番外編5.お祝いの日(後)
前菜の次に運ばれてきたのは、野菜をゼリーで固めたお料理だった。
透明に見えたゼリーにも味が付いていて、とても美味しくいただいた。
その次はスープ、魚料理と順に出され、今はメインのお肉料理が運ばれて来たところだ。
ローストした牛肉に、彩りの香草も添えられている。
切り分けるとお肉はとても柔らかく、一口食べると肉汁が口の中に広がった。
「おいしいですね。あっ、私、ずっとおいしいとしか言っていませんね」
「気にしないよ。それに、そんなに気に入ってくれたのなら嬉しい」
微笑ましげに私を見つめるクロード様の視線を気にしないように、私は手元の皿に視線を落とす。
ふと疑問が湧いて私は尋ねた。
「そういえば、クロード様は、どのようなお肉が好きとかございますか?」
「特にこだわりはないな……。おいしければ、何でも好きだ。元々、好き嫌いはない方だしな」
クロード様は「それに」と私の方を見つめて、続ける。
「こんな風にジュリアとゆっくり時間を取って食べるのが一番、食事をおいしくしている気がする」
「そ、そうですか」
顔が赤くなってしまっているだろう。
クロード様は楽しげに目元を和らげる。
「ここにも、また来よう。それに、他にも行ってみたい店は何軒かあるんだ。ジュリアは好き嫌いは?」
「私も特にはございません。何でも食べられます」
「そうか。なら、どこにでも行けるな。ジュリアも行きたいところができたら教えて欲しい」
「考えておきます」
そんな話をしている間にメインのお皿を食べ終わり、最後のお皿が運ばれてきた。
苺を使ったケーキと小さな器に入ったムース、ショコラのケーキ。
それらが飴で飾りつけられている。
「かわいい……!」
見た目も可愛く、どれから食べるか迷ってしまう。
感動しているとふと視線を感じ、そちらを見ると、柔らかな眼差しでこちらを見ているクロード様と目が合った。
「えっと……?」
どうしたのだろうと首を傾けると、クロード様が言う。
「ジュリアが、あまりにも可愛らしくて」
「み、見ないでください」
「それは無理だ」
言い切られてしまって目を丸くする私に、クロード様は微笑むと、自分の皿から苺とクリームをフォークですくって差しだしてくる。
「苺は、クロード様もお好きではないのですか?」
「好きだが、ジュリアを見ないなんて無理だから、詫びだと思ってくれ」
「そんな……」
恨めしげにフォークの先を見つめる私に、クロード様はふふっと笑みをこぼす。
「食べないと、クリームが落ちてしまうぞ」
「……もう、許したわけではないですからね」
そんなことを言いながら、フォークに口をつける。
「あっ、おいしい」
ツンとした苺の酸味が、クリームで和らいでいく。
はっとしてクロード様を見上げると、しっかり見られていたようだ。
「見ました、よね?」
頷くクロード様に、私は自分の苺のケーキを同じようにすくった。
「クロード様にも、食べさせてさしあげます」
「オレに?」
驚いたように眉を上げるクロード様の前に、フォークを差しだす。
「とっても美味しかったですよ」
そう言って微笑むと、クロード様は観念したようにパクリと一口で食べてしまう。
「本当に、うまいな……」
クロード様も予想以上の味に驚いたようだ。
「それに、ジュリアもこうして食べさせてくれるとは思わなかった」
ふっと緩んだ視線は、先程までより甘さを増していて、私は耐えられずにデザートプレートに視線を落とした。
「他のも、食べてみますね」
「そうだな」
これ以上追い詰められなかったことにほっとして、今度はショコラのケーキに手をつけるのだった。
食事が終わり、食後のお茶が運ばれて来たタイミングでクロード様が口を開いた。
「ジュリアに渡したいものがあるんだ」
そう言って、小箱を取り出すと、立ち上がり私の方まで来てくれた。
「婚約指輪が届いたんだ」
クロード様は私の隣に立つと小箱を開けて、中身を見やすいようにしてくれる。
そこには、大粒のイエローダイヤモンドと、そのイエローダイヤモンドを囲むように小粒のダイヤを散りばめた豪華な指輪があった。
「もう届いたのですね……! 素敵……!」
婚約指輪は、先日クロード様が注文してくださっていた。
宝石商が屋敷まで持ってきた宝石の中から私が石を選び、デザインはクロード様が考えたものだ。
「手を」
そう言われ、差しだした左手の薬指にクロード様が指輪をつけてくれる。
「うん。よく似合う」
「……ありがとうございます」
クロード様は満足げに頷く。
「この指輪は、学園に通う時も付けておいて欲しい」
「えぇ?」
何故わざわざそのようなことを言われるのだろうか。
首を傾ける私に、少し言いにくそうにした後にクロード様は言う。
「ジュリアが私と婚約したことは周知してあるが、念のためだ。それに、この指輪にも結界魔術の術式を仕込んであるから」
「わかりました。ですが、あの」
「うん?」
「その、そろそろ手を」
そう。何故かクロード様は指輪を付けた後も私の手を支えるように持ったままだ。
「あぁ。すまない。ジュリアが私の色を纏ってくれているのが嬉しくて」
そう言うと指先に唇を落とし、離してくれる。
「っ、クロード様っ」
動揺する私に、クロード様は笑みを維持したままだ。
「もう、驚かせないでくださいませ」
「驚かさなければ、いいのか?」
そう言って、クロード様は瞳を楽しげにきらめかせる。
あっと思った時には既に遅く。腰を曲げ、耳元に唇を寄せたクロード様に、「今度は唇にいいだろうか」なんて低く囁かれ、私は答えに困ることになるのだった。
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