番外編1.お出かけ
クロード様の屋敷での生活にも慣れ、学園に復帰したある日のこと。
珍しく私の学園の休みに、クロード様のお休みが重なり、二人で町に出かけることになった。
「屋敷で不自由はしていないか?」
「はい。皆様に良くしていただいています」
折角同じ屋敷にいるのに、なかなかゆっくり話す時間は取れない。
朝食か夕食は一緒にとるようにとしているけれど、最近はクロード様のお帰りが遅く、朝少し顔を合わせるだけになっていた。
隣に座っているクロード様を見上げ、私は気になっていたことを口にした。
「クロード様は……、その、大分お疲れのようですが、本当に出かけて大丈夫ですか?」
目の下にある隈が心配になるほど濃くて尋ねると、クロード様は頷いた。
「この位は大丈夫だよ」
何でも無いという様子だが、信じてしまっていいだろうか。
そんな風に思っていると、耳元で囁かれる。
「それに折角ジュリアとの婚約期間なんだ。婚約者らしいことを沢山しておきたいんだ」
それに、とクロード様は微笑みながら続ける。
「ジュリアと出かけることの方が、家で寝ているよりも何倍も休息になる」
その言い方は、ずるいのではないだろうか。
「私も、今日を楽しみにしておりました」
張り合うようにそう口にすると、クロード様は嬉しそうに笑った。
そんな話をしている間に、馬車は貴族街の端にあるとある邸宅に到着した。
見せたい物があると言われ、エスコートをされ、馬車を降りる。
「こちら、どなたのお屋敷ですか?」
「師匠の持ち物だが、今は借りている」
「借りる……?」
「今度ここで事業を始める予定で、ジュリアに一番に見てもらいたかったんだ」
「事業……? 忙しくなさっていたのは、もしかして、王宮での仕事の他に、お仕事をなさっていたのですね」
だからあんなに忙しそうだったのか。
納得する私にクロード様は頷くと言う。
「さぁ、入ろう。見せたい物は中にあるんだ」
ホールに入ると、中は趣味の良い調度品が並べられ飾られていた。
その様子は貴族のお屋敷というよりは、美術館に近い。
そのままの感想を口にすると、クロード様は微笑む。
「そう見えるなら、こういう形で飾って正解だったな」
「美術館をはじめられるのですか?」
だが、クロード様は微笑んだまま首を振る。
「違うよ。正解を見に行こうか」
そして、ホールを通ってダンスホールへと案内される。
ダンスホールは厚いカーテンで窓は覆われており、青白い魔術の光が室内を照らしていた。
「一度暗くなるけれど、隣にいるから安心して」
クロード様との手も繋いだままで、怖いことは無いと頷いた。
一瞬の後に暗くなり、足下からいくつもの光の粒が沸き立つように浮かび上がる。
「えっ……⁉」
驚いている間に、光の粒は集まり手の平に載るくらいの大きさに成長していく。
そうしながら、赤や青、黄色や桃色にゆっくりと色を変え、まるで、沸き立つ光の泡の中にいるような感じがする。
「すごい、綺麗……!」
光の粒に照らされたクロード様の顔に満足げな微笑みが浮かぶ。
「気に入ってくれた?」
「はい! とても……!」
「もっとすごくもできるんだ」
クロード様が指を鳴らし、合図をすると光の粒が部屋の中央にいる私達の周りに集まってくる。
「わぁ!」
思わず手を伸ばすと、光の粒はふよふよと近寄ってくる。
触れることはできないのに、差しだした手の上に光の粒が乗る。
「そろそろ終わりだよ」
そう言った瞬間、光の粒はパッと弾けるように部屋中に散り、再び部屋は暗闇に包まれた。
ゆっくりと部屋に明かりが灯され、クロード様にエスコートされて部屋を出る。
そのまま、ダンスホールの隣にあるティルームに案内されて、席に着いた。
「とても、素敵でした……!」
「喜んでくれて嬉しいな」
クロード様の表情はとても柔らかい。
「あれは、クロード様が魔術を振るわれたのですか?」
隣に居たクロード様にそのような素振りはなく、気になって尋ねるとクロード様は首を振る。
「いや。簡単な魔術だから、魔法陣と魔石で行った。意外と簡単な魔術でできるから、魔力があれば誰でも魔法陣を動かせるようになっているんだ」
「どうしてですか?」
「この屋敷を貴族にも開放して、いずれは平民が住む場所にもこういった場所を作って、身分を問わずに魔術を楽しめる場所を作りたいんだ」
驚く私に、クロード様は続ける。
「オレはたまたま魔力が多く、師匠に拾われてその才能を伸ばすことができた。でも、才能があっても、平民は才能に気づくことはできない。だから師匠がオレを見つけたように、オレも何かできないかと、思ったんだ。こういった場所で魔術に慣れ親しめば、将来の選択肢に魔術師を考える子も出るんじゃないかと思って」
「とても、素敵なお考えですね」
「そう言ってくれて嬉しい」
少し照れたような表情を浮かべるクロード様に、私も学園を卒業したらその手伝いをしたいという想いが芽生える。
そんな内心を知らず、クロード様は悪戯気に微笑む。
「ここで、カフェも併設しようと思っているんだ。その味見も頼んで良いかな」
「もちろんです」
奥の部屋から侍女が出てきて、メニューを広げてくれる。
そこに並ぶのは、どれも私が好きなメニューだ。
「これ……」
「オーナーの特権だね。今日だけ特別メニューに変えてある。何でも頼んでいいよ」
そして、食後も他の部屋に用意された魔術を楽しみ、一日を過ごすのだった。
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