64.エピローグ
気がつくと、私はクロードの腕の中に居た。
場所は先程と変わらず、屋敷の中のクロードの研究室のようだ。
「クロード様……?」
クロードはくしゃりと泣きそうに顔を歪めると、より強く私を抱きしめる。
状況はよくわからないものの、私はクロードの頬に手を伸ばした。
「……ちゃんと、覚えています」
「ジュリア……、ありがとう」
「なんでクロード様が? お礼を言うのは私の方です」
「そんなことはない。オレを信じてくれたから」
そんなことかと思って微笑んで、クロードの方に向かって伸び上がる。
柔らかな唇に触れたのは一瞬だった。
「なっ」
それでも、泣きそうだったクロードの顔が一気に真っ赤に染まっていく。
私も同じように真っ赤になっているだろう。
「クロード様、愛しています」
そう告げると、クロードの頬はますます赤く染まり、今度はクロードの方から口づけられる。
今度こそ、愛されたいと思っていた。
でも、一度、過去をやり直した今、私は、愛されるだけでは満足できない。
クロードを愛し、愛される、そんな未来を願ってしまう。
私は深くなっていく口づけを受け止めて、クロードの背に手をまわした。
その後、クロード様に抱えられたまま部屋に運んでもらった。
魔術は成功し、クロードには無事に魔力が戻ったそうだ。
クロードが作った魔術は、私の魔力を使って発動する物だったので、私は魔力の使いすぎで倒れてしまったと聞いた。
念のため、一晩様子を見るとのことだったが、私としては退屈を持て余している。
「これから、何をしようかしら」
やりたいことは沢山ある。
エリクがどうしているか、まずは手紙を書いてみようと思っている。
それに、ナタリアとも会いたい。屋敷に呼んでも良いか、クロードに聞いてみないと。
クロードとの結婚式はまだ先だけど、その準備も少しずつ進めていく必要がある。
色々あるけれど、一番は、クロードのことをもっと知りたい。
こんなにも助けてもらっているのに、私はクロードについてほとんど知らない。
生まれや育ちは軽く教えてもらったけれど、好きな色は何色か、どんなものを好きなのか、食べ物の好みは?
これからは、そんな恋人みたいなやりとりができるのだ。
(恋人……)
想像してしまって、お布団の中に潜り込む。
さっきは思わず自分から口づけてしまったが、どうしてあんなに大胆なことが出来たのだろう。
一人でジタバタしていた時だった。
「ジュリア様、起きていらっしゃいますか?」
ドアの外からケイトの声が聞こえた。私がゆっくり休めるようにと隣室に控えていてくれたのだが、何かあったのだろうか。
「ケイト? ええ。起きているわ」
「クロード様がいらしておいでです」
「わ、わかったわ」
その声に、慌てて身だしなみを整える。
「大丈夫よ」
声を掛けるとクロードが入ってきた。
「様子を見に来た。具合は?」
「元気です。でも、少し退屈しております」
「顔が赤いが……」
「……それは、さっきのことを思い出していたので」
正直に告げると、クロードの方も顔を赤くする。
「そ、そうか」
動揺するクロードに、私は言う。
「お仕事はよろしいのですか?」
「あぁ。今日明日は、時間を空けていたから」
クロードも、私が記憶を失った場合のことを考えてくれていたのだろう。
「……一応、家でできる仕事も持って帰っていたのだが、ジュリアが気になって、他のことが手に付かない」
えっと思ってクロードを見上げると、クロードは躊躇いがちに言う。
「もし体調に問題が無さそうなら、少し話をしないか? もちろん、具合が悪くなればすぐに退室する」
「はい、よろこんで」
私はその提案に、クロードも同じ気持ちだったのだと嬉しくなりながら頷いたのだった。
こちらで完結となります。
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