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23_靴飛ばし勝負(ブランコあり)

 移動した場所は、だるまさんがころんだをやったときと同じ公園。相も変わらず利用者はいないが丁度いい。貸し切りにさせてもらおう。


「懐かしいな、つってもまだそんなに日は経ってないけどここで最初の勝負をしたんだよな」

「……そうね。あのときは運悪く引き分けだったけど」

「運じゃねえお前がゴネたんだよ」


 こういうところは素直じゃないあたり、片峰千景はある意味芯がある。徹底して俺に負けたくない気持ちがおもしろいぐらいに伝わってくる。

 だからこそやはり、その気持ちを打ち砕いてやりたい。早速、目についたのは二つのブランコ。


「片峰、お前ブランコは得意か?」

「ブランコに得意も苦手もあるの? そりゃよくおばあちゃんと立ち漕ぎとかしてたけど」

「お前のおばあちゃんワイルドだな随分」


 俺がブランコに座ると、片峰も隣のブランコに腰を下ろす。ベンチ代わりとでも思っていそうだがそうではない。

 これを今回の勝負に使うのだから。


「よし、それじゃいまから靴飛ばし勝負だ!」

「…………はあ!?」


 ブランコを漕ぎながら宣言する俺に、片峰は面食らっている。いつもは逆の立場なのだから、たまには入れ替わってもいいだろう。


「ただ靴を飛ばすだけじゃない。ブランコを漕いで、その勢いで靴を飛ばす。どっちが遠くまで飛ばしたかを競う勝負だ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしはもうあなたと勝負は」

「なんだ逃げるのか? 天下の片峰千景さんがまさか棄権するなんてないだろうよ。それとも自信がなくて、俺に負けるのがよっぽど怖いのかね」


 実に低俗な煽りよう。青山相手なら鼻で笑われるだろうが、片峰になら充分すぎる名文句。


「冗談じゃないわ! あなたが連敗するのがかわいそうだからやめてあげたのに、そこまで言うなら受けて立とうじゃないの! 悪いけど靴飛ばしは得意分野よ、おばあちゃんが買ってくれた靴だったら見えなくなるまで飛ばせるんだから」

「お前の靴はロケットかよ」


 案の定、片峰はムキになって乗ってきた。テンションが高くなるとともにブランコの揺れも大きくなり、俺達は年甲斐もなく遊具を堪能している。子どもが来る前に終わらせたいところだ。


「決まりだな。勝負は一回のみ、より靴を遠くまで飛ばしたほうの勝ちだ」


 靴飛ばし(ブランコあり)――ブランコの勢いを利用して靴を遠くに飛ばせ! 靴のかかと部分を緩ませるのを忘れてはならない。


「まずは俺からだ……」


 存分に振り幅を広げ、なるべく前面に出たときが勝負。


「……いまだっ!」


 振り上げた右足から靴が発射され、ブランコ手前の安全柵を悠々と超えていく。飛距離ととしてはまずまずだ。


「さあ、次はお前の番だぜ」


 ふふんと鼻を鳴らし、片峰は徐々にブランコを揺らしていく。

 ここまでは互角、あとは飛ばすタイミング。


「わたしの……勝ちっ!」


 つまさきまで綺麗に伸びた右足は靴下だけとなり、肝心の靴の行方は。


「……あ」


 落胆の声が、片峰の口から漏れたのを聞き逃さない。

 速度は良かったが高さが足りていない。片峰の靴は安全柵にぶつかり、無残にも跳ね返されてしまった。

 結果は言うまでもなく、俺のほうが遠い。


「…………いまのはなしね」

「なしじゃねえありだよどう見てもお前の負けだ」

「だって柵にぶつかったのはアクシデントよ! あれがなければわたしのほうが遠くに飛んでたんだから! ノーカン、無効試合、引き分けよ引き分け!!」

「自分でミスっといてよくもまあ引き下がらないなお前は!」

「当たり前でしょ! あなたこそ引き分けにするくらいの器の大きさはないわけ!?」

「ねーよんなもん!」


 ひとしきり揉めに揉めた後、俺達は堪えきれず笑い合う。

 年甲斐もなくブランコを漕いで、子どもじみた遊びで争って、最終的には言い合いをして。

 あまりにもバカバカしくて、あまりにも滑稽で、あまりにもおかしくて。

 正直、今回の勝負に限っては勝っても負けても引き分けでもどうでもよかった。

 ただ、話す口実がほしいだけ。


「なあ、これからも俺と勝負し続けようぜ。やっぱり俺も、お前と勝負してるときが楽しいよ。そりゃ確かに最初はなんだこいつって思ったけど」


 ブランコの揺れが小さくなり、今度は俺が片峰をじっと見る。興奮冷めやらない片峰の顔は紅潮していた。


「なんだかんだで俺の学校生活は、片峰との時間が結構多いんだよ。勝負事が絡まなければ割と良い奴だし、俺もお前と一緒にいて楽しいよ。本の趣味も合うしプリン好きだしな」


