番外編6.『シュクリ』のカフェ
「お嬢様、大変です!」
「どうしたの?」
普段落ち着いているケイトが慌てた様子でやってきた。
「『シュクリ』がカフェをオープンするそうです」
「えぇっ⁉」
『シュクリ』というのは、私とケイトが気に入っている菓子店だ。
持ち帰り用の生菓子と焼き菓子を販売していて、店内での飲食は扱っていなかったはずだ。
「それが、大通りの一角に空き店舗があったのですが、そこに出店するそうなのです」
「そうだったのね」
「他の皆様からもカフェを併設して欲しいという要望が元々多かったみたいで、決まったそうです」
「楽しみだわ」
「行かれたら、感想をお聞かせください」
「ケイトはいかないの?」
「私も行きたいですが今は予約が取れないと聞いております」
「なら、私も無理ではないかしら。予約が取れるようになったら、二人で行きたいわね」
「嬉しいです。楽しみにしておきますね」
そんな会話をした週の終わりだった。
「『シュクリ』のプレオープンの招待状が届いた。来月の第二週の週末は予定を空けておいてくれるか?」
「えっ」
驚く私にクロード様はなんてことないように言う。
「ケイトから、ジュリアがその店を好きだと聞いている。手配できるかは確実ではなかったから言わずにいたのだが、もうその日は何か約束を入れている?」
尋ねられ、首を振る。
「そうではなく。まさか、そんなことまでしてくださったなんて、信じられなくて」
「婚約者を喜ばせたいと思うのは普通のことだ」
「嬉しいです」
そう返事をするのだった。
そして当日。
甘めのピンク色のドレスに、婚約指輪。
クロード様に贈られたもので着飾って、馬車で向かった。
開店のお祝いにクロード様と連名でお花を贈ったのも無事に届いているようで、目立つ位置に飾られている。
招待されているのは、『シュクリ』の常連客のようで、高位貴族の姿もちらほら見かけた。
数日前に一度店舗の身内でもプレオープンをやっているようで、今日は爵位持ちを中心に集めているようだ。
招待客の中に気難しいと有名な大臣の姿を見かけ、目を瞬かせる。
大臣は奥方連れで、クロード様と私を見つけると驚いたように目を見張りにこやかに話しかけてきた。
「これは、魔術師長殿、いやここでは、魔法伯とお呼びした方が?」
「大臣、プライベートですので、どうかクロードとお呼びください」
「わしもここではトンプソンで良い。クロード殿は甘味はそこまでと思っていましたが、ここをご存知だったとなると、意外とそうでもなかったのですかな?」
「甘味も好きですが、ここの事は婚約者のジュリアに教えられました」
二人の視線が私に向き、一礼する。
「ジュリアと申します」
軽く一礼すると、大臣はうむうむと頷いた。
「なるほど。ご婚約者のことは色々と聞いておりますが、……お幸せのようですな。仲睦まじきは良きことです」
「トンプソン様はこの店のご常連なのですか?」
「わしのところも妻が好きでな」
「ご夫婦仲がよろしいのですね。私達は婚約したばかりで。長じてもトンプソン様ご夫妻のようにありたいものです」
「お上手ですな。いやぁ、クロード殿にこんな一面があったとは。ははは。今日は、お互いパートナーを楽しませるとしましょう」
大臣は上機嫌に去っていき、ほっとする。
「ありがとう、ジュリア」
「私は何も……」
クロード様がこっそり言う。
「あの人とこんなに長く話せたのは初めてだ」
「えぇっそうなのですか?」
驚く私にクロード様は囁くように言う。
「その、誤解はしないで欲しいのだが、私はジュリアが喜ぶと思って、予約したんだ」
「わかっておりますわ」
ふふ、と笑っていると、案内が来て、席へと案内された。
案内された席はホールの方の席だった。
席と席の間は広めに取られているので、クロード様にエスコートされ席に着く。
「こちらがメニューとなります」
メニューを広げると私は小さく歓声を上げる。
「わ、素敵!」
シュクリでもともと扱っていたケーキ類も美味しそうだが、店舗ではパフェも出すようだ。
一番にそちらに目が惹かれるが、よく見ると、ケーキ類も店舗で扱っていた物だけではなく、こちらの限定品や、小さめにカットされたケーキを三つ選んで一つのプレートにするメニューもある。
サンドイッチなどの軽食系メニューもあって、付き添いの男性にも配慮されていた。
本当に、どれを選ぼうかと悩んでしまう。
「クロード様……」
「ん?」
「これは決められないです……」
私の絶望した視線に、クロード様は思わず驚いたように目を見張る。
だが、私は真剣だった。
頻繁に来られるのならば、また次回にしようと思うこともできるが、今日が終わればしばらくは予約が取れないと聞いている。
だから余計に迷ってしまうのだ。
「なら、食べたいのをいくつか選んで、食べられなかった分を私が食べてもいいが」
「そんなこと許されるのですか?」
目を見張る私に、クロード様は頷いた。
「他のテーブルでもやっているようだ」
クロード様の視線の先を辿ると、先程のトンプソン夫妻が、取り皿をもらってケーキを取り分けている姿があった。
「なるほど。あのようなこともできるのですね」
「ジュリアが迷っているのは?」
「三種のケーキプレートと、パフェの間で迷っています」
「なら、私がこの三種のケーキプレートを一つ頼むから、ジュリアが食べたいケーキを選ぶいい」
「よろしいのですか! ありがとうございます」
そして、なんとか迷いながらもケーキを決め、運ばれてくるのを待つ。
運ばれてきたのは、メニューで見た通りのフルーツを沢山使ったパフェとケーキ。
そして、フルーツティ。
こちらも、迷っていたら折角だからとクロード様が頼んでくださったのだ。
店に伝えれば、ケーキもカットしてくれた。
早速、ケーキの皿に手を付ける、私は感激で震える。
「どうしよう、とっても美味しい……」
買ってきてもらって屋敷で食べる時もとても美味しいと感じるが、何かが違うのだろうか。
次はどうしようと思って、パフェに目が留まる。
「そうだ、クロード様は、パフェは召し上がりますか?」
「私はケーキだけで大丈夫だ」
そういうことならばと、私は遠慮無くパフェに手を付ける。
「これ、アイスなのね……」
口に入れると雪のように淡くとけていってしまう。
ケーキを食べる間もとける様子がないので、クリームかと思っていた。
不思議に思ってフルートグラスを眺めると、クロード様も気になったようだ。
「どうかしたのか?」
「このパフェ、アイスが使ってあるのですが、とける様子が無くて」
「ほう?」
クロード様は興味深げにしばらくパフェを眺め、あぁ、と頷いた。
「この器の模様に、状態維持の魔術がかかっているようだ」
「そのようなこと、できるのですか」
「できるようだが、この器はガラスだろう? かなりの技術が必要だと思う。……これは、私の方の店でも取り扱うことができないか、後でここのオーナーに確認してみよう。ジュリア、教えてくれてありがとう」
「いえ、そんな。私こそ、こちらに連れてきてくださってありがとうございます」
「私こそ、ジュリアが喜んでくれて嬉しいよ」
そうして、私達はパフェとケーキを満喫すると、屋敷の皆にお土産のお菓子も買って、帰宅の馬車に乗るのだった。
異世界恋愛大賞、応援してくださってどうもありがとうございました!
残念ながら結果はふるいませんでしたが、今後も頑張って参ります。
新作の方始めておりますので、興味がありましたら読みにきてくださると嬉しいです。
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