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12_告白

 青春支援同好会の存続を守るため、たまには当番制でちゃんと活動もしている。

 隙あらば次の授業の準備を手伝ったり、放課後は校内校外の掃除にも勤しんでいたりもする。やっていることはボランティアに近いが、これで部室が維持できるのであれば楽なものだ。


「変な会だけど助かったよありがとう。変な会だけど」


 放課後、化学準備室の整頓や掃除に励んでいた俺。化学教師に二度も変な会と称されたが、礼を言われるのは良い気分だ。

 これでまた一つ同好会に貢献できた。俺は副部長としての責務をちゃんと果たしているぞ。


「あー、圭馬くんやっほーおつかれー」


 部室には青山だけの挨拶が飛んでくる。いつもいるはずのあいつがいない。


「珍しく片峰がいないな」

「なんか急用ができたみたいだねー。でもすぐ戻ってくるらしいけど」

「急用って、あいつに友達いるのか?」

「さりげなく酷い発言をするねーきみは」


 なにも友達との急用とは限らないか。


「そういやそろそろ中間試験の時期か」

「あたし家だと集中できないからここで勉強だよー」


 青山の席には勉強道具一式が並んである。俺も家では捗らない派なので、同じく今日は自習時間にしてしまおう。


「圭馬くんって勉強できるほう? ここわかるかなー」

「任せな」


 青山の隣に座ると、ふわっと甘い香水の香り。座る位置を間違えたか少し体が近いのに、青山は全く気にする素振りはない。

 幸いにも俺の得意な化学、妹に教える要領で解説してみせた。


「なるほどねー。見かけによらず教え上手だね圭馬くんは。ありがとーっ」


 屈託のない笑顔で礼を言われると教えた甲斐もある。片峰と違って愛嬌の塊だ。

 互いに教え合ったりしばらく勉強に徹していると、やがて大きな音を立ててドアが開いた。

 その先には、ひどく狼狽した表情で息を荒げている片峰の姿。


「千景ちゃん? どうしたの?」

「………………」


 すぐには返さず、片峰は何度も深呼吸してからゆっくりと言葉を発した。


「こけ……こけ、こけ……」

「にわとりの真似か?」

「違う! こく、告白されたのよ!!」

「あらまっ! 相手はだれ? 同じクラス? かっこいい? どんな人ー?」


 目を見開いて驚く俺とは対照的に、青山は嬉々として迫り問い詰めていく。いかにも恋愛話好きそうなタイプである。

 俺は特に気にならないので座ったままだ。微塵も気にならないが、同じ会のよしみとして聞いておかねばならない。どんな物好きが片峰に惚れたというのだ。


「喋ったことないけど、同じクラスの……蒲瀬かませって人。顔は……そうね、真加部圭馬よりは整ってると思う」

「おい俺と比較するんじゃねえ泣くぞ」

「別に、あなたが格好悪いなんて言ってないわよ。あっちのほうが顔立ちがいいだけ」


 喜ぶべきなのか悲しむべきなのか判断に困る。

 どうやら急用というのは、蒲瀬という男子からの呼び出しだったようだ。


「それでそれで、どう返事したの? おっけーしちゃったりとかー?」


 なぜか、つんっと胸が痛くなる。

 どうして急に俺が緊張してしまうんだ。


「…………」


 肝心の部分を片峰は答えようとしない。

 すると青山の強攻策が発動、片峰のわき腹をくすぐり始めた。


「ちょ、や、そこ弱いから、やめ」

「話し始めた以上は最後まで教えてよー。じゃなきゃもっとすごいとこ触っちゃうよー」

「わかった、わかったからやめて、や」


 強張っていた表情も一時的に和らぐが、またすぐに戻って俺を見つめてくる。

 やけに涙ぐんで申し訳なさそうにしているのは、どうしてだろうか。


「…………勝負で返事を決めることになった」

「は?」

「あなたと蒲瀬って人で勝負して、あなたが勝てば告白は断る。負けたら付き合うって流れに……なった」

「…………はああ!?」


 意味不明、理解不能、彼女の言動行動に異常あり。突拍子のない巻き添えに、さすがの俺も顔がひきつってしまった。


「お前とその男の問題だろ!? なんで俺がそいつと戦ってお前との交際権利を死守しなきゃならないんだよ!」

「成り行きで仕方なかったの! わたしには倒すべき男がいるので、その男を倒してからにしてくださいって答えちゃって……」

「断り方ヘタクソか! 単純にお友達からとか適当に好きな人がいるとかで断りゃいいだろ! 倒すべき男がいるからってお前は修行僧かなんかか!!」

「だって、頭がぐるぐるしてわけわかんなくなっちゃったから、他に考えられなくて……」


 普段なら負けじと強く言い返すだろうに、今回ばかりは自分に非があるとわかってか弱気な姿勢でいる片峰。少し言い過ぎたかもしれないが、こいつには正座させて二時間ぐらい説教しないと気が済まない。

 ただでさえ告白というのに気が立っているのに……

 いや、どうしてその時点で、俺が気が立っているんだ?


「まーまー落ち着きなよ圭馬くん。あまり知らない人にいきない告白されたら、そりゃびっくりすると思うよー。千景ちゃんなりに相手を傷つけないように断ったみたいだし」


 うん、うんと涙目で片峰はうなずく。なんだこの状況は、まるで俺が泣かせたみたいじゃないか。


「決まっちゃったもんはどーしよーもないんだしさー。圭馬くんはどうするの?」

「どうするってなにをだよ」

「勝負だよ。蒲瀬くんって人に勝たなきゃ千景ちゃんは付き合っちゃうんだよー」


 ずきっと、またしても胸が痛む。


「……もし俺が戦いたくないって言ったらどうなる」

「んー、そりゃ不戦敗ってことで蒲瀬くんの勝ちじゃない?」


 理不尽。俺のがんばり次第で蒲瀬くんが報われるってどういうこっちゃ。

 いまのところ勝負する気は毛ほどもないが、前提として片峰に聞かなければならない。


「お前、その蒲瀬って奴とは付き合うつもりはないんだよな?」

「……うん」


 どうして俺には言いたい放題言えるのに、他の奴には人見知りを発揮してしまうのだろう。頭を抱えたくなるが、もしも深層心理で俺に頼ろうとした結果なのだとすれば。


「……考えとくから少し時間をくれ」

「わかった……その、ごめんなさい」


 今日は長居せずに、片峰はすごすごと部室から出ていく。残っている青山は、俺に対して少々呆れ気味であった。


「んもー素直に受けてあげればいいのに。千景ちゃんがかわいそーだよ」

「もともと俺には関係ない話だろ。あいつ一人でなんとかすればいいんだ」

「でもさー、圭馬くんだって千景ちゃんを他の人に渡したくないでしょ?」

「……言ってる意味がわからんが、別に好きにすりゃいいさ」

「ふーん、好きにすればねえ……」


 すると青山は口元を緩ませ、俺に向かって急接近。俺が椅子に座っているため胸元が顔に迫り、淡い緑色のリボンがゆらゆらとはためいている。


「じゃーさ、あたしと試しに付き合ってみない?」

「……は?」


 あまりにも突然の提案だった。

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