 隠し事は九割なしで、俺も本音を伝えていく。

 これで茶化されるようなら辛いものがあるが、片峰は絶対にそんな振る舞いはしない。


「だから俺も言わせてもらう……同好会も、勝負も、少なくとも高校三年間が終わるまでは続けてみないか? あと……うん、そうだな」


 ちょっとだけ、ほんのわずかだがためらってしまう。小っ恥ずかしいうえに俺のキャラではないが、ちゃんと言葉にしなければ片峰には伝わらないだろう。

 だからこそ俺は、精一杯の優しい表情を投げかけてみせた。


「よかったら、俺と友達になってくれないか?」


 俺と片峰は、友達なんかじゃない。

 だけど、これからは。

 すっかりブランコの揺れは収まり、俺達は片足の靴が脱げたまま見つめ合う。

 片峰の表情が、少しずつ崩れていく。

 最初は目を丸くして驚きを隠せないでいたが、次第に細くなっていって。


「……うん、喜んでっ!」


 片峰は、泣いている。

 そして、笑っていた。

 不本意ながら、その泣き笑顔はとても美しい。


「ああもうずるいわよ、おばあちゃんのときだってずっと我慢してたのに、なんであなたが泣かせてくるのよ」

「泣かせるつもりはなかったんだが……でも、ありがとな」

「ううん、こっちこそ、ありがとう」


 俺と片峰は、ようやくこれで友達になれた。

 それでも俺達の勝負は続いていく。

 なぜならそれが、俺と片峰による原点なのだから。


「さて、とりあえず靴でも履きにいこうぜ」

「そうね……って、ひぁ!?」


 相変わらずこの片峰という注意力散漫娘は、片足で立ち上がった途端急にバランスを崩してきた。

 あらかじめ近くにいてよかった。片峰が倒れそうになる前に、俺は片峰を抱き寄せる。地面についている片方が裸足でも構わない。手押し相撲、片足立ちのときとは違い三度目の正直。今度は両方倒れずに済んでいる。

 とても、温かい。


「…………大丈夫か」

「…………あり、がとう」


 無事を確認し、そそくさと離れて近くの靴を履く片峰。遠くに飛ばしている俺のほうはまだ時間がかかりそうだ。


「靴を早く履く勝負はわたしの勝ちね」

「ふざけんなよなんでも勝負に繋げるのはやめろ」

「ふふ、冗談よっ」


 お茶目な一面を見せるのも、友達になれたからか?

 きっとこれから、まだまだ進展があるだろう。


「腹減ってきたな、どっかで飯食わないか?」

「いいわよ、あの間違い探しできるファミレスにしましょ」


 間違いなく間違い探しで勝負するに違いない。ややこしくなってきた。


「じゃあ行くか」


 靴を履いて、俺達は公園を出ていく。

 俺の隣には、足を揃えて片峰千景がいる。

 ふと、さっきお墓でおばあちゃんに伝えた台詞を思い出した。


 片峰のおばあちゃん。初めまして、真加部圭馬です。

 いろいろ心配かと思いますが、少しだけ任せてもらえると嬉しいです。

 できる限りの間、俺が片峰千景の側にいますから。


「ねえ、圭馬」

「なんだ…………千景」


 俺の名前呼びに、千景は珍獣でも見るかのような反応をしやがる。

 だけども千景は、とても嬉しそうにしていた。


「これからも、よろしくねっ」

「……ああ、よろしくな」


 一つだけ隠していることがあるが、まだ表には出せない。

 もう少しだけ、いまの関係を続けていきたい。

 次こそは、俺から先に打ち明けていければとは思っている。いつか、多分、そう遠くない日には、きっと、おそらく、多分、多分!


 俺は、片峰千景が好きだということを――


『靴飛ばし勝負 (ブランコあり)』~両者引き分け~

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