しい。こうなりゃ誤答を期待して片峰よりも早く探し当てるしかない。


「さーさーがんばってー。あたしは先に食べてるからねー」


 これ見よがしに青山はショートケーキの苺をつまんでいる。俺達の料理もきているがそれどころではない。片峰もチョコレートパフェに手をつけずじまいだ。

 ナポリタンから放たれる熱気が、匂いが、我を食べろとせがんでくるようだ。腹は鳴るし間違いは見つけられないしで落ち着いてなんかいられない。


「んーおいしー。ケーキはやっぱスポンジが大事だよねー」


 青山の食レポを聞き流し、ちらりと片峰を見る。

 得意とはなんだったのか、必死に左右の絵を何度も見比べていた。


「ポテトとか頼めばよかったかなー。でも太っちゃうか」


 開始してから二十分以上は経っただろうか、未だに俺達は苦戦している。


「あと一個なんだよ。あと一個が見つからないんだよ」

「わ、わたしも残り一個だし。もう九個はとっくに見つけてるんだから」

「むなしい対抗意識だねー」


 もう隅々まで見比べたはずだ。地面の境目、太陽の位置、雲の形、どれも見落としていないはず。

 ふとナポリタンに視線が移る。ウィンナーが小さく重なっていてなんと愛らしい姿よ。もう少し待っていてほしい、これが終わったら全部たいらげるから……


「…………重なる、そうか!」


 ナポリタン及びウィンナーに敬礼。おかげで残り一つの間違いがわかった。


「よし十個見つけた! 答え合わせしよーぜ青山!」

「おっけーおっけー、待ちくたびれちゃったよ」


 これで青山が間違えれば繰り上げ当選で俺の勝ちになる。俺はそれを願うしかない。


「ちょ、ちょっと、まだわたし見つけてないんだけど」

「もう諦めろ、俺と青山の頂上決戦を黙って見てるんだな」


 コツンと足首を蹴られた気がする。威力弱めのささやかな抵抗であった。


「じゃーわたしの答えを発表するね。まずこの雲の形が違うでしょ、それとー」


 青山の答えはいまのところ俺と合致しており、いよいよ残り一つに。まだ俺が最後に見つけた箇所は言っていない。

 頼む、間違っていてくれ!


「で、あとはこの豆が重なってるんだけど、左右でちょっと違うんだよねー」

「……無念」


 全問正解。おめでとうございます。


「どーやら同じ答えみたい? それじゃあたしの優勝でーす!」


 嬉しそうに両手を上げ、勝利のVサインをかざす青山。一方で俺と片峰は悔しそうに両手をテーブルに下げていた。


「おめでとう青山さん、どうやらあなたのほうが一枚上手だったみたいね」

「お前の場合一枚どころか五枚ぐらいは差があるだろ」


 またしても足首を小突かれる。少し威力が強くなってやしないか。


「青山には完敗だ、認めるよ……だけどお前には勝ったってことでいいんだよな、片峰」


 ギクッと擬音が聴こえるんじゃないってぐらいの体の震わせよう。

 これはあくまで俺と片峰の勝負であり、その延長線上に青山がいただけの話だ。

 俺が勝てば、片峰はなんでも言うことを聞いてくれる。忘れるわけがない!


「…………そんなわけないでしょ、ノーカン、不成立、無効試合!」

「なんでだよ!? 明らかにお前が最下位だろうが!」

「だって、青山さんが優勝した時点でわたしとあなたの敗北は決まったのよ? 順位の問題じゃないわ、勝者は一人以外ありえないんだから引き分けよ引き分け!」


 それらしい理屈を並べやがって。要は俺に負けた事実を認めたくないだけじゃないか。


「まーまー落ち着きなよ。確かにあたしが一番乗りなわけだし、今回は二人とも引き分けでもいいんじゃないかなー」


 青山からの助け船が差し出される。二対一では分が悪いうえ空腹の限界だ。


「ああもうわかったよ、青山に免じて引き分けにしてやる。だから俺はナポリタンを食うぞ」

「お腹空きすぎて考えることをやめたねーきみは」


 もはやすっかり冷めてしまっているが、焼きそばとナポリタンは冷めてもおいしい。


「あっ」


 チョコレートパフェに手をつけようとした片峰から、悲しい声が漏れる。


「……溶けてる」


 長時間の放置と俺達の熱気に耐えられなかったようだ。それでも残すことはせず、しょんぼりしながら液体チョコを飲み干す片峰であった。


「あなた、ケチャップほっぺについてるわよ」

「お前こそ口の周りチョコだらけだぞ」


 そうしてはにかみながらお互いの顔を拭き合う……はずもなく、睨み合いながら自分で拭き取っていく。その様子をなぜか青山は満足そうに眺めていた。


「いやー、やっぱりあたしの判断は正しかったなー」

「どういうこと?」

「内緒内緒ー。いやー青春の香りってのはいーものですなー」

「意味わからん」


 その言葉の真意を汲み取るには、もっと青山を理解する必要があるのかもしれない。片峰以上に難しそうだ。

 とにもかくにも、ごちそうさまでした。おいしかったです!


『間違い探し』~両者引き分け(青山の勝利)~

